当ブログには、検索などを通じて初めていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。
その割には、そういった皆さんが「最初に知りたいこと」に応えていないかも知れない、という思いがずっとあったので、今回、私なりに「はじめて自閉症と向き合うために」必要だと思われること簡単にまとめました。
書きたいことはたくさんありますが、あえて1記事で。このブログ自体について知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。
1.子どもが自閉症かどうかを簡易診断したい
M-CHATという、1歳半以降3歳未満のお子さんに使える簡易診断があります。→ こちら。
2.自閉症って要はどんな障害なの?
ひとことでいうと、「まわりの世界とうまく関わって、いろいろなことを学んだり適応したりすることが難しくなる障害」です。
まわりと関わり、学ぶことがうまくできないために、ことばが遅れたり、コミュニケーションがうまくできなかったり、興味が限定されてこだわりが強く現れたりします。先天的な脳の障害だと考えられています。
2-b.うちの子はこだわりは弱いから自閉症じゃない?
よくあるトピックのようですので、このポイントだけあえてやや詳しく。(実際、我が家もそうだったので)
実は、「こだわり」というのは、「まわりの世界」との一定レベル以上のかかわりができるようになって初めてでてくる「症状」です。
知的な遅れがあり、ことばがほとんどない状態で、かつ「こだわりが弱い」場合、それは自閉的でないからこだわりが弱いというよりは、まだ、こだわりが目立つようになるほど「まわりの世界とのかかわり」が生まれていないためである可能性があります。
3.自閉症って治るの?
病気やケガが治るような意味では、残念ながら治りません。「治る」と言っている人が周囲にいたら、無知なのかインチキである可能性が極めて高いです。
ただし、適切な働きかけを行ない、環境を整えることで、障害によって生じる困難を低減させ、能力を伸ばしたり社会適応力を高めたりすることは可能です。
そういった「適切な働きかけ・環境整備」のことは、「療育(りょういく)」と呼ばれます。
4.「療育」って、どんなことをすればいいの?
療育の基本は、「家庭での子育てを、少し工夫すること」です。
公的、あるいは私的なな療育センターのようなところもありますが、通わせるだけで家庭でのケアをしないようでは療育としてはまったく不十分ですし、逆にそういったところに通えなくても、家庭でのケアをしっかりしていけば、十分以上の効果をあげることができるはずです。
そして、療育は、原則として早ければ早いほどいいと言われています。まずは今日から「自閉症とその療育」について勉強を始め、できることから「家庭での子育て」を変えていくところから始めていきましょう。
4-b.支援センターなどに相談したら、半年以上待たされることになった。どうすればいい?
自閉症に限らず、発達障害を支援するための公的・私的リソース(施設や専門家など)は限られており、常に予約でいっぱいで、半年待ち、1年待ちというのは珍しいことではありませんが、そういった施設は、仮に定員枠に入れて通えるようになったとしても、「家庭での療育の足し」になる程度のものであって、療育の9割以上のウェイトはやはり「家庭での療育」にあります。
ですから、こういったケースでの最悪の対応というのは、「予約を待っている間なにもせず、センターに通えるようになったらセンターに任せっぱなし」というものになります。そうではなく、「予約にかかわらず、すぐに家庭での療育をスタートし、センターに通えるようになっても、家庭での療育を中核に据えつつ、専門家のアドバイスや集団活動といった家庭で不足する部分を外部での療育で補うようにする」という対応をとることが、何よりも大切です。
4-c.療育には、どんなものがあるの?
