2009年12月07日

自閉症・アスペルガー症候群のRDIアクティビティ 子ども編(立ち読みレビュー)

またもやこのパターン。


自閉症・アスペルガー症候群のRDIアクティビティ 子ども編 家庭・保育園・幼稚園・学校でできる発達支援プログラム
著:スティーブン・E.ガットステイン、レイチェル・K.シーリー
監訳:榊原 洋一
明石書店

「またもや」というのは、先日ご紹介したPRTの本「機軸行動発達支援法」と同じく、「以前に原書を買って持っている本が翻訳された(でも値段が高すぎて買えない)」というパターンだったからです。

ちなみに本書の原書は、以下のものになります。


Relationship Development Intervention With Young Children: Social and Emotional Development Activities for Asperger Syndrome, Autism, Pdd and Nld

この本は、最近では知る人も多い「RDI」という療育法をベースとした、「2歳から8歳までの子どもとのかかわり遊び(RDIではアクティビティと呼びます)」を集めたものになっています。
まあ、簡単にいってしまえば、「自閉症スペクトラムの子どもに特化した、かかわり遊び事典」です。




↑こちらは原書の写真です。

なぜ私がこの本を原書で買ったのかといえば、その時点で、翻訳されたRDIの本というのがこちらしかなく、具体的なアクティビティがあまり掲載されていなかった、ということがあったからです。

「RDI」は、名前の通り「対人関係の発達」に非常に重きをおきます(というより、その側面だけを集中的にトレーニングする療育法です)。
そしてそれは、基礎となる「発達理論」と、実践への応用としての「アクティビティ」から構成されますが、個人的な評価としては、RDIが考える「発達理論」は科学的根拠に乏しくてあまり参考にならないと思っています。
その一方で、「アクティビティ」については、それが自閉症の人の対人関係発達に直結するかどうかは分からないけれども、実践のアイデアとしては面白く、アクティビティを集めた「遊びかたアイデア事典」みたいなのがあれば、療育のヒントとして手に入れておきたいな、と思っていました。
そんなところに、日本のAmazonでこの本が入荷されたので、買ってみたというわけです。(買ったのはもう2年以上前のことです)

ただ、買ってみたのは良かったのですが、もともとRDIが基本的にはアスペルガー症候群や高機能自閉症といった、比較的軽度なお子さんを対象としていて(複雑な対人関係をトレーニングするのが中心の療育法ですから、まあこれは当然です)、我が家のような、ことばもほとんどない(ので「複雑な対人関係」どころではない)重い子どもにはあまり向かないということもあって、せっかく紹介されているたくさんのアクティビティも、我が家では使えそうにないものが多かったです。

何しろ、一番レベルの低い、最初の章の1番はじめに掲載されているアクティビティが「子どもと会話中(もちろん音声言語で!)に、こちらが話していることに注目させる」というものなのです。音声言語で会話ができない子どもには、最初のアクティビティすら適用することができません。

ある意味、これは非常に「潔い」割り切りであって、逆の視点からいえば、知的にも言語面でもそれほど大きな問題がなく、対人関係、社会性こそが大きな問題となっているようなお子さんをもつ親御さんにとっては、RDIはまさに「必要な領域を集中的に狙い撃ちにした」療育法だと感じられることでしょう。
ですから、対人面の課題に対する具体的な「かかわり方」のアイデアばかりをたくさん集めた本書のような本は、そういったニーズをもった親御さんにとって、日々のかかわりかたのヒントとして(とりあえず理論面はおいておいて)役立つのではないかと思います。
「アクティビティ」というと、きょうだいや同年代の子どもがいないとできないもののような印象がありますが、少なくとも前半のアクティビティの多くは、子ども1人と大人1人で実施できるものですから、「家庭での療育」にも十分応用できます。(というより、親御さんを明確にターゲットにした本になっています)

比較的障害の重い子どもにとって、「感覚統合遊び」が子どもと世界との「かかわり」を作り出すアイデアに満ちているのと同じような意味で、「RDIのアクティビティ」は、比較的障害の軽い子どもにとっての子どもと世界との「かかわり」を作り出す遊びのヒントになりえるのではないかと感じます。

値段はちょっと高めですが、実際に本を手にとってみると、大判で300ページ以上もあるずっしりとした本で、このボリューム感であればこの値段にも納得感があります。(少なくとも、2000円程度の非常に薄っぺらい本を買うよりは、コストパフォーマンスはずっと高いです。)
類書があまりないという点も加味すれば、「対人関係・コミュニケーション遊びのアイデア、バリエーションがほしい」というニーズに応えてくれるユニークな1冊だと評価できるでしょう。

※その他のブックレビューはこちら


追記1:

ちなみに、似たような「遊びの事典」として、先日こんな洋書も買いました。


Early Intervention Games: Fun, Joyful Ways to Develop Social and Motor Skills in Children with Autism Spectrum or Sensory Processing Disorders

こちらは、RDIとか特定の療育法には染まっていない、よりカジュアルな「かかわり遊び」「ことば遊び」を集めた、「自閉症スペクトラムのお子さんむけ遊び事典」になっています。値段の割にはボリュームがありますし、RDIほど要求レベルも高くないので、個人的には上記の本よりも気に入っています。




