さて、それでは、自閉症の認知システムの問題をこのモデルから理解したところで、じゃあどう働きかけていったらいいのか、ということについても、このモデルから考えていきたいと思います。
Slide 13 : 自閉症への働きかけモデル(図)
Slide 14 : 自閉症への働きかけモデル:キーワード(1)
この一般化障害仮説で問題になっているのは、単純に一般化処理が弱いということじゃなくて、一般化処理が弱いために、相対的に抽出処理が強くなりすぎているというアンバランスさです。
このアンバランスさがあるために、ひ弱な一般化処理がもちこたえられる限界を超えて外からの情報が入ってきて、オーバーフローを起こしてしまって、その結果、うまく環境とかかわっていくための知識が身についていかない、ということなわけです。
もちろん、だからといって、私たちは脳に手を突っ込んで、流れ込んでいく情報を制限したり、一般化処理に気合を入れたりすることはできません。
というか、ここで言っている脳の情報処理プロセスというのはあくまでも機能としてのモデルなので、脳のこの部分が一般化をやっています、だからそこに電極を差して刺激を与えれば能力アップします、とかいうことではないんですね。
でも、私たちができることはあります。
それは、環境の側、より厳密にいえば、環境と自閉症の人との「接点」に働きかけて、環境からの刺激、情報の量と質をコントロールすることです。
先ほどから言っているように、私たちは自閉症の人を前にしたときに、脳を直接なんとかしようとしたり、目に見えない、さわれない「こころ」に働きかけたりしようとする必要はありません。
もっと具体的に、自閉症の人が環境と接している、目に見える「接点」に対して、目に見える働きかけをすればいいわけです。
すごく簡単に言ってしまえば、環境からの刺激や情報の「量」は、できるだけ減らしたほうがいいことになります。そうしないとあふれてしまうわけですから。
でも、ただ単に情報を減らしてしまったら、それは環境から学ぶべき情報の量も減らしてしまうわけですから、かえって発達を阻害してしまう可能性が出てきてしまいます。
ですから、ここで大切なことは、全体としての環境からの刺激、情報の量は減らしつつ、重要な情報は減らさない、つまり環境からの情報を、量は少なく質は高い、そういうものにしていくことです。
質というと分かりにくいかもしれませんが、簡単にいえば、次の3つにまとめられるでしょう。
1つめは、どう行動すればいいかのヒントになるような「手がかり」刺激を分かりやすく示すこと。
2つめは、環境に働きかけかけた結果としての「フィードバック」刺激を分かりやすく返してあげること。
そして3つめは、無視したほうがいいような「ノイズ」刺激をできるだけ減らすことです。
このうち、1つめと3つめは、TEACCHの構造化の概念にそっくりです。
TEACCHの「構造化」という働きかけは、環境を改変して、必要な情報をできるだけ分かりやすく与えて、不必要な刺激はできるだけ与えないような、そういう特別な環境を作っていく取り組みです。
これは、環境から入ってくる情報の質と量をコントロールする働きかけです。
2番めのものは、ABA、行動療法でいうところの「即時強化」、つまり、お子さんが何か行動を起こしたとき、それが適切ならほめたりごほうびをあげたりしてすぐに強化し、不適切なら無視したり適切な行動に誘導したりすることで、いまの自分の行動がよかったのか悪かったのかがすぐに分かる環境を作ってあげる、ということです。
これは、行動の結果に対するフィードバックを、わかりやすい形で人為的に与えていることになるわけです。
自閉症の療育ということではTEACCHとABAは2大巨頭といっていいと思いますが、なぜこの2つがこれまでも自閉症の療育に高い効果をあげてきたのかが分かる気がしますね。
つまり、ABAとTEACCHは、着目しているポイントは少し違いますが、いずれも、自閉症の人が環境とかかわるときにつまづいているポイントを、うまく支援する、目のつけどころがとてもいい療育法になっているわけです。
そして、私たちが働きかけることができるポイントは、この3つだけではありません。
(次回に続きます。)
何人かの精神科医(たとえば中井久夫氏など)も臨床の極意?はいろいろな理論のいいとこ取りであり、臨床家にとって大切なことは患者が回復することであると書かれていました(とても大雑把なまとめですが)。
続編の早い掲載を楽しみにしています。
コメントありがとうございます。
本エントリを楽しんでいただけたようで、嬉しく思います。
今週も、このシリーズ記事の続編を掲載しました。今週の記事で、「一般化障害仮説」についての講演原稿の部分は、一応終わりです。(あと1回、「内容ふりかえりクイズ」の回が残っていますが(笑))
よろしければご覧ください。