基本的に、以前書いた親御さんむけエントリからの一部改訂版です。
※文字が大きく、印刷も簡単なページを作りました。→こちら
1.自閉症とは要はどんな障害なのか?
ひとことでいうと、「まわりの世界とうまく関わって、いろいろなことを学んだり適応したりすることが難しくなる障害」です。
まわりと関わり、学ぶことがうまくできないために、ことばが遅れたり、コミュニケーションがうまくできなかったり、興味が限定されてこだわりが強く現れたりします。
自閉症は「社会的ひきこもり」と混同されがちですが、両者はまったく別のものです。
自閉症は、環境による情緒障害ではなく、先天的な脳の障害だと考えられています(親の子育てが悪かったために自閉症になるのではありません!)。
また、「外界とかかわらない」のではなく、「外界とうまくかかわれない」障害なので、よくあるイメージとは逆に、初対面の人になれなれしく接したり、延々と同じ質問を繰り返したり、外で大声で歌ったりといった「外向的な」自閉症的行動を示す子どももたくさんいます。
自閉症、発達障害、アスペルガー症候群など、いろいろな用語があって紛らわしいですが、これらの用語の関係を乱暴にまとめると、「自閉症とは、いろいろある子どもの発達障害(生物学的な要因から生じる、発達の遅れや偏り)の一種で、ことばや社会性などに遅れや偏りが見られる障害のことをいいます。ことばの遅れがなく、知能の低くない自閉症のことを、特に『アスペルガー症候群』と呼ぶこともあります。」となります。
2.自閉症って治るの?
病気やケガが治るような意味では、残念ながら治りません。「治る」と言っている人が周囲にいたら、無知なのかインチキである可能性が極めて高いです。
ただし、適切な働きかけを行ない、環境を整えることで、障害によって生じる困難を低減させ、能力を伸ばしたり社会適応力を高めたりすることは可能です。
そういった「適切な働きかけ・環境整備」のことは、「療育(りょういく)」と呼ばれます。
自閉症に対する適切な働きかけは、「自閉症を治す」のではなく、「障害による困難を低減し、能力を伸ばす」ことをめざす「療育」です。
2-b.でも、私の息子・娘は「自閉症は治る」と言っている。
たしかに、世間には「自閉症が治る」と称する代替療法・民間療法・指導プログラム・宗教などがたくさん存在します。
でも、「自閉症が治る」と称するもので、科学的根拠のあるものはまずありません。そういったもののほとんどは、ガンやアトピー性皮膚炎などで良く見られるような「怪しげな療法」です。
もしも、お孫さんの親であるあなたの息子さん・娘さんが、「治る」と称する療法などに熱を上げているとするなら、その療法についてネットなどで情報収集し(肯定的な情報だけでなく、批判的な情報も必ず見つけて読んでください)、問題があると感じたなら、粘り強く、でもできるだけ相手の感情を害しないように、冷静な目で障害と向き合っていくよう導いてあげてください。
とても難しいことかもしれませんが、「結局、意味がないと後で分かることに、時間やお金やエネルギーを浪費しないこと」が、お孫さんのためにも、息子さん・娘さんのためにも必要なことなのです。自閉症は「信じること」だけでは救われません。
3.自閉症の孫に、どう接したらいいの?
障害があってもなくても、かわいいお孫さんに愛情をもって接することに変わりはないと思います。ただ、少し自閉症について知り、少し接しかたを工夫することで、お孫さんとの時間をより楽しく実りあるものにできるでしょう。
そんな「工夫」の最大のポイントは、「ことばに頼らず視覚支援をすること、わかりやすいコミュニケーションを心がけること」です。
自閉症のお子さんは、口頭でのことば(音声言語)だけでコミュニケーションすることが苦手です。写真やイラスト(絵カード)、書き文字などを活用することで、よりスムーズなコミュニケーションができるはずです。話しかけるときも、できるだけ簡潔で分かりやすく、具体的な表現を使いましょう。たとえば、「『ちょっと』待って」よりも「『10分間』ここにいます」のほうがずっといいわけです。
また、自閉症のお子さんは「見通しが立たない」ことが苦手なので、出かける前にはこれからどこに行くかをあらかじめ教える(ここでも絵カードなどで視覚支援ができます)、急に予定を変えない、「なじみのお出かけルートを作る」といった工夫も有効です。
また、「接する」ということでいうと、自閉症のお子さんには感覚異常がある場合が少なくないことに留意しましょう。
抱っこや握手などでの接触を嫌がるお子さんや、洋服の裏にあるタグが気になってしまうお子さんがたくさんいます。一方で、かなり大きなケガをしても気づかないといった「感覚鈍磨」があったりします。ですから、仮に抱っこを嫌がられても、それはあなたが嫌われていると考える必要はなく、気持ちを切り替えて、お孫さんが喜ぶような別の接しかたを工夫していけばいいのです。
4.大変そうな息子・娘のために、親として何ができるだろうか?
