行動科学で人生を変える
著:石田淳
フォレスト2545新書
人生は行動の積み重ね―まえがきにかえて
第1章 人生を変えるマネジメント手法
第2章 「物事が続かない」のは、なぜ
第3章 こうすれば続けられる
第4章 「続ける技術」の実践
第5章 ビジネスでの行動科学マネジメント(基本編)
第6章 ビジネスでの行動科学マネジメント(実践編)
第7章 行動科学マネジメントを応用
行動科学マネジメントの「続ける技術」を実践した方々の声!
当ブログ殿堂入りの「おかあさん☆おとうさんのための行動科学」(レビュー記事)の著者であり、恐らく一般には「続ける技術」という著書で最も有名な、ABAコンサルタントの石田淳氏の最新刊です。
出版元がわりとトンデモっぽい本も量産しているフォレスト出版で、(だからでしょうが)本書のタイトルも「人生を変える」とかなり大上段に構えたものになっていますが、中身を読んでみると、なかなか正統派の、行動分析のライフハック的応用の入門書に仕上がっています。
全体の構成をみると、第1章で「行動科学」(本書では石田流にアレンジされた行動分析をこう呼んでいます)とはどんなものなのかについての概要が説明され、続く第2章で続けるのが難しいこと(禁煙、ダイエット、自己研鑽など)がなぜ「続けにくいのか」の理由が行動科学から説明されます。そして第3章・4章では、ABC分析やスモールステップなどのABAのさまざまなテクニックを応用した「続ける技術」が解説されていきます。
ここまでが「セルフ・マネジメント」、自分の行動を自らコントロールするための手法についての話題で、その後は第5章・6章の、部下を育て組織を動かすための「行動科学のビジネスへの応用法」に続き、最後の第7章では苦手なことの克服や子育てなどに行動科学を応用するためのヒントが書かれています。
以前ご紹介した「おかあさん☆おとうさんのための行動科学」がABAで「子どもを変える」「子育てを変える」ことに特化した入門書だったのに対し、本書は「自分自身の行動を変える」「続けたいことを続ける」をテーマの中心に据え、そこからさらに広げて「ビジネスへの応用」「子育てへの応用」などもカバーすることで、より幅広く「生活(=人生)全体」にABAを応用するための入門書になっている印象です。
応用しようとする範囲が広いのに対して、書面スペースは薄い新書1冊と限られるために、逆に、これまでの本以上に行動の「原理」に重点がおかれた内容になっています。
オリジナルの行動分析と比較すると、石田氏の「行動科学」はビジネス・生活むけにかなり大胆にアレンジされている部分もありますから、本書の内容がそのまま行動分析とイコールだとはいえませんが、それでも、強化・消去・罰・ABC分析・機能分析・代替行動分化強化・スモールステップ・シェイピング・トークンエコノミー・行動契約といった、ABAで扱われる重要なトピックが、(アレンジはされているものの)ほぼ網羅されています。「系統的脱感作」まで紹介されている(実際に紹介されているのはより現代的な「暴露法」になっています)のはちょっと驚きですね。
ですから、その気になればこの本を「石田流・ABAの教科書」として読んでしまうことも十分可能です。(そう読む場合、かなりクセのある「教科書」であることは間違いありませんが(笑))
例えば、第1章の冒頭がこんな風に「行動の定義」から始まっているのを見れば、「確かにこれはABAの教科書っぽいかも?」と感じていただけると思います。
いきなりですが、あなたに問題です。
「しっかりやる」
「モチベーションを高める」
「コミュニケーションをとる」
「絆を深める」
「集中する」
これらの言葉のうち、「行動」と呼べるものはどれだと思いますか?
……実は、どれも「行動」ではありません。(初版18ページ)
この冒頭の導入からも感じられるとおり、本来、かなり難解なABAの概念とその実践方法が、前提知識ゼロでも容易に理解できるように、徹底して噛み砕かれ、分かりやすく説明されています。
全体の構成がありがちなライフハック本っぽくなっていて(特に、最終章に「わたしはABAでこんなに成功しました!」という体験エピソードが大量に掲載されているのにはちょっと笑いました)、新書の表紙が全面ピンクに黒字、しかもタイトルが「人生を変える」となっていることもあいまって、ぱっと見の印象としてはやや怪しげな雰囲気が漂っている気がしないでもないですが、中身はしっかりしています。
この「分かりやすくて、かなり俗っぽいポピュラー啓蒙書に踏み込みつつも、ぎりぎり『ちゃんとしたABA』の領域に踏みとどまる」という芸当こそが、石田氏の真骨頂だと思います。
↑派手なピンクの表紙の新書です。
もちろん、本書はそのまま「自閉症療育へのABA活用」につながるというものではないでしょう。
本書では、第7章に子育てに関するトピックが5ページあまりにわたって取り上げられていて、即時強化の重要性やスモールステップで達成感を与えるなど、参考になるアドバイスも盛り込まれていますが、そこだけに関心があるなら、やはり「おかあさん☆おとうさんのための行動科学」のほうが活用しやすいと思います。
ですから本書は、むしろ私たち自身の「療育行動」の自己管理にABAを応用しつつ、「ABA的考えかた」の基本もついでに学ぶ本として読むのがいいでしょう。
私たち自身も、やろう、やらなきゃいけない、と思いつつ、続けられないことがたくさんあります。
例えば、毎日30分のABAを家庭療育としてやっていこうと決心したのに、ついサボって続かない、といったことはよくあると思います。
