2010年02月05日

MMRワクチンと自閉症の関連を主張したランセット論文が完全に消えました。

既にこの問題にご興味をお持ちの方は恐らくご存知のとおり、MMR(三種混合)ワクチンと自閉症の関連を示唆した、専門誌ランセットに掲載された有名な論文について、その後の調査の最終的な結論として、ランセットはこの論文を完全撤回すると発表しました。

自閉症「ワクチン犯人説」、英医学誌が撤回
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100204-OYT1T01072.htm
 【ワシントン=山田哲朗】権威ある英医学誌「ランセット」は、はしか、おたふくかぜ、風疹の新三種混合ワクチン(MMR)と自閉症を関連づけた1998年の有名な論文を撤回すると発表した。
 論文自体はワクチンが自閉症の原因だと断定していないが、著者のアンドリュー・ウェイクフィールド医師が記者会見で関連を指摘、ワクチン「犯人説」が独り歩きして、接種を控える動きが世界に広がった。因果関係はその後の研究で否定され、共著者13人のうち10人は2004年に論文の結論を取り下げている。
 英医療当局が1月末、論文が対象とした自閉症児らの中に、予防接種の副作用被害の訴訟当事者が含まれていたことなど、数々の不正や倫理違反を認定した。このため、ランセット編集部は「誤りが明確になった」と撤回を決めた。(2010年2月4日19時53分 読売新聞)

原文を見てみましょう。

(登録が必要なサイトなのですが、未登録でも、今回の発表は最後の「record」以外全て見える状態なので、全文引用しました。)

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2810%2960175-7/fulltext
Following the judgment of the UK General Medical Council's Fitness to Practise Panel on Jan 28, 2010, it has become clear that several elements of the 1998 paper by Wakefield et al1 are incorrect, contrary to the findings of an earlier investigation.2 In particular, the claims in the original paper that children were "consecutively referred" and that investigations were "approved" by the local ethics committee have been proven to be false. Therefore we fully retract this paper from the published record.

論文のseveral elements(あちこち)が「incorrect」(不正)である、とはっきり書かれています。(severalは、「いくつかの」と学校で教えられたりしますが、実際には「多い」ことを強調する単語であり、ニュアンスとしては「いくつもの」のほうがずっと近いです。)

より詳しいここまでの経緯については、より詳しい雑誌系メディア、まとめエントリなどがたくさんあるので、そちらにリンクをはっておきます。
今回のランセットの判断は、(恐らく訴訟への予防線だと思われますが)撤回の理由を倫理面・実験手続き上の不備に限定しているようですが、その背景には、「自閉症ワクチン原因説で訴訟中の利害関係者から資金を受け取っていた」「データ捏造の疑いが強い」「サンプル数がたった12人で、しかもそのうち何人かはまさに訴訟中の親の子どもだった」などの数々の疑惑・スキャンダルがあり、論文そのものがでたらめなものだったと推測するに足る状況証拠が揃っています

http://newsweekjapan.jp/stories/world/2010/02/post-972.php?page=1
「予防接種で自閉症になる」論文のデタラメ -スキャンダル -ニューズウィーク日本版

http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20100204/p1
自閉症MMRワクチン原因説のランセット論文抹消。著者Andrew Wakefield氏は医師免許剥奪の可能性も -ベムのメモ帳

http://transact.seesaa.net/article/140087575.html
Lancetが「自閉症とMMRワクチンの関連を示す」論文を撤回した
http://transact.seesaa.net/article/113887944.html
「自閉症とMMRワクチンの関連を示す」論文のデータがフェイクだった by Times -忘却からの帰還

この論文は、日本も含めて、「自閉症ワクチン原因説」をとなえる勢力を拡大させ、そこから派生した各種代替療法を大きく繁栄させる結果となりました。
また、この論文は、ヨーロッパにおけるMMRワクチンの接種率を大きく下げ、それによって社会の「群免疫」を低下させ、結果として多くの子どもに麻疹などを流行させてしまうという副作用を出しました。ある意味、間接的に多くの子どもを殺す結果につながった論文であった、といっても過言ではないでしょう。

ちなみに、これは私も最近気がついたのですが、自閉症ワクチン原因説というのには、今回のMMRワクチン原因説というもの以外に、いわゆるキレーション療法の主張の根拠となっている「チメロサール(ワクチンに含まれる水銀)原因説」があり、予防接種からチメロサールがほぼ取り除かれた最近では、さらに「細胞欠陥説」という、「普通の子どもには無害なワクチンが、細胞に欠陥のある子どもにだけ特異的に自閉症を引き起こす」という、より「検証が難しそうな」仮説が提唱されているという現状にあるそうです。

