自閉症ハンドブック
著:モーリーン アーロンズ、テッサ ギッテンズ
明石書店
第1章 自閉症のさまざまな症例
第2章 自閉症の歴史
第3章 自閉症の要因
第4章 診断に関する諸問題
第5章 自閉症の子どもの理解と診断
第6章 実用面―子育てとカウンセリング
第7章 ことば―自閉症の子どもにおけるコミュニケーションの発達
第8章 自閉症の子どもの教育
第9章 成長とその後
第10章 自閉症のさまざまな治療法
監修が自閉症協会会長の石井哲夫氏ということで、「受容」の本なのかな?と勘ぐってしまいましたが、そうではなく、「自閉症スペクトル」のローナ=ウィングや「心の理論」のコーエンの流れを引き継いだ、正統派の自閉症入門書。
個人的には、「自閉症スペクトル」よりも読みやすく、かつ、有用な内容が書いてあると感じました。本が小さくて、ハードカバーでもないので、電車で読むのもずっと楽ですね。
ターゲット読者としては、自分の子どもが自閉症だと知らされて、あるいは、何かまったく別のきっかけから、「自閉症ってどんな障害なの?」という関心を持った、自閉症のことをまだ知らない層になると思います。既に他の本などで自閉症について勉強している人にとっては内容的にかぶっている部分が多いと思いますし、療育方法についても、一般論は書いてありますが、具体的なカリキュラムを考えるためには他の本が必要になるでしょう。
とはいえ、自閉症に立ち向かっていくための「最初の一歩」として、入門書を1冊読んでこの世界を概観することはとても大切なことだと思いますし、そのために選ぶ1冊としては、最適なものの1つだと思います。
特に、本書を特徴付けているのは、第10章の「自閉症のさまざまな治療法」だと思います。
分量的には短い章ですが、さまざまな自閉症の療育法に関する客観的な考察が加えれられており、「自閉症」という診断を初めて聞いて、「ワラにもすがる」思いで有象無象の治療法に手を出そうとすることに対する適切なブレーキの役割をしてくれると思います。
自閉症の療育に関する著者の基本的スタンスは、
・自閉症は簡単に治る障害ではない
・だから、医者やまともなプロは親を喜ばせるようなことは言ってくれない
・すると、親は彼らに「不満」をつのらせ、他に助けを求めたくなる
・そこに、いかがわしい民間療法の付け入るスキが生まれがちである
というもので、本章は全体として、「治る、治る」と安易に請け負う民間療法にすがることなく、子どもの障害を直視し、地道な療育で少しでも子どもの発達、社会適応を促していくという道を踏み外さないで下さい、という明快なメッセージを発しています。
ただ、この章における行動療法への評価はちょっとネガティブすぎるように思いますね。
他のいかがわしい療育法とほとんど同列に扱われて、これだけ読むと行動療法にはまったく効果がないようにさえ読めてしまいます。そこまでネガティブな評価は適切でないと私は思います。
ただ、ここで指摘されている、いわゆるロヴァース式の行動療法が、劇的な改善を約束することで大金を巻き上げる構造を持つ可能性があり、その意味では確かにいかがわしさが生まれうる側面をもっているという事実については、心に留めておく価値はあると思います。
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お断り:先日、誤ってこの記事が2時間程度だけ掲載されていました。そのときにご覧になった方は見るのが2回目になると思いますが、ご了承ください。