そんなとき、ABAを学ぶ身として私たちがまず考えるべきことは、「どうやったら子どもをABAでトレーニングできるだろうか」ということ以前に、「どうすれば自分が続けられないという問題をABAで解決できるか」ということです。私たち自身も、当然ながら、「ABAの枠組み」の中にいます。
笑い話みたいになってしまいますけど、ABAを勉強して「望ましい行動を見につけ、継続させる方法」を理解する前に、教科書が難解なために、「ABAを勉強する」という行動自体が続けられなくて挫折してしまう、ということが結構あるんじゃないかと思います。
大学で教科書に使われるような本は特に難解ですが、比較的易しいとされる「教育者・親御さんむけの本」でも、ふだん本を読む習慣のない方や、そもそもABAを知らない、興味がないという方に手にとってもらえるほど「分かりやすい」ものではないように思います。
そんな時こそ、石田氏の本の出番です。
以前ご紹介した「おかあさん☆おとうさんのための行動科学」しかり、本書もしかり、石田氏の本は、誰にでも、すぐに最後まで読みきれるような読みやすさと短さのなかに、ABAのエッセンスと「望ましい行動を身につける」「続けたい行動を続ける」ためのABAの実践方法の基礎がしっかり盛り込まれています。
厳密なABAの理論書的なものを求めるニーズとはまったく違う方向性ですが、「本当にやさしい、誰にでも読めるABAの入門書」から始めたい、あるいはまだABAを知らない/興味のない方(配偶者、親戚、指導者、上司、知人など)に、ABAとはどんなものかを知ってもらいたい、そういったニーズにしっかり応える本として、おすすめできます。
※余談ですが、前回の「おかあさん☆おとうさんのための行動科学」のレビューを書いた少し後に、縁あって石田氏と直接お話をさせていただく機会がありました。
石田氏は、本書の帯やウェブサイトなどに掲載されている写真どおりの、若々しくエネルギッシュな方で、ABAを日本のビジネス界に普及させていきたいという夢を語る姿が印象的でした。また、現在でも行動分析学の勉強会などに参加され、行動分析の最新の動向を追っていらっしゃるそうです。
私は、「ABAを日本一やさしく語れる人物」、ABA界随一の「エンターテイナー」として、石田氏を応援しています。
非常に多作な方で、著作の出来・不出来、著作間の内容のかぶり等もけっこうあるという印象も持っていますが、自閉症児の親御さんや支援者にとって役に立つ本は、今後もどんどん紹介していきたいと思います。
当初は「やさしく語れる脳科学者」として応援していたのに、どんどんトンデモ脳エッセイストと化してしまってがっかりのモギケンのようにならないかが若干心配ですが、「人生を変える」なんてキワドイ企画に乗りながら、ちゃっかりこれだけ正統派の(教科書としても読めるくらいの)ABA本に仕上げてしまう力量を考えれば、そんな心配は無用だと思います。(^^)
※その他のブックレビューはこちら。
※追記です。
Twitterで「続けたいコト」を宣言して記録することを支援する、「サポタ」というサービスが話題になっていますが、まさにこのサポタの仕組みが、本書に詳しく取り上げられています。
http://sapota.jp/
あなたの「続ける」をTwitterでサポート~Sapota.jp(サポタ)
このサイトの一番下にも”「Sapota(サポタ)」は、行動科学マネジメント理論を元に企画・開発されています。”と記載され、石田氏の主宰するWill PMへのリンクが張られていますね。恐らく本書にインスパイアされて開発されたサービスなのではないでしょうか。
ABA界随一の「エンターテイナー」とは、ありがとうございます(笑)すこしでもわかりやすくと心がけておりますので、そのようなお言葉を頂き、スタッフ一同、喜んでおります。石田にもお伝えさせていただきます。
「短期間で組織が変わる行動科学マネジメント」等、もう少し専門的な本もございますので、よろしければ「続けて」お読みいただけると幸いです(笑)
今後ともよろしくお願いします!
コメントありがとうございます。
エントリでも触れましたが、「読んでいて楽しい行動科学の本」を書ける方は、今のところ石田氏くらいしかいないんじゃないかと感じています。
「短期間で組織が変わる行動科学マネジメント」も読ませていただいています。
ブックレビューも書かせていただいています。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/67294275.html
今後ともよろしくお願いします。
http://sapota.jp/
このサービスと本書に強い関係があるようですので、追記しました。
こちらの本もすでにレビューされていたんですね。さすがそらパパ,アンテナの張り巡らしと読書量に脱帽です。
この本,本屋で見たときにフォレスト出版なので一瞬費用対効果で見送ってしまいました。(つい中身たっぷりと欲張ってしまいます(>_<))
ゴールデンウィークに読んでみます。
コメントありがとうございます。
まあ、「人生を変える」とか「ABAなのにエピソード満載」とか、「やっぱりフォレスト出版だな」と笑ってしまう部分もないではないですが、内容的には意外にしっかりしていて「石田流ABA」の入門書としてとてもよくできていると思います。
新書はいつもチェックしていますね。新書も一時の勢いはなくなりましたが、旬の著者による最新の内容が読めるので、魅力的ですね。