まずは、お子さんやお孫さんにとっての「よき理解者」になること、これが何よりも大きな力になります。
そのためには、自閉症について、簡単な入門書でいいですので読んで勉強し、この障害への理解を深めることをおすすめします。世間に流通している「自閉症の話題」には、残念なことに誤解が含まれていることが少なくありません。自閉症への理解が不十分だと、よかれと思ってやろうとしたことや言ったことが、逆に息子さん・娘さんを傷つけたりすることも残念ながら実際にありえますので、まずは「自閉症を正しく理解すること」がとても大切です。
その上で、あなたが提供できるサポートには何があるか、ご家族でじっくり話し合ってみてください。
例えば、子どもから目が離せない自閉症児の親にとって、週に1回ほど実家から祖父母の方が遊びにきて子守りをしてくれる(その間に外出して用を済ませられる)というサポートは、とても助かるケースが多いと思います。
5.自閉症について勉強したい。
以下に、自閉症についての分かりやすいガイドブックをご紹介しておきます。
なお、ここで紹介している本は、自閉症全般についてのものになりますので、「アスペルガー症候群」についてより特化した情報を知りたい場合は、同じシリーズで「アスペルガー症候群」についての本も出ているようですので、そちらもあわせてご覧ください。
自閉症のすべてがわかる本(当ブログのレビュー記事)
6.最後に
僭越ながら、自閉症のお孫さんと、そのお孫さんを育てていく息子さん・娘さんをサポートするにあたって、人生経験豊富な祖父母の方が心がけるべきことは、大きく2つあると考えています。
1つは、その「豊富な人生経験」に基づいて、大局的・長期的な視点から、息子さん・娘さんの「子育て」をサポートしていく、という姿勢です。
自分の子どもに障害があると知って、息子さん・娘さんは混乱・困惑し、精神的にも疲れていることでしょう。そんなときは、どうしても目の前のことにばかり気を取られ、短期的な視点しか持てなくなっているものです。
そんな息子さん・娘さんに対して、あえて少し引いた立場から、短期的な問題にとらわれ過ぎることなく、継続的なサポートを提供することが、もっとも大きな力になるのだと確信しています。
そしてもう1つは、「豊富な人生経験」が、障害や子育てにかかわっていく際に、誤った先入観という形でかえって邪魔になってしまうことがないよう、自閉症という障害についてゼロから謙虚に学ぼう、という気持ちをもっていただくことです。
自閉症という障害は、永らく誤解されてきました。
先にあげたような「社会的ひきこもり」との混同もそうですし、例えば「たくさん言葉かけをすれば言葉が出る」「同世代の友達のなかに放り込めば社会性が身につく」といった「常識的な」アイデアも、子どもにとってストレスになることが多く、効果についても疑問視されています。
自閉症についての理解は、ここ10~20年で大きく進展しています。「これまでに自閉症について聞いたことがあること」をいったん横においていただいて、最新の的確な情報を、上記でご紹介した入門書などから手に入れていただきたいと思います。
それが、息子さん・娘さんのご家族との「強いきずな」を作り、適切なサポートを提供することに、きっとつながっていくと思います。
そして最後の最後に、改めて書きます。
息子さん・娘さんのご家族が、「自閉症が治る」と称する何らかの療法に入れ込んでいる場合は、まずその療法の素性をよく調べて、対応を検討されてください。薬やサプリメントを飲んだり、逆に食事制限をしたり、注射や手術をしたり、気や念力、コックリさん、その他宗教的なもので「自閉症を治す」と称する療法には、強い疑念をもって慎重に対応されることを、おすすめします。
我が家も自閉症の子どもを育てる、いち家族です。ともに、進んでいきましょう。
当ブログの記事が、参考になれば幸いです。(記事をお読みになる際は、サイドバーにあるリンク一覧などを参考にしてください。)
今回のエントリを読んで、我が子が自閉症と診断された時期のことが思い出され、
涙が出てしまいました。
診断されたあの頃に、この記事をもし、読んでいたら・・・
いや、今だからこそ、この記事の重みが実感できるのかも・・・と思ったり・・・。
この記事、私のブログで紹介させていただいていいでしょうか?