追記2:

この本の出版元であり、特別支援教育に関連した書籍も多数出版している「明石書店」ですが、労働環境をめぐってトラブルが起こっているようですね。

http://www.labornetjp.org/news/2009/1242318420207staff01
明石書店で組合つぶし・雇い止め・解雇が相次ぐ

これを見ると、明石書店の社員の大半が期間1年の契約社員で、労働条件の改善を求めて組合を結成した社員に対して会社側は契約期間いっぱいでの雇い止めで対抗している、という構図があるようです(これは組合側の情報ですので、内容が偏っている可能性はありますが)。

明石書店のトップページは(出版社にとってWebでの新刊案内は相当重要な仕事であるはずにもかかわらず)今日時点で「10月8日更新」となっていて2か月近く更新されておらず、本書は「新刊」ではなく「近刊」として紹介されているという状態ですし、いろいろと厳しい状況になっているのかもしれません。

posted by そらパパ at 21:58| Comment(8) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
明石書店から2点翻訳物を出す予定で,1点は校正刷りが来てもおかしくないのに何の連絡もないなあと思っていたところです。担当の編集者はすでに解雇されているのかも。。。
Posted by 門 眞一郎 at 2009年12月08日 01:42
門先生、

コメントありがとうございます。

いまは出版不況で、大手ですら相当に苦しいと言われていますから、とりわけ、ニッチなカテゴリを扱うこういった出版社はどこも大変なのではないかと思います。

明石書店のトラブルを見ていると、資本主義と福祉ということについて、非常に複雑な思いを感じざるを得ません。
Posted by そらパパ at 2009年12月08日 23:25
いつも勉強になります。
この本は見た事がありますが、まだ読んでいません。

近々息子がADOSを受けるので、読んでみようかなと思います。

息子は対象年齢を超えてしまっているし、テストの予習するつもりはありませんが、その辺のニーズをターゲットにしているという事で、ちょっと知りたくなったもので…。
Posted by Mママ at 2009年12月10日 00:41
Mママさん、

コメントありがとうございます。

この本は、RDIの本としては定番的なものなんじゃないかと思われます(だからこそ翻訳されたのでしょう)。

いわゆるソーシャルスキルトレーニングとも違う、ちょっとユニークなRDIのアクティビティの参考書としても、役立つんじゃないかと思っています。
Posted by そらパパ at 2009年12月11日 23:22
随分以前より、以下から「アクティビティ集」は見れる様です。敬具

[PDF] RDI(関係性発達支援)ファイルタイプ: PDF/Adobe Acrobat - クイック ビュー
ものためのRDI』アクティビティ集(レベルⅠからⅢまで)の検討へと進みたいと考えていた。 なお、2006 年になって、11 個のケース・ストーリー(実話)を集めた『私の子も踊れます』. というタイトルの本がRDI(コネクションズ・センター出版) ...

homepage2.nifty.com/mikus/sub2seminarRDIlevel107.pdf
Posted by ino at 2009年12月15日 02:17
inoさん、

RDIアクティビティの翻訳資料について情報をいただきました。ありがとうございます。
出版されたものに比べると訳文が堅い印象なのと、ボリューム的には本書全体の1割強程度のようですが、本書のコンテンツの「さわり」を立ち読み的に読むにはいい資料ですね。
(なお、いただいたコメントは途中で切れたりしていましたが、そのまま掲載しました。)

ところで、ちょっと調べてみたのですが、この資料は当該研究室のトップページからのリンクもなく、「内部資料」と明記されており、内容を読むと著作者の承諾を得て翻訳されたものではない可能性があるように思われました。(現在は本書が出版されていることから、「翻訳権」についても出版元・著作権者での契約が終わっているとも思われます。)

インターネット上で特段のプロテクトもなく公開されているので、ダウンロードする側の問題はないと思いますが、ちょっと気になるところです。
Posted by そらパパ at 2009年12月15日 22:20
そらパパさん、初めまして。
いつもブログを参考にさせて頂いております石川と申します。膨大な有益情報をありがとうございます!古いブックレビューへのコメントですみません。

ABA的なアプローチに行き詰まりを感じてた所に読んで目からウロコでした。言語コミニュケーションをとれる段階の人に対するプログラムではないかと思うのですが、その基本が非言語コミニュケーションなんですね。

なんだか例えると、鉛筆削りを持ってるのに訓練だからヤスリで鉛筆削りしてみましょう!みたいな面倒さを感じてしまいました。親の忍耐力が試されますね(泣)子供の事なので頑張ってやってみます。
良書のごありがとうございました!
Posted by 石川伸子 at 2015年06月17日 01:07
石川さん、

コメントありがとうございます。

RDIですか…。懐かしいですね。

我が家は「重度」ということで、RDIのアクティビティは難易度が高すぎて結局実際に子どもに適用することはありませんでした。

また、最近はあまりRDIの話題を聞かないのですが、この本は、今でも子どもとの係わり合いのアイデア集として活用できると思います。
Posted by そらパパ at 2015年06月23日 00:00
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