現在、自閉症の療育にもっとも成果をあげていると言われる「3大療育法」として、ABA(応用行動分析、行動療法)、TEACCH、絵カードによる療育(PECSなど)があります。
ABAとは、ヒトや動物の行動形成についての心理学(行動分析学)を応用して、自閉症児の問題行動を減らしたり、望ましい行動を形成したりする、どちらかというと「積極的に子どもを変えていく」ことを目指すアプローチです。
一方、TEACCHとは、自閉症の人は「普通の環境」では混乱して能力が発揮しにくいという考えかたを出発点にして、「自閉症の人が活動しやすい環境作り」をメインにした働きかけで、どちらかというと「積極的に環境を変えていく」というアプローチです。
最後の「絵カード療育」というのは、コミュニケーションの手段として、音声言語の代わりに絵カードと呼ばれる札を活用する療育法で、音声言語の発達が遅れている自閉症児であっても、比較的容易にコミュニケーション能力を伸ばしていけるアプローチとして注目されています。
これら3つの療育法をまとめて全部ざっと知ることができる「入門書」というのは実はあまりなくて、あえて言えば手前味噌になりますが私が書いた下記の本があてはまるのですが、この次の質問でご紹介する本なども参考になると思います。
自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト―お父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育(拙著です)
5.自閉症について勉強する方法は?
一番いいのは、定評のある入門書を読むことです。
自閉症についてのセミナーなどもありますが、特に民間で開催されているものの場合、かなり高い確率で、自閉症児の親を狙うインチキ療法のセミナーだったりします。そうでなくても、2時間やそこらの「セミナー」で、親御さんが知るべき内容が網羅できるとは思えません。
幸い現在では、十分信頼ができ、しかも安価に購入できる「入門書」がいろいろ出ています。いろいろ出ているのですが、あえて「決め打ち」でテーマごとに1冊だけに絞り込んでご紹介します(すべて定価2000円以下で買えます)。
(1) 自閉症全般についての「最初の1冊」
自閉症のすべてがわかる本(当ブログのレビュー記事)
まず1冊、ということでしたら、この本をおすすめします。自閉症全般がわかる、定番中の定番です。著者がTEACCHの第一人者である佐々木先生であるため、「TEACCH入門」としても読める内容です。
(2) ABAについての「最初の1冊」
家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46(当ブログのレビュー記事)
初めての方でもABAについて理解し、実際に子どもの生活課題・学習課題に応用していくことができる、ABA入門としてはベストの本です。
(3) 絵カード療育についての「最初の1冊」
発達障害のある子とお母さん・先生のための思いっきり支援ツール(当ブログのレビュー記事)
絵カード療育の主流である「PECS」については、こちらの本が出ているのですが、少々難解です。
ですので、ここでは、絵カードだけでなく、スケジュールや作業手順カードなど、さまざまな視覚支援なども含めた「支援ツール」の本として、こちらをおすすめします。値段からは考えられないほど充実した「支援ツール事典」になっており、1冊手元にあると何かと重宝します。
なお、「絵カード療育」については、手前味噌ですが、当ブログの「そらまめ式絵カード療育」が、分かりやすいまとめになっていると思います。
6.最後に
もしも精神的にパニックになっているなら、まずは深呼吸しましょう。
最初にすべきは、治ると称するナントカ療法に手を出すことではなく、自閉症についての正しい知識を得ることです。
たとえば、5.でご紹介した「自閉症のすべてがわかる本」を読んでみてください。
読みながら、少し気持ちを落ち着かせていきましょう。
大切なのは、「慌てて子どもを何とかすること」よりもむしろ「親が冷静に対応すること」です。
不幸なことに、この世の中には、自閉症に対する誤った知識、科学的に検証されていない療育法があふれています。
そういったものに余計な時間やお金をかけず、希望を捨てず、細く長く療育に取り組んでいけば、必ず道は開けます。
無理をすることも、すべてを犠牲にすることも、すべてを悲観することも、何かにすがる必要もありません。
「よし、冷静に、しっかり前をみてやっていけそうだ」-そう思えたら、初めて療育に取りかかりましょう。
療育といっても、特別なことではありません。「ちょっとした工夫を取り入れた子育て」です。
無理をせず、子どもを見失わず、短期間で結果を出そうとせず、家族が一丸となって、マイペースで進んでいってください。
その先に、きっと家族全員の幸せがあると信じていますし、それこそが「療育をすること」の目的のすべてです。
我が家も自閉症の子どもを育てています。ともに、進んでいきましょう。
なお、当ブログでは、こういう「最初の一歩」を踏み出した後の親御さんにとって、療育などの際に参考になる記事をまとめています。サイドバーにあるリンク一覧などを参考にして、ぜひあちこちご覧になっていただければと思います。(コメントももちろん大歓迎です!)
