http://at2ed.jp/sbm/
障がいのある子どもたちのための携帯電話を利用した学習支援マニュアルの公開について
このプロジェクトは、携帯電話を活用して、障害をもった子どもを支援し、社会参加の促進を目指そうというもので、上記リンクから、学習支援マニュアル(現在は初版)がダウンロードできるようになっています。
「マニュアル」とありますが、実際には特別支援教育等への携帯電話の活用アイデア集、提案集といった印象が強く、まだ体系だったものになっているとはいえない印象です。
また、基本的には携帯電話を自ら使えるようなある程度知的水準の高いお子さんを念頭においていることにも留意する必要がありそうです。
自閉症と関連がありそうな記述としては、下記のようなものがありました。
長いですけど引用しておきます。
録音やカメラ機能を簡易コミュニケーションエイドに~ことばで説明が上手くできない子どものために
言語に障がいのある子どもは,他者と音声のやりとりをする機会が得られにくいことから,コミュニケーションに対する動機づけが子どもの中に育ちにくいことがあります。音声コミュニケーションエイド(VOCA)と呼ばれるツールが,こうした動機づけを育てるために使われています。
<活用>
録音機能は,多くの携帯に備わっていますが,「録音はメモするための手段」と,その使い方にこだわる必要はありません。他者とのやり取りに便利な言葉をいくつか録音しておき,子ども自身が,それらの言葉を他者に対して聞かせます。こうしたやり取りを子どもと一緒に行うことで,子どもはみずからの他者への働きかけの結果として,他者から働きかけに応じた反応が帰ってくることを経験します。そうすることで,子どもはコミュニケーションの楽しさを知り,買い物など一般の生活場面で参加できる場面を広げていくきっかけとなります。
カメラ機能も同様に,言語の使用や理解が難しい子どもにとって,「見せて伝えあう」ことでコミュニケーションを補償・代替するツールとして使うことができます。
<事例>
・高機能自閉症のあるジュン君は,昼食にうどんを食べに,近所の食堂へ出かけることを楽しみにしています。挨拶のことば(「こんにちは!」)や,注文の内容にあたることば(「カレーうどんを一杯,お願いします」)を携帯電話に録音しておき,お店ではそれを店員さんに聞いてもらって,注文をします。お気に入りのうどんを食べられて,A君は嬉しそうです。
・知的障がいのあるリョウ君は,ことばを使って表現したり,理解することが困難なので,トイレに行きたいときも周囲の人に「トイレに行きたい」と伝えることができず,また周囲が「トイレに行きたいの?」と聞いても答えることができません。しかし,いつも使っている学校のトイレの写真を携帯電話に入れておき,それを相手に見せたり,相手から見せられることで,写真を使った意思のやり取りができています。
時間の流れの把握を助けるツールとして~注意の転動や過集中,時間感覚に困難のある子どものために
時間の流れの把握が難しい自閉症や,時間に注意を向けることから気がそれたり,集中しすぎてしまうAD/HDのある子どもでは,集団活動で周囲から取り残されたり,パニックになったりすることがあります。時間がわかるように訓練するのではなく,道具を使って,障がいのため難しい時間感覚の把握を支援することが重要です。
<活用>
タイマーやアラームなどの機能は,本人がAD/HDなど注意の障がいのために時間の経過に気づかなかったり,自閉症スペクトラムのために時間感覚そのものを把握することが難しい場合に,重要な役割を果たします。本人が気づきにくい時間の流れを,携帯電話から教えてもらうようにすることで,ひとつのことをずっとやり続けて疲れ切ってしまったり,時間の流れ自体が把握しにくいことで,集団生活に適応できずにパニックになったりといった困難を避ける工夫につなげることができます。
また,携帯電話単体の機能ではありませんが,次第に減ってゆく目盛り表示などで,視覚的に残り時間を示してくれるタイムエイドも,iPhoneなど携帯電話用のアプリケーションとして登場し始めています。
<事例>
・AD/HDのあるサトミさんは,注意の障がいからくる過集中があり,いったん何かの作業に没頭するといつまでも続けてしまうことが頻繁に起こります。そうなると極度に疲れ切ってしまい,一時期はそれが続き学校に通えないほどでした。そこで携帯電話のアラームで「一定時間ごとに休憩する」ことをこまめに教えてくれるよう設定すると,それだけで,体の疲れが随文楽になったように感じられました。
・自閉症のあるケンジ君は,時間感覚を把握することが困難です。「今から30分,遊ぼうね」と先生と約束して,時間が来て遊び時間の終わりを告げられても,A君には突然終わらされた気がしてパニックを起こしてしまうことがあります。残り時間をグラフィカルに表示するタイムエイドを使い,残り時間をわかりやすくすることで,パニックになることが随分少なくなりました。
個人的には、今回の初版ではまだ踏み込んだ記述はありませんでしたが(表のなかの項目としてだけ書かれています)、「電子マネーを使って、お金の計算ができなくても買い物ができる(しかも、使いすぎたり変なものに使ったりしないよう、ペアレンタルコントロール的なものをかけた状態で貨幣経済に参加できる)」というのが実現できたら、重い知的障害をもった子どもにとってはかなり画期的なんじゃないか、と思いました。(まあ、携帯である必然性はないんですが、直感として、携帯のほかの支援機能と電子マネーがリンクしたら、「よりバリアフリーな電子マネー」ができそうな予感がするわけです)
AT2EDは中邑賢龍先生が主宰しているHPですね。
昨今は、DSでコミュニケーションエイド「DSあのね♪」がでたり、また日本製ではありませんが、AssitiveWare社のProloquo2go
http://www.proloquo2go.com/
などがでてきて、簡単にAACをデジタル化できる環境が整っきました。
私も香川大学/坂井聡先生の「障害のある子とケイタイでちょこっとコミュニケーション」を使っていますし、DSあのねも購入しましたが、総じて子どもたちには好評です。
ただ、大事なことは、保護者がこういったツールを当事者に提供すれば、それだけで便利になる、という雰囲気がある、ということです。そらパパさんも「ある程度知的水準の高いお子さんを念頭において・・・」とおっしゃっていますが、ABAなどできちんとマンドを出力できるように学習している子であれば、少しの訓練で誰でもこういったAT、ACCは使えるのですが、そうでなければまさに「猫に小判」です。
AT-Marketさんに、Proloquo2goの日本語版の相談をしているところですが、それと同時に、使用する側の教育、啓蒙が大事だと、一技術者・エンジニアとして、痛感している日々です。素晴らしいエイドが、「結局、使えないよね。」という評価にならぬようにしたいです。
以上、取り急ぎ。
コメントありがとうございます。
確かに、こういったエイドツールの難しいところは、使いこなすための前提スキルとか、前提となるコミュニケーションレベルがあって、それを無視してしまうと自己目的化して失敗してしまうということかもしれません。
Proloquo2goをご紹介いただきましたが、ソフトバンクが今回のプロジェクトにかんでいるのも、iPhoneという強力な武器を持っているからこそなのでしょうね。
(DSあのねも興味がありましたが、さすがに高価で我が家ではちょっとスキル的に合わない感じなので購入していません・・・)
iPhoneもまだまだ「子どもが壊れるまで使いたおす」ことを考えると高価で壊れやすいガジェットなので、1万円程度で買える電子エイドができてくると面白いですね。