アスペルガー症候群
著:岡田 尊司
幻冬舎新書
第一章 アスペルガー症候群とはどんなものか
第二章 アスペルガー症候群の症状はどのようなものか
第三章 アスペルガー症候群を診断する
第四章 アスペルガー症候群の脳で何が起きているのか
第五章 アスペルガー症候群が増えている原因は何か
第六章 アスペルガー症候群と七つのパーソナリティ・タイプ
第七章 アスペルガー症候群とうまく付き合う
第八章 学校や家庭で、学力と自立能力を伸ばすには
第九章 進路や職業、恋愛でどのように特性を活かせるのか
第十章 アスペルガー症候群を改善する
お金を払って本を買うときは、もちろんその本が素晴らしいものであることを期待して買って、それが自閉症関連の本の場合は、ぜひレビュー記事で皆さんにおすすめできれば、と思っているのですが、残念ながら、ここ最近、その期待は裏切られ続けています。
この本も、せっかく読みやすい新書で出た新刊なので、できればいい内容で皆さんにおすすめできるものだといいなあ、と思って買ったのですが・・・
やっぱりだめでした。
この本も「おすすめできない本」でした。
著者の岡田氏については、「何となく聞いたことがあるなあ」と思いつつ、とりあえずは先入観を持たずに読んでいったのですが、アスペルガー症候群の原因として、ワクチンの影響は『極めて小さい』(と書いてあるので、小さいながらも影響は『ある』と言っていることになります)、鉛などの重金属の影響は『数多くある要因の一つと言えるかもしれない』(これも「影響ある」と言ってるわけですよね)、そして極めつけは「(テレビなどの)画面を見せすぎるとアスペルガー症候群になる」と書いてあるのを発見するにいたり、「ああ、こりゃダメだ」ということで、真剣に読むのをやめました。
どんな子どもも、人と滅多に顔を合わさず、表情のないロボットや画面に囲まれて育てば、間違いなくアスペルガー症候群になるだろう。(初版131ページ)
さらにこの本のうさんくさいところは、古今東西の「ちょっと変わった天才」をことごとくアスペルガー症候群だと「決め付け」て、そのエピソードを紹介することで、「アスペルガー症候群の人への対応はこうすればいいんだ(そうすれば天才が花開きますよ!)」と繰り返し主張している点です。
具体的に本書であげられている「アスペルガー症候群の天才・有名人たち」とは、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、アインシュタイン、ヴィトゲンシュタイン、イェイツ、ダーウィン、キルケゴール、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ジョージ・ルーカス、本居宣長、チャーチル、益川敏英、アンデルセン、アラン・チューリング、宮沢賢治、グラハム・ベル、三島由紀夫、ヒトラー、最近の「誰でもよかった」といった無差別殺人の犯人(←こんなのまでアスペルガー認定していいのか?)、井深大、エジソン、ウォルト・ディズニー、西田幾多郎、ガウディ、ヒッチコック、ゴッホ、モーリス・ユリトロ、アンリ・ルソー、マハトマ・ガンジー、ルイス・キャロルなどです。
あまりにたくさんあるのでこれでも全部じゃなさそうです。本書のなかでは、こういった人たちのエピソードを引用しながら、いちいち「彼もまたアスペルガーだった」みたいな形で紹介しています。
・・・うーん。
別のページで「アスペルガー症候群はしっかりとした診断が大切」といって診断シートまで載っているのに、著者自身は不十分な「偉人伝」のエピソードだけで、ありとあらゆる有名人を断定的に「アスペルガー症候群」認定してしまうとは・・・。
こういうのは、「ダブル・スタンダード」と呼ばないのでしょうか。
もちろん、そういった天才たちに、アスペルガー症候群の人が実際にたくさん含まれていることは事実なのかもしれませんが、そのことと、個別具体的な人について、伝聞のエピソードだけで障害認定することとは同じではないと思うのですが、いかがでしょうか。