コメントありがとうございます。
今回の記事は、これからクリスマスを迎え、さらに年を越していく皆さんに、少しでもポジティブなメッセージを発することができればと思い、書かせていただきました。
りんごのたねさんのところにも、また、りんごのたねさんが関わられる皆さんのところにも、いいクリスマスが来ることを祈っています。
ところで、この記事を書いた後でもう1つ、クリスマスにちょうどいい、ちょっと嬉しい話題が入ってきましたので、クリスマスイブである明日にでも書こうと思っています。
色々な情報が順序よく掲載されていてわかりやすいですね。私のような、自閉症をまったく知らなかった者でも、なんだか落ち着いて読み進めることができました。
来週、4月から療育所に通所するための面談です。不安で不安で。何かしていないと涙が。。。思わずコメント入れさせてもらいました。
違ってほしいと思う反面、自分でできることは早くとりかかろう!とも思います。
見える病ではないので、専門家の診断とは別に、親も「この子は自閉症なんだ」という診断を下さないといけないのでね。その時が療育の最初の1歩なのかも。そうして納得して1歩ずつ進むしかないのでしょうか・・・
34年生きてきて、もっとも辛い判断をくだす時が近づいてきます。
当日はせめて子供の前では笑顔でいたいと思います!!
コメントありがとうございます。
子どもの障害の可能性について、初めて気づいたり告げられたりするときに動揺するのは、誰もみな同じだと思います。
大切なことは、診断とか気づきによって変わるのは、お子さん自身ではない、ということです。お子さんは診断前でも後でも、まったく同じありのままのお子さんでそこにいます。変わるのは、親御さんをはじめとする周りの人の見る目、認識であり、対応なのです。
ですから、診断を受ける、気づくということは、お子さんではなく、親御さんが変わるためのきっかけとして位置づけられるべきものです。そして、せっかく「変わる」のであれば、子どもにとってより幸せな方向に「変わる」ことができれば、とてもいいことですよね。
「子どもを治そう、どうにかしよう」と考えるのではなく(そう考えすぎると、怪しげな代替療法などに心を奪われてしまうこともあります)、「自分になにができるか、どんな環境を作ってあげればいいか」ということを考え、精神的な部分で辛い気持ちを乗り越えていくことも含めて、焦らずに、でも時間をかけて継続的に続けていくこと、それが「療育」だと思っています。
上記のそらパパのコメント、力があります。私も娘の発達遅延が明らかになってから「治そう」とずっと躍起になっていました。・・・正直、今でも「治ってくれたら」と思っている自分はいます。でも、彼女は今までずっと彼女だったし、これからも彼女であることには変わりなく・・・。
娘は典型的な(というものがあるのか分かりませんが)自閉症ではないのですが、親の私が見る限り、スペクトラムのはじっこの方に少しだけ、ひっかかっている感じです。単なる(?)知的障害なのか自閉的なものなのか迷うような行動・言動などもありますが、どちらにせよ、ABAは効果があるのでは・・・と最近思いはじめました。
ABAは自閉症児に限らず効果がある可能性があるでしょうか。研究結果などはあるのでしょうか。(もちろんケースバイケースなのは承知していますが・・・)
コメントありがとうございます。
ABA的な療育が有効かそうでないかというのは、自閉的かそうでないかということにはあまり関係ないんじゃないかと思います。
そもそもABAのベースになっている「行動分析」という心理学は、ヒトや動物の行動の法則(と、行動を変える方法)を科学的に研究する学問です。
ですので、ABAの「やり方・考え方」というのは、特に特別支援教育的な領域だけでなく、動物のしつけや企業の組織マネジメントにまで、非常に幅広く応用されているものです。
ですから、ABAによる療育は、自閉症のお子さんだけでなく、知的障害のあるお子さんにも同じように役に立つんじゃないかと思います。
ABAにご興味があるのであれば、このエントリでご紹介した本や、さらに易しい石田淳氏の「おかあさん☆おとうさんのための行動科学」(殿堂入りコーナーで紹介)を一度お読みになられてはいかがでしょうか?
きっと、得るところがあるのではないかと思います。