コメントありがとうございます。
このエントリは、「親御さんむけ」に続き、シリーズ(?)2回めのものですが、私自身、「こういうアドバイスがあの頃にあったら、とても助かっただろうな」と思えるものを書きたい、と思って書きました。
紹介についてはもちろんかまいません。
もしよろしければ、「親御さんむけ」と「祖父母の方むけ」、あわせてご紹介いただいたほうが分かりやすいかもしれませんね。
よろしくお願いします。
ともすれば、子ども夫婦に対して(冷蔵庫マザー的伝聞情報等を元に)「お前達の育て方が悪かったのではないか」等と、言い出して更に子ども夫婦を追い込むような例を伺いますので。
先天的な脳の障害だと考えられていることに加えて、育て方の問題ではないことを強調することが大切かなと思います。
まあ、何をしてあげればいい? と聞かれる方ならば、そういう心配は不要なのかもしれませんが。
明日の更新で「親御さんむけ」「祖父母の方むけ」両方紹介させていただきます。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
実はさっきTwitterでつぶやいたばかりですが、その部分は、入れるかどうか考えて、割愛した部分です。
・・・が、確かに「よくあるパターン」で重要だ、と思い直したので、1.に追加しました。
こんな感じでいかがでしょうか?
おじいちゃん・おばあちゃんだけではなく、親としてではなくその周囲で関わるすべての人に読んでいただきたいですね。
もちろん、療育関係者や介護サービス関係の方々、そして自閉症だけではなくて少し違う部分はあっても基本的には共通する部分も多い、肢体不自由児などのさまざまな障害と呼ばれる困難を抱えるお子さんをお持ちの周囲の方々に。
もっと言うと、子育て全般に関わる基本的な考え方ではないのかと思いました。
素晴らしい記事をありがとうございます☆
そらぱぱ様、コメント欄が違いますが、トラブルにはプロの力を借りて最小限の労力で払いのけてください。何の力にもなりませんが、上手く解決することを心より祈っています。私は、パワーハラスメント、テロのようだと感じました。感覚的表現ですみません。
お仕事・そらまめちゃんとの関わりに支障が出ないことを祈っています。
とても良いと思います。
ツイッターの方も読ませていただきました。
遺伝については、子育てと同列にその「せいだと責めるな」と言えるかな、とは思いました。組み合わせの問題かつ結果論的ではあるものの「双方の遺伝子を受け継いだ子が自閉症である」ということは事実なので。
私ももう少し書こうとしてやめたことがあります。即ち、そもそも世代的にハンディキャッパーに対する偏見が強いこと、また年齢的に考え方を変えることが難しいこと、から障害の心からの受容ってそもそもかなり難易度が高いのではないか、ということです。
ゆえに、最終的には「息子さん・娘さんの「子育て」をサポートしていく」というそらパパさんのご主張通りなのですが、そこまでの高みに到達できなくても、何もしないだけでも十分かな、と思ったりもします。
宗教だとか民間療法だとかを持ち込むルートにならないだけでも十分かと。
tweetしましたが,私のところも嫁さんの実家がサポートしてくれてます。
でもうちの母親は老齢による圧迫骨折等が続いて要介護状態。ですので,まだカミングアウトできていないんですよね~。
高齢の方は自分の経験からいろいろ判断されるので,誤解を産まないよう説明するのが大変なように思います。
このエントリはわかりやすくて非常にいいと思っています。
私も読んでて,胸が熱くなりました。
ありがとうございました。
いつもブログ拝見して勉強させていただいてます。
祖父母向けのお話をありがとうございます。
実は義父・義母が「波動水が効くから飲ませろ」と作ってくるので正直困っています。
孫を思う気持ちはありがたいのですが・・・。
そらパパさんの記事を読んで間違った認識を変えてもらいたいと思います。
だいちママさん、
ご紹介ありがとうございました。
ばくさん、
ご支援ありがとうございます。
「もう1件」については、必要とあれば「プロの力」がすぐに借りられる態勢はすでにとり、アドバイスをいただいているところです。
こういったときに、草の根パソコン通信時代からのネット人脈が力となったのは、ある意味とても象徴的なことだと思っています。
はじめさん、
おっしゃるとおりですね。
それを言い出すと、「子育てのせいじゃない」も、微妙に薄いグレーになるのが悩ましいところです。