それ以外の議論も、著者本人の筋のとおった主張がほとんど感じられず、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと話題が飛んでしまうばかりで、なんか全体的に議論が雑な人だなあ、と思って、改めて調べてみて、初めてこの人が、あの「脳内汚染」というベストセラーを書いた人だということを知りました。
なんだ、要は「ゲーム脳」の人と同列ということか。
だったら、議論が雑なのも仕方ないか。というか、わざわざこんな人の本を買って読むんじゃなかった。
というわけで、書店で見かけても買わないほうがいいでしょう。
これを買うなら、比較するのもおこがましいですが、同じ新書ということで、杉山先生の「発達障害の子どもたち」のほうがはるかにいいです。
うーん、それにしても、そろそろ本当に「おすすめできる本」の新刊レビューが書きたいものだけど・・・。道は遠そうですね。
その他のブックレビューはこちら。
これはまた・・・ひどいですねぇ・・・。
当事者として・・・怒ってます。
何じゃ~アスペルガー症候群の定義も何もないわ・・・。
みんな・・・こんな本のお金を出さないでほしいものですね・・・。
はじめまして。
数年前に自閉症スペクトラムと診断された「青いカモノハシ」と申します。
アラフォーの女性です。
同じ障害名を持つ子どももおります。
そらパパさんのブログは、すべての記事を読みました。
内容的に難しいこともあるので、時間が経ってから読み返すことも多々あります。
障害当事者としても親としても教えていただくことが多く、ひとつひとつ勉強させていただいております。
この本は気になっていたので、大変参考になりました。
どうもありがとうございます。
岡田尊司氏の著作は何冊か読みました。
私は、岡田氏について以下のような印象を持っています。
・人格障害については造詣が深く、人格障害当事者の方々に対しても深い愛情をもっているように見える。
・一方、発達障害については専門外で、著作のところどころに明らかな間違いなど不適切な表現が見られる。
と感じました。
人格障害について調べたいなら岡田氏が書いた本には一定の信頼がおけそうですが、
発達障害については彼の言うことはむしろ聞かない方が良いのではないかと私は考えております。
この本の内容は、自分の目でも是非確かめようと思います。
これからもどうぞよろしくお願いいいたします。
コメントありがとうございます。
実際、「誰でも彼でも『ちょっと変わったエピソード』があったらみんなアスペルガー認定」っていう本書のスタンスはいくらなんでも雑すぎるだろうと思います。
それ以外の内容については記事ではあえて書きませんでしたが、アスペルガー症候群の「症状」についても「原因」についても「性格」についても「対応方法」についても、どれも世間のいろいろな説を雑多に集めて並べてあるだけで、本書の内容を一言でいえば「アスペルガー症候群にはいろいろな症状があって、原因はいろいろ言われているけどよく分からなくて、性格もいろいろで、対応方法もいろいろある」というものになってしまっていると思います。
この人の人格障害の本については読んだことがないのですが、少なくとも著者が本書で展開しているロジックのレベルを見る限り(そして、「脳内汚染」へのさまざまな批判で指摘されている内容を読む限り)、個人的にはこの人の書いたものを積極的に手にとろうとは思えない、というのが率直なところですね。
現在中学に入っていろいろと苦労しています。普通の学校で、めちゃ厳しいです。
精神的にもですが体力的にもいつ倒れるか…。
だからこそ、本などで広く理解される事を願うのですが、本当にこのエリアはまだまだなんですね。
理解を求めるにも研究が進まな過ぎて、親も説明のしようがない事がとても多く歯がゆいです。
ごめんなさい、愚痴になってしまいまいた。
コメントありがとうございます。
新書は、やや旬は過ぎましたが、出版業界ではベストセラーを出しやすいということで非常に力の入っているジャンルです。
それだけに、最近は乱造ぎみで(自閉症関連の本に限らず)レベルの低下がめだっています。
たくさんの人が手に取る新書だからこそ、しっかりとしたものを作ってもらいたいものですね。
コメントありがとうございます。
