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2006年02月24日 [ Fri ]

結局のところ、自閉症って何だろう?(7)

最後に、今回のシリーズ記事の流れで、行動療法(ABA)というものをどう考えるべきなのか、書いてみたいと思います。

実は、行動療法にも2種類あります。

強化や消去、行動の観察や機能分析といった、ABAの手法を活用しつつも、療育プログラムの背景としてある特定の認知発達モデルを仮定し、そのモデルに従ったカリキュラムを組んでいこうという考え方が「方法論的行動療法」です。
実は、TEACCHやPECS、太田ステージなど、近代的といわれる療育法で、「行動療法」とダイレクトに呼ばれていないものは、ほとんどこのカテゴリに入ります
逆に言えば、ABAの方法論をまったく使わない療育法(遊戯療法や精神分析、スパルタ、抱っこ法などなど・・・)は、今やまったくの時代遅れだと断言していいと思います。

大切なことは、このカテゴリの療育法は、実は「行動的レベル」ではなく、「認知的レベル」に焦点を当てた療育法だ、ということです。認知発達をコントロールするために、ABAのやり方を活用しているわけです。

もう1つの行動療法は、「徹底的行動療法」と呼ばれ、行動として目に見えないもの、測定できないものは徹底的に排除します。例えば、ことばを訓練するにしても、「背後にある認知発達」といったような「目に見えないもの」は考えず、「アイコンタクト」「マッチング」「動作模倣」「音声模倣」のように、ことばを発するための目に見える行動を分解して、それを段階的に教えることにこだわります。それが「唯一、科学的に正しい態度だ」というのが、徹底的行動療法の考え方です。
「ロヴァース法」「早期集中介入」がこのカテゴリに入るのは、一見して明らかですね。

実は、水と油のように言われているロヴァース法とTEACCHにしても、使っている手法に大きな違いがあるわけではありません。最大の違いは、その手法に対する、ある種の「価値観の置きかた」にあるのです。価値観の違いだからこそ、両者の対立はときにイデオロギー的なものになってしまうのでしょう。

ちなみに、一般的な心理学の世界ではこの2つはどう位置付けられているかというと、実は「徹底的行動主義」はほとんど絶滅寸前です。理由は簡単で、行動主義にこだわりすぎると「目に見えない」人間の知的な営みのほとんどを排除しなければならなくなる、言い換えると、心理学が最も興味を持っている分野をほとんど捨て去らなければならなくなるからです。
代わって台頭しているのが、方法論的行動主義に基づく認知心理学、つまり、人間の心理について、目に見えない情報処理システムを仮定して(この段階で既に「徹底的行動主義」とは袂を分かっています)、その働きを、目に見える行動として測定して研究する心理学です。

私自身、大学時代も、そして最近も、「徹底的行動主義」の本もかなり読みました。この世界の古典とも言われる「オペラント心理学入門―行動分析への道」も最近じっくり読んでみました。
そして、最終的に出したのは、「自閉症の療育を突き詰めていくと、徹底的行動主義に立つことは、やはりできない」という結論でした。

問題行動の抑制や、自助スキルの確立などは、「徹底的行動療法」でいいでしょう。これらは、何をさせて、何をやめさせればいいかが明確なので、行動療法の枠組みが容易に当てはまります。
また既にことばが出ているアスペルガー障害のお子さんの場合は、言語行動の矯正まで含めて、「徹底的行動療法」でもいいかもしれません。現に、アメリカなどではこの領域で目覚しい成果が上がっています。

しかし、ことばが出ていない自閉症児にことばを教えること、これには、徹底的行動療法がベストだとは到底考えられません。なぜなら、「なぜことばが出ないのか」の認知モデルを考えないでことばを教えるのは、磁石も持たずに樹海に入るに等しいことだと思えるからです。

実は、徹底的行動主義が「認知革命」と呼ばれる認知心理学の台頭に敗れたのは、ことばの発達に関する論争がきっかけでした。行動主義者の反論があることももちろん知っていますが、端的に言えば、徹底的行動主義は、動物の行動から始まって、ヒトのことばの手前までで心理学の最前線から姿を消した学問なのです。

ことばのない自閉症児にことば(コミュニケーション)を教えるためには、「ことばとは何なのか?」「ことばが出るためには何が必要か?」「自閉症児には何が欠けているのか?」といった、深い深い樹海を歩くための磁石がどうしても必要です。「見通しが立てにくい」「対人関係がうまくいかない」といった問題も同様でしょう。

そして、これらの問題こそが、自閉症児が最も困っている、最大の障害なのではないでしょうか。

その障害を「なかったこと」にして、ただやみくもに行動レベルに還元して話を進めようとする徹底的行動療法のスタイルは、まさにかつて徹底的行動主義が心理学の表舞台から消えたときの姿を改めて見ているかのようです。

ABAの「方法論」は絶対に採用すべきです。でも同時に、認知的レベルでのアプローチも、自閉症の療育には絶対に必要だと、私は考えます。

posted by そらパパ at 22:54 はてなブックマーク | コメント(2) | トラックバック(0) | 理論・知見
この記事へのコメント
最近、よく見せていただいています。全部を読んでいないのですが、大学で勉強なさった方なんですね。ちょっと私には難しいなと思いつつ、お勉強させていただいています。

中2の重度知的障害を伴う自閉症児の母です。4歳の時点では、数値が足りなかったのか、広汎性発達障害といわれましたが、今は立派な自閉症です。
お勧めのA Picture's Worthを、購入しました。高校生の息子に、英和辞典を借りて読みます。

明日、門眞一郎先生の講演会に行きます。申し込んでから、調べて、このブログにたどり着きました。
ニキ・リンコさんも、講演会で(明石洋子さん、坂井聡先生との3人対談)お話を聞いてから著書を読んだという、ちょっと問題ありの母親です。
言い訳を言えば、自閉症と言われた時、おんぶを続ければ治るとか、受容して母親が変われば治ると言われた時代です。今のように、ネットで調べるなんて、考えられませんでした。一部で、TEACCHというのがアメリカで流行っているらしい、でも、担当の先生は否定的でした。
今も、私の頭はそこで止まっているのかも知れません。ですから、このブログはとても勉強になります。また、読ませていただきますね。
Posted by さとし母 at 2006年02月26日 17:17
PECSの本を買われたのですね。ありがとうございます。
あの本は、英文を多少読んでいる方なら十分読みこなせると思います。
もし、分からない箇所などありましたら、何ページのどこと示していただければ、ご説明したいと思います。

門先生の講演、私も聞いてみたいですね。ご存知だと思いますが、現在、日本でPECSの最前線を歩いておられるのは門先生だと伺っています。

自閉症に関する考え方も、10年単位でみると本当に大きく変わっていますよね。
私自身、新しい本を読んで勉強するたびに、いつも違う世界が開けていくのを感じていて、自閉症療育というものの奥の深さ、難しさを感じます。
その一方で、頭でっかちにならずに目の前の娘のために早くやるべきことをやらないと、と焦る毎日です。

いろいろな方に読んでいただいて、本当にありがたく思います。
今後とも、本ブログをよろしくお願いします。

※上記「さとし母」さんのコメントの日時が事情のためずれてしまいましたが、2月25日にいただいたコメントでした。
Posted by そらパパ at 2006年02月26日 17:19


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