とはいえ、PECSそのものについては私も↓以外にはまだ十分な情報が得られていないので、内容はこの本をベースに、私なりに整理したものになります。
A Picture's Worth : PECS and Other Visual Communication Strategies in Autism
著:Andy Bondy, Lori Frost
Woodbine House (2001)
PECSとは、Picture Exchange Communication Systemの略で、直訳すると「絵カード交換によるコミュニケーション体系」とでも呼べるでしょうか。要は、絵カードを使って、自閉症児の日常のコミュニケーションスキルを伸ばしていこうという療育プログラムです。
ちなみにPECS自体は、自閉症児の療育のあらゆる側面をカバーするのではなく、あくまでもコミュニケーションスキルを伸ばす部分だけに的を絞ったプログラムです。(PECSの発案者によって、Pyramid Approach と呼ばれる、より全般的な教育プログラムが提供されていますが、これは一般的なABAプログラムのようです。詳しくはこちらを参照してください。)
PECSも、いわゆる早期集中介入などと同様に、行動療法(ABA)の方法論をベースとして学習を進めていく療育法なのですが、目指す方向性が(早期集中介入とは)全く違います。
そしてそれこそが、私がPECSにおおいに注目しているポイントなのです。
コミュニケーションを教えようと考えたとき、いわゆるロヴァース型のABAプログラムでは、コミュニケーション行動イコール「ことばを話し理解すること」と整理し、ことばを話すこと、こちらの言葉を理解することを細分化して(スモールステップ)教え込む方法を取るでしょう。フォーマルトレーニングによる音声模倣、ことばの指示に対する正しい反応訓練などから入っていくわけです。ここでは、一義的なトレーニングの目標は「ことばを適切に使えること」となります。
それに対してPECSでは、コミュニケーションの「機能」を、まずはことばとは切り離して考えます。コミュニケーションスキルを大きく「表出」と「理解」に分け、それぞれに対し5つ、合わせて10種類のスキルを「必須コミュニケーションスキル」として整理します。そして、一義的なトレーニングの目標を「これら必須コミュニケーションスキルを(実質的に)獲得すること」におきます。
欲しいものを要求する | 指示に従う |
助けを求める | スケジュールに従う |
休憩を求める | 待つことを理解する |
質問にNoと答える | 場面の切り替え |
質問にYesと答える | 質問に答える |
PECSの提唱者たちは、これらのスキルを獲得するための手段として、最も「効率のいい」方法を模索しました。そして開発されたのが、PECSという「しくみ」ということになります。
さらにPECSでは、コミュニケーションの特性を、もう1つ別の側面からとらえます。それは「自発的」か「受動的」か、という点です。
一般的なABAのトレーニングは、療育者からの働きかけ(プロンプト)をきっかけに自閉症児が反応する流れになります。例えば音声模倣であれば療育者が言ったことばが、マッチング課題にことばで答える訓練なら「これなあに?」という質問がきっかけになります。
これらは、すべて外部からの刺激に対して反応するという意味において、受動的なコミュニケーションだと言えます。
しかし、他のスキルならともかく、コミュニケーションスキルは本質的に自発的でなければならない、というのがPECSの考え方です。
次回以降、PECSの実際のプログラムをご紹介する予定ですが、この「自発的」という部分が、他のABAプログラムにはないPECSの特徴ですので、ぜひ頭の片隅に留めておいていただければと思います。
(次回に続きます。)