1つは、フェーズ1で選んだ「子どもの好きなもの」は、フェーズ1を開始して以降は、常にカード交換によってのみ手に入るようにすることです。
たとえば、我が家のように「みかん」を対象にしたとすると、家でみかんを与えるときはすべてカード交換をしてから与えるようにします。
また、外出先でみかんを食べる可能性があるときは、みかんカードを携帯し、やはりカード交換をさせてから食べさせるようにします。
そうしないと、子どもにとって、みかんを食べるのにカード交換が必要だったりそうでなかったりすることになり、混乱させてしまいます。
もう1つ、これはPECS本の中で推奨されているのですが、フェーズ1の開始時点では、カードを受け取る人とプロンプト(動作の手助け)する人は別のほうがいいと説明されています。
つまり、カードを受け取って、子どもの「欲しいもの」を与える役以外に、子どもの背後にいて、子どもが「欲しいもの」に手を伸ばした瞬間に、さっと後ろから子どもの手をつかみ、カードの方に誘導して、カードを渡すというプロンプト(手助け)する役の人をもう1人使うのです。
これには、1人目が「欲しいもの」を片手に持ち、もう片方の手でカードを受け取ろうとすると、プロンプトする手が物理的に足りない、という理由と、プロンプトする人を子どもの視界に入れないことで、余計な視覚的刺激を減らし、子どもの「カードを取る」という動作をできるだけ早く自発的に行なわせようという理由があります。
プロンプトする人は、配偶者でもいいですし、兄弟でもかまいません。やがて、子どもは自主的にカードを渡すようになるでしょうから、そうなればプロンプトするほうの人はいらなくなります。
また、そうは言っても「2人目」がいない場合もあると思いますが、そういった場合は、「欲しいもの」を、見えるけれども子どもの手の届かない場所に置くなどして工夫し、1人でトレーニングしてもまったく問題はありません。
子どもが、プロンプトなしで自らカード交換をするようになったらフェーズ1はすぐに終了、フェーズ2に入ります。
第2フェーズ:PECSの使用を拡張する
フェーズ2では、フェーズ1と比べて、2つの新たな要素が加わります。
1つは、距離を広げていくことです。
フェーズ1では、カードは子どもの目の前にあり、その場でカードを取って渡すことができました。フェーズ2では、この距離を少しずつ離していきます。
PECSでは、この段階で「コミュニケーションブック」というものを導入することになっています。コミュニケーションブックとは、絵カードを保管したり、絵カードで文章を作ったりするためのバインダーのことをいいます。
コミュニケーションブックの作り方は、こちらで少しだけ紹介しています。
このように、コミュニケーションブックに、1枚だけ絵カードを貼っておき、子どもが、このカードをはがして、親のところに持ってくるようにトレーニングするわけです。
それができたら、コミュニケーションブックを、親の目の前から、少しずつ遠いところに離していきます。最終的には、欲しいものと全然違う場所でカードのやりとりが行なえるようになることを目指します。
距離を離していくとき、「欲しいもの」と「コミュニケーションブック」「親」の位置をうまく工夫し、子どもが欲しいものを手に入れたいときに、これら3つができるだけ同時に視界に入るようにすると、トレーニングの効果が上がります。
もう1つの拡張は、カードの種類を増やすことです。
ただし、同時に出すカードは1枚のみです。コミュニケーションブックのトップページに貼るカードの差し替えは、毎回、親がタイミングをみて事前に済ませておかなければなりません。
複数のカードを同時に選ぶトレーニングは、フェーズ3に入ってから行ないます。
なぜ、あえて複数のカードを同時に使わないのでしょうか?
フェーズ2での力点は、子どもに、「何か欲しいものがあったらカードを取りにいって親に渡せばいいんだ」ということを完全に理解してもらうところにあります。目の前に親がいなくても、カードがなくても、わざわざカードを取りにいって親に渡せるようになる、それが非常に重要なのです。
実際、この行動をトレーニングすることは、そんなに簡単ではありません。
ですから、この段階では、マッチングなどの別の認知スキルが必要な「複数カードの選択」といった要素はあえて排除されているのだと考えられます。
(次回に続きます。)