アメリカでこういった「ワクチン原因説」のような仮説が流行するのは、それによって行政訴訟を起こして賠償を獲得しようというインセンティブが働きやすい社会構造による側面もあるかもしれません。
いずれにせよ、「ワクチンで自閉症になる」という主張は、それが簡単に疫学的に検証できるものであるにもかかわらず、それを支持する著名な研究が今回のランセット論文くらいしかなく、そしてそのランセット論文はひとことでいえば「デタラメ」であり、撤回されたという結末をみても、この主張を支持してワクチン忌避や自閉症キレーション療法を行なう合理的な理由はないと言えるのではないでしょうか。
posted by そらパパ at 20:52| Comment(4) | TrackBack(1) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この記事、アメリカでも話題になりました。
ボスが早速みんなにメールを送ってくれて
私もこの件について知りました。

アメリカではワクチン説を唱えるご家族が多く、特に私の職場ではご両親が科学者の方の方がワクチン説を唱えていらっしゃいます。もし、ワクチン説が本当であったならば、(まだ偽とは決まった訳では有りませんが)、相当の訴訟になるでしょうね。

ただ、私の友人(この人も科学者)は、アメリカでは3種混合の予防接種を3歳児検診、4歳児検診などで一度に行ったりするので水銀の摂取量が多すぎると言っています。なので彼女は3種混合などは3回に分けて少しずつしているそうです。
Posted by 塩田玲子 at 2010年02月06日 12:01
塩田さん、

コメントありがとうございます。

今回のエントリは、MMRワクチンが自閉症の原因であるという説の、最大のよりどころであった論文がデタラメであり、抹消されたという話題です。

ですから、「ワクチン説が本当だったら」とか、「3種混合で水銀が」といったお話は、ちょっと違うようにも思います。
Posted by そらパパ at 2010年02月07日 21:48
はじめまして。

私はアメリカ在住で2歳の娘の母です。
娘の友達(当時2歳半)が昨年、自閉症と診断され、それ以来こちらのページを拝見しておりました。

今回のワクチンと自閉症は無関係という記事はアメリカでも大きく取り上げられましたが、しかし尚もキレーションは存在し、関係者にはその団体を支援するようにインターネットで呼びかけています。

娘の友達は診断直後からキレーションの団体(近ごろ日本に進出したらしいですが)に通っています。
凄まじい数のサプリメントを飲み、キレーション、腸の治療と子供のうける苦痛に常々疑問に思っていました。

更に恐ろしいと思ったのは、この子の母親までもがキレーションを受けるよう促され、母乳をあげているわけでもないのに、キレーションをしています。「水銀さえでれば」という言葉を
何回も聞きました。キレーションで起こる吐き気と闘いながら育児をしているのだそうです。
そういう彼女は公園に来てもベンチに座り込み、頭を抱えて吐き気をこらえています。キレーションの影響なのか、子供も母親もずいぶんやせてしまいました。声をかけるのも憚られるようになりました。

「ジェニー・マッカシーの子供のように」自閉症は治るのだと、今の大変さはいつか報われるのだという盲信ぶりは傍で見ていると胸が痛み、その団体に関しては怒りを感じます。


医師によって運営されているそうですが、その団体が自閉症という障害を持つ家族の全財産を剥いでいくのは見るに耐えません。

そらパパさんは以前からキレーションの無益さを訴えていらっしゃいますね。
この、論文の完全撤回で多くの人がキレーションの無益さに気づくことを期待しています。

長々とかいてしまい、申し訳ありません。
キレーションがどういうものか、間近で見た者の意見でした。


Posted by まり at 2010年02月09日 10:09
まりさん、

コメントありがとうございます。
とても痛ましいお話ですね。

今回の論文撤回は朗報ですが、すでにどっぷりとワクチン悪玉説に染まっている方の考えろ変えるだけの力があるかといえば、懐疑的にならざるをえないというのが率直なところです。

たとえばこんな情報もあります。

http://transact.seesaa.net/article/140264446.html
ワクチン否定論者が次に言うこと by New York Times

「彼ら」は自分たちの商品が売れればいいので、それまで使っていた主張が潰されたらまた新しい主張を持ってくるだけなのですね(あるいは、新しい療法に乗り換えるか、です)。

なかなか空しい戦いですが、少なくとも、「迷っている人」の目を覚ましていくことができれば、こういった場で発言していることも多少は報われると思っています。
Posted by そらパパ at 2010年02月09日 21:49
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック

[科学][医療]MMRワクチンが自閉症の原因だとする論文が抹消処分に
Excerpt: ワクチンが自閉症の原因だという論文が撤回され、ワクチン原因説の土台が崩壊した話の続き。 Junk Science Kills という記事が American Council on Science a..
Weblog: デムパの日記
Tracked: 2010-02-20 20:51
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

fortop.gif当ブログの全体像を知るには、こちらをご覧ください。
←時間の構造化に役立つ電子タイマー製作キットです。
PECS等に使える絵カード用テンプレートを公開しています。
自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。