A Picture's Worth : PECS and Other Visual Communication Strategies in Autism
著:Andy Bondy, Lori Frost
Woodbine House (2001)
「A Picture's Worth」、2回目を読み終わりました。
不思議な読後感のある本です。
基本的には療育のテクニックが書いてある本なのに、ちょっと「感動」に近い感情が残るのです。
恐らく、いろいろ解説してもそのニュアンスが伝わらないのではと思うので、少し長いですが本書の「あとがき」を引用して、ついでに下手な訳もつけてみたいと思います。
Teaching children to be effective communicatiors is one of the most important and rewarding goals for professionals and parents alike. We all would like for our children to learn to speak well. However, as we have tried to stress throughout this book, children and adults who do not speak can still be excellent communicators. What these individuals need from us is patience to figure out what they want, skill to set up an effective training program, and flexibility to make thoughtful adjustments best suited to that person.
We hope that this book will spark interest in following up on many of the resource materials noted at the end of each chapter. The intent of this book is to provide you with assistance in making the first steps down a critical pathway. Our hope is that you will walk down that path hand in hand with the person you love or work with and then be able to let go of that hand when the time comes for independence. We hope you will find the many ways that our children can respond with expressions of their love for your efforts and dedication.
(訳)
効果的なコミュニケーションができるように子どもを教育することは、プロの療育者にとっても親にとっても、等しく、最も重要で有意義な目標です。もちろん私たちは皆、子どもにうまくことばを話せるようになって欲しいと思うでしょう。しかし、本書の全体を通じて強調してきたつもりですが、子どもであれ成人であれ、ことばを話さなくても、ちゃんとコミュニケーションできる人間にはなれるのです。そういった人たちに対して私たちが求められることは、彼らが何を必要としているかを見つけ出す忍耐力、効果的な療育プログラムを組み立てる力、そして個々人に最も合うようよく考えられた調整ができるような柔軟性です。
本書が、各章の終わりに掲載した資料をいろいろ調べたくなるような興味をかきたてることを期待します。本書の目的は、本当に大切な道のりに、あなたが最初の一歩を踏み出す手助けをすることです。そして望むらくは、その道のりを、あなたが愛する、あるいは一緒に働く人と手に手を取って歩いていき、やがて訪れる独り立ちの時に、その手をそっと離すことができることを。あなたの献身的な努力に対して、お子さんが、いくつもの方法であなたへの愛情表現を返してくれるようになることを祈っています。
このあとがきには、本書の思想が強く反映されていると感じます。
本書では、自閉症児が自分の要求やその他のメッセージを周囲に伝え、周りの人のメッセージを理解すること、つまり自発的なコミュニケーション能力に徹底的にこだわっています。でも、そのコミュニケーションのための手段に対しては極めて柔軟な立場をとります。コミュニケーションそのものに対するこだわりとは対照的に、ことばを覚えることそれ自体に対して過剰なこだわりを持つことを強く戒めています。
なぜなら、自閉症児が人間らしく生き、社会で自立していくために本当に必要なのは、コミュニケーション能力という「本質」であって、その手段がことばでなければならないといった「形式」では決してないからです。
※補足しておくと、本書ではPECSと平行してことばを訓練することはまったく否定されていませんし、PECSでコミュニケーションスキルが上がるとことばを自然に獲得するケースが少なくないことも示されています。でも、それはあくまで「結果」であって、最初からそれを「目的」にしてしまってはいけない、ということなのです。
本書が取り扱っているPECSおよびその他の「ことば以外の」コミュニケーション手段は、ことばを理解し、使うことに多大なる困難を持っている自閉症児に対して、ことばの持つ機能(=コミュニケーション)と同じものを、ことばとは別の、自閉症児にとってより易しい形で提供することを目的として開発されたものです。
実は、ここにも、前回の関連記事で書いたのと同様の行動療法(ABA)の「機能分析」の考え方が生かされています。
つまり、PECSは、ことばそのものを機能分析して、ことばと同じ機能を持っていてしかも自閉症児にとって習得しやすい、別の方法に置き換えているということなのです。
行動療法(ABA)を本当に効果的に自閉症児の療育に使うにはどうすればいいのか、自閉症児の特性(得意・不得意)を考慮した療育プログラムとはどんなものなのか、本書を読んで少し答えが見えてきた気がします。
本書が日本語になっていないのは本当にもったいないと思います。
それを補うという意味も少し込めつつ、今後、内容について少しずつご紹介していければと思っています。