2006年02月23日

結局のところ、自閉症って何だろう?(6)

前回、自閉症の障害とは何かを考えるにあたって理解しておくべき、3つのレベルの違いについて書きました。

・生物学的レベル・・・脳神経系の器質的な障害
・認知的レベル・・・・・脳の情報処理プロセスの障害
・行動的レベル・・・・・実際に観察できる行動上の障害


そして、世間に存在するさまざまな自閉症の「療育法」「治療法」は、これらのどのレベルに着目しているかで、やはり3つに分けることができます。

行動的レベル」に徹底的にこだわる療育法が、まさに名前どおりの行動療法(ABA)です。
自閉症に関しては、厳密な意味で分かっているのは「○○ができない」という症状だけですから、その「できないこと」を、応用行動分析の知見を活用してトレーニングし「できる」ように変えていく(行動変容)のが、行動療法の基本的考え方です。

生物学的レベル」については、前回「ほとんど分かっていない」と書きましたが、分かっていないわけですから療育法も存在しません。
もし自閉症の脳の器質的障害の詳細が分かってくれば、脳外科手術、薬、電気刺激などによる、療育ではない「治療」の可能性も出てくるでしょうし、より早期の発見・対応も可能になるでしょう。
ちなみに、このレベルには、いかがわしい療法が多数生まれる余地があることも指摘しておきたいと思います。このレベルでは「えせ科学」を使って客を納得させ、自閉症が「完治する」と宣伝することができます。さらに、その「えせ科学」を使って、何か高額な「モノ」を売りつけることができるので、まさにその方面の人たちにとっては願ったりかなったりなのです。

そして、最後に残った「認知的レベル」に関する療育法ですが、これの端的なものとしては、「太田ステージ」があげられるでしょう。これは、自閉症児の発達を認知スキルによって段階分けし、それぞれの段階の子どもに、次の段階に進むための療育を行なうという療育法です。家庭で実践するための手引きとしては、「認知発達治療の実践マニュアル」がおすすめです。
また、TEACCHも、自閉症児の認知的レベルの障害にこだわる療育法です。TEACCHで使われる構造化や社会参加などの手法の背景には、自閉症児の認知的困難を理解し、自閉症児にとって分かりやすい(認知上の困難が起こりにくい)環境を積極的に作っていくべきだという思想があります。ただ、TEACCHは臨床的アプローチによる療育法なので、自閉症児の認知上の困難の定義や、構造化の理論的背景などが明確になっているわけでは必ずしもありません。

なお、「認知的レベル」での障害を説明する有力な仮説として「心の理論」仮説というものがあります。詳細は過去にご紹介した「心を生みだす脳のシステム」や「自閉症とマインド・ブラインドネス」、「自閉症の心の世界―認知心理学からのアプローチ」にありますが、要は、自閉症児は他人の心を推測する能力に欠けている、という仮説です。そこで、この「心の理論」を直接検査・トレーニングするという療育法が、言語能力の高いアスペルガー症候群のお子さん向けに存在します。例えば:


コミック会話―自閉症など発達障害のある子どものためのコミュニケーション支援法
著:キャロル グレイ
明石書店

(本書より引用)コミック会話は、人の言動を系統立てて明確にし、人はどう思っているのかに注目するものです。

http://dik.co.jp/publish/
アニメーション版 心の理論課題CD-ROM
DIK 教育出版

心の理論だけを直接トレーニングすることが効果的かどうか、はっきりしない面もありますが、興味深いアプローチではあると思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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