(普通の子育てを超越した、ASDリスク群へのスペシャルな対応が生後直後からずっと提供されれば、それは恐らく「普通の子育て」よりもいい結果を生むだろうとは思うので、そういう意味では子育てについて「責任」はなくても「影響」はあるという側面はあるわけです。)
後半については、そこまで悲観的になる必要はないと個人的には思います。
孫を思う祖父母の方のポジティブな気持ちを、うまく「適切なかかわり」につなげていくことを前向きに考えていきたいな、と思っています。
ちなみに、代替療法がらみについては、親の側、祖父母の側、どちらが「ハマる」リスクも同様にあるので、そのあたりは思い切りボリュームをとって書いているつもりです。
岡本さん、
難しいところですね。
私は、子どもの障害にかかるすべてのアクション(療育も、祖父母とのコミュニケーションも)は、「そこにかかわる当事者の幸せを最大化する」という目的のために行なわれるべきだと考えているので、カミングアウトがメリットよりデメリットのほうが大きいと思われる状況では、それを控えるのも選択のひとつだとは思います。
ちなみに、これはコネクショニズム認知科学での仮説ですが、高齢の方が(若者より)過去の経験に強く依存するのは、脳の学習アルゴリズムとして、「いまある知識」と「新しい経験」が食い違うとき、どちらにどの程度の「重み付け」をして学習をアップデートするかのパラメータが年齢とともに変わっていくからだと考えられます。
つまり、若いうちはまだ経験不足なので、「いまある知識」より「新しい経験」をぐっと重視して「学習の更新」をしていくアルゴリズムが採用されるのに対して、年をとってくると「いまある知識」の信頼度が上がるため、多少食い違う「新しい経験」があってもそれをあまり重視しない(学習の更新をしない)アルゴリズムに変わっていく、ということですね。
それは、どちらがより良いということではなく、1人の人間のなかでも、年齢にあわせて脳は「発達」し、常に環境に対し「最適化」されていく、ということです。
ですから、私たちは高齢の方に対して「頭が固い」といった「こちらの価値観」を押し付けずに、うまくつきあっていくことが大切なのだと思います。
ぽんすけの母さん、
うーん、なかなか困った事態ですね。
どうやって説得していいか難しいところですが、「波動水が自閉症に効く」をそのまま否定するのではなく、「波動水に限らず、自閉症が治るといっている代替療法はいっぱいある。でも、それらはどれも科学的根拠がない。がんとかアトピーでもよくある話。波動水も同じ。」といったように、この世にはたくさんそういう類の代替療法がある、という話をするのがいいかもしれませんね。
というのも、こういうケースは往々に、たまたまチラシなどで見た「自閉症に効く」という宣伝文句にひかれて、それが「たった1つの解決法」だと勘違いしてすすめているということがあるからです。
代替療法が好きなのか、水以外でも都内まで整体などに通わされました。
サプリメントも次から次へと見つけては飲ませろと持ってきます・・・。
私は自閉症がサプリメントや○○によって治るというのは信じていないので、
やんわりと断った時に義父母に諦めちゃダメと言われてしまい困っています。
本人や家族が落ち着いて穏やかに暮らせるようにというのが今の私の願いです。
カミングアウトを控えるのも一つの(ゲーム論的な)戦略かもしれませんね~。いずれにせよ家族の絆なり温かさなりが最大化するよう心がけたいものです。
コネクショニズム認知科学の仮説はおもしろいですね~新しい経験と今までの知識のウェイト付けパラメーターの変化で人の認知をとらえるとは・・・目からうろこ。
知識までいただき,感謝です(^^)/
あ,忘れてました,実はそらパパさんの著作で元気が出ましたし,自閉症理解がかなり進みました。お礼を申し上げます。(つけたしみたいですいません(>_<))
コメントありがとうございます。
ぽんすけの母さん、
なるほど、代替療法が大好きなんですね。
それはますます悩ましいですね。
それはもう、何かを薦められるたびに「そういうのは効かないんだよ」と説得するしかないのかもしれません。
岡本さん、
拙著をお読みいただき、ありがとうございます。
ちなみに、今回ご紹介した仮説については、以前レビューした「脳-回路網のなかの精神」の55~63ページあたり、「学習のアルゴリズム」の話題のなかでかなり詳しく語られています。ご参考までに。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/24550414.html