うーん、クオリアに強いとか弱いとかが語れるとは思えない(そういうことのできない「ハードプロブレム」としての問題提起がクオリアなのだと思います)ですが、仮にそういうことがあっても、それは障害の原因ではなく、結果としての表れの1つなのではないかと思います。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%A2
はじめまして、
9歳の広汎性発達障害の子をもつ父親です。
そらパパさんの療育への考え方にすごく共感し、ブログも随時チェックし勉強させてもらってます。ありがとうございます。
いつも本のレビューを参考にして購入しておりますので、これからも発達障害関連のレビュー記事、期待しております。
どうぞよろしくお願いします。
はじめまして。コメントありがとうございます。
私自身、ブログを通じて、少しずつ自分なりの療育の方向性を模索してきましたので、その記事をお読みいただいて、少しでも参考になったところがあったとしたら嬉しく思います。
ブックレビュー、最近はちょっと評価できる本がありませんが、これからも続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
ようやくこの本を読み終わりました。
できるだけニュートラルな気持ちで読み進もうと思っていたのですが、非常に苦労しました。
今そらパパさんのレビューを読み返すと、
「ああ、本当にそうだなあ…」
と口の中に苦いものが込み上げてくるようです。
そらパパさんのご感想は的を射ていると思います。
私は、アスペルガー当事者&アスペルガー児の母として読んでいるうちに、
「あなたやあなたの子は天才だ、現代の寵児だ」と祭り上げられる一方で、
「お前やお前の子のような奴はただの邪魔者だ」と奈落の底に叩き落とされるような感覚
を幾度となく味わいました。
著者が一体何をしたいのかが見えず、本当に苦痛でした。
この障害を持つ者や家族の力になりたいのか。
世の中に対する警鐘を鳴らしたいのか。
結局は後者の意味合いが強いのだと私は解釈しました。
警鐘を鳴らすなら鳴らすで、表現に気をつけてもらいたいものです。
障害者や家族を無駄に傷つけることは意味がないように思います。
この著者、小説家でもあるのですよね。
まだこの人の小説は読んだことがありません。
「言葉に神経が行き届かない小説家か~。」
とため息が出ます。
コメントありがとうございます。
先日、この本についての著者インタビューが東洋経済に掲載されました。
http://www.toyokeizai.net/life/review/detail/AC/52a5152b57cdb1b390762542f80f1b04/
相変わらず、あまり深くない、雑な議論をしているなあ、という印象を持たざるをえません。
特に、いまの日本の社会は極端にサービス業に偏り、一次産業も二次産業もほとんど死に絶えて、「人との関わり」が極めて重視される、自閉症スペクトラムの人にとって生きにくい社会になっている可能性のほうが高いのに、「現代社会はアスペルガーにとって有利」みたいなことを平気で言ってしまうところは、まさに木を見て森を見ない議論だと感じます。
著者がこの本で何を書きたいのか、私もよく分かりません(単に「売れそうだから書いた」だけなんじゃないか、と勘ぐりたくさえなりますね。)
岡田尊司氏について調べていて、たどり着きました。
岡田尊司氏の小説について、話題が出ているようなので、私が読んだ作品に関してですが…
デビュー作である『DZ』という作品は、登場人物が片っ端から強姦・惨殺されていく、という極めて暴力的な小説でした。内容を言え、というと、そういう風にしか言えない、というか…
『脳内汚染』の中で、氏は、「暴力的なゲームの映像により、子供の暴力性が高まり、犯罪に繋がる」というようなことを言っているにも関わらず、自身で暴力描写、性描写の多い小説を次から次へと発表している様子に、行動そのものもダブルスタンダードなのだな、と思わざるを得ません。
コメントありがとうございました。
さもありなんと思います。
こういう、ダブルスタンダードをまったく気にしないような人の矛盾に満ちた文章を読んでいると、「自閉症スペクトラム」を考えるときには、本当に緻密な論理的思考が要求されるなあ、と改めて感じます。