2010年06月07日

そらまめ式絵カード療育法 (15)

こちらのシリーズ記事、久しぶりに再開します!

5.スケジュールを教える

(1)スケジュールの意味


さて、絵カードの重要な活用法として、「子どもの要求を周囲(他人)に伝える」という使い方をまず実践したわけですが、その次に重要だと思われるのは、絵カードを使って「活動のスケジュールを子どもに教える」ということなのではないでしょうか。

重要だ、と考える基準は、シンプルに「子どもにとってのニーズの高さ」というところに視点をすえています。
自閉症児はコミュニケーションに障害をもっているとされますが、特に絵カードの必要性が非常に高くなるような、ことばのない(ことばの発達のおくれの大きい)自閉症児の場合、単純に「ことばが出ない」と考えるのではなく「コミュニケーションという概念そのものを持っていない」と考えるところから始めるべきでしょう。

つまり、ことばが出ない自閉症児を「コミュニケーションしたいけどことばが使えないから言葉がでない、覚えられないから使えない」という状態だと考えるべきではないのです。
そうではなく、「コミュニケーションしたいというニーズそのものがまだ確立していない」、言い換えると「まだコミュニケーションを『発見』していない」状態だと考えたほうがいいと思われます。

ですから、絵カードによる「コミュニケーション」を教えるときも、子どものなかに最初から「コミュニケーションそのものへの欲求がある」という前提で働きかけの進め方を考えるのではなく、もっと単純に、「自分だけではかなえられない欲求、ニーズがある」ことを発見させるところから出発しなければならないことになります。
そのうえで、「子どものニーズを満たすために必要なやりとりを実現する」ために、絵カード交換を「手段として」教えるのだ、と考えるわけです。コミュニケーションというのは手段であって目的ではないのです。(当然ですが、絵カードを教えることも「手段」にすぎません。別に子どもが習得しやすいいい方法があれば、絵カードにこだわる必要はまったくありません。)

そのように考えていくと、最初に、絵カードを使って要求のコミュニケーションを教えた理由もわかってくると思います。
それは、「欲しいものを手に入れる」ということは、子どもにとってもっとも端的で切実な「ニーズ」だからです。
そのニーズを満たそうとしたときに、自分で動いて手に入ればそれでいいのですが、どうしても他人(例えば親)に動いてもらうしかない場合もたくさんあります。そんなときに、パニックとかクレーンで表現するのではなく、絵カードという「道具」を使って要求を表現することで、少ないエネルギーで社会適応的に要求を表現できるように仕向けていく(結果として、その要求自体が「通る」可能性も高めていく)のが、「絵カードによる要求表現を教える」という働きかけの意味だと言えるでしょう。

それでは、絵カードによって要求を表現できるようになった自閉症児にとって、その次に「切実」なニーズは何でしょうか。

それは、「将来への見通しについての情報を得ること」だと、ここでは考えたいと思います。

自閉症の障害の本質の一端には、リアルタイムに起こっているさまざまな「動的な」事象を「一般化」して、ルールに則った安定した「静的な」世界観を獲得することの困難がある、と考えられます。(この辺りの考察の詳細については「一般化障害仮説」についての過去のシリーズ記事を、さらに詳しく知りたい方は拙著「自閉症―「からだ」と「せかい」をつなぐ新しい理解と療育」をご覧下さい。)

そのような困難の一つの現われが、「時間」という概念を獲得することの難しさなのかもしれません。
なぜなら、時間という概念は、目の前のありようとしては刻一刻と変化している、極めて動的なこの世界を「安定したもの」としてとらえたうえで、その安定した世界がたった1次元の「時間」という軸に従って緩やかに変化していくという「世界観」であり、そういった「世界観」のもとに、世界への認知を再構成することに他ならないからです。

いずれにせよ、多くの自閉症児が、これから何が起こるのかという、時間軸にしたがった「将来の見とおし」を持つことに困難を持っていると考えられます。
ですから自閉症児には「今から、どんなことがどんな順番で起こるのか」ということを知ることに強いニーズがあると言えるでしょう。

そこで登場するのが、「絵カードを使ったスケジュールの提示」です。
「絵カードによる要求のコミュニケーション」が、「ことばによる要求のコミュニケーション」の代替であることは分かりやすいのですが、「絵カードによるスケジュールの提示」については、特に健常の子どもにスケジュールをわざわざ教えるということをしないことから、なぜそれが自閉症児にとって重要であるかが少し分かりにくいと感じられるかもしれませんが、それは、上記のように、自閉症児がもつ認知スキル上の特別なニーズにもとづいていると考えられるわけです。

・・・能書きが長くなってしまいましたが、絵カードによる療育の根幹にまず「要求」、続いて「スケジュール」をおくのは、これら2つが、自閉症児にとってもっとも切実なニーズに対応していると考えられるからであり、この2つを突破口にして、自閉症児にとって元来希薄だと考えられる、「コミュニケーションそれ自体の意味・重要性への気づき」を喚起することができると考えているからです。

これら2つのコミュニケーションを適切に教えることができれば、ケースによっては自然なかたちで「音声言語によるコミュニケーション」への移行も実現できるでしょう。なぜなら、コミュニケーションの道具としては、絵カードよりもことばのほうが利便性が高いため、音声言語を使いこなせさえすれば、「自然に」絵カードから音声言語への移行が起こると考えられるからです。
また、仮にそういった移行が起こらなくても、絵カードを使ったより複雑で高度、多彩なコミュニケーションの展望が開けてくるでしょう。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
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