カードの作り方は、別の記事にゆずりますが、「どうしてもこうしなければならない」というやり方があるわけではありません。ポイントは、子どもにとって、見つける・持つ・渡すといった扱いがしやすいサイズ・形であることと、一定の耐久性があることくらいです。
そして、実はそれより大事なことがもう1つあります。
それは、シンボルを何にするかを選ぶ、ということです。
シンボルとは、写真、カラーイラスト、モノクロイラスト、抽象的なマークなど、「カード上に表記する図柄」のことだと考えてください。
お子さんによって、写真に目が行きやすかったり、イラストのほうが混乱しなかったりと、個性があると思いますので、それに合わせたシンボルを選ぶことが大切です。普段から、どんな絵本に興味があるかなどに注意していると分かりやすいと思います。
(場合によっては、実物の立体ミニチュアのようなものを粘土で作ってラッピングした「立体カード」を作ることさえ必要かもしれません。)
さて、カードができたら、いよいよプログラムの開始です。
まずは、そのカード化した「もの」を、お子さんが自発的に欲しがるシチュエーションを待つ、あるいは作ります。
おやつに食べているものならおやつの時間になれば欲しがるでしょうし、おもちゃであれば、見えるけれども手の届かない場所に置くとやがて欲しがるでしょう。
多少安直な方法になりますが、欲しがりそうなタイミングでわざわざ子どもの前に持ってくる(でもあげない)というやり方でもOKです。
子どもは、その「もの」の前で、それが欲しいことを示す動作(クレーン、手を伸ばす、パニック、叫び声を始める、etc.)を始めるでしょう。
ここから、PECSの第1フェーズのトレーニング開始です。
この時、子どもの目の前、手のすぐ届く場所に、カードを用意しておきましょう。
PECSでは、トレーニングだからと言って机の前に座らせることはなく、日常の生活の中で教えることになりますので、カードの置き場所にも工夫が必要です。
「ものに手を伸ばす」行動を「カードに手を伸ばす」行動に置き換えようとしているわけですから、「カード」は子どもと「もの」の中間点で、かつ「もの」にできるだけ近い場所に置くと学習がスムーズにできます。
以前もご紹介したとおり、我が家では、みかんのカードにマグネットシートをつけてみかんの入っている冷蔵庫に貼りました。これで、みかんが欲しいと思って冷蔵庫に手を伸ばすと、そこにカードがあるという好ましい環境を作ることができました。
これら準備ができた状態で、何も言わずに黙って待っています。
子どもがその「もの」が欲しいという動作をしたら、すかさず子どもの手を誘導してカードをつかませ、それを自分に渡すように手助け(プロンプト)します。カードを受け取ったら、「○○!」とそのものの名前を言い、すぐにそのものを渡します。
ここで注意することは、子どもの自発的な「欲しい」という動作があった後で、プロンプトするという点です。「何が欲しいの?」と聞いたり、子どもの動作が始まる前にプロンプトしてはいけません。あくまでPECSは「自発的な」コミュニケーションを重視します。
PECSの第1フェーズは、このように、1つの「もの」への要求を、1枚のカードで行なうという、最もシンプルなやり方でコミュニケーションを教えます。うまくいけば、1日目から子どもはカードを使って要求することを覚えてくれるでしょう。
(次回に続きます。)