2006年02月20日

結局のところ、自閉症って何だろう?(4)

自閉症が生まれながらの障害であることと、自閉症の人はコミュニケーションスキルに大きな障害を持っていること、この2つの理由から、私たちは、自閉症の人に問診をして外から見えない内面的な障害について理解を深めるということがほとんどできません。

もちろん、前回ご紹介したような、高機能自閉症の方が自らの障害について語っている本もあり、大いに参考にはなりますが、これらは科学的に統制されたものではありませんし、すべての自閉症の方に当てはまるかどうかは分かりません。
特に、典型的なカナー型の重い自閉症の方が、この世界からの感覚をどのように受け止めているのか(それが普通と比べてどのような障害を抱えているか)については、このような方法に頼っている限り、永遠に闇の中と言えます。

このような状況を打破するための、自閉症の原因究明の動きとして、大きく2つの方向が存在します。

第1の方向は、生物的レベルの研究です。

自閉症の原因が脳や神経系の器質的異常にあると考え、異常部位を特定し、それによって脳のどのような機能がどのように阻害されているかを割り出して、必要な治療を行なう、という立場です。
自閉症児にはてんかんが多いことや、知的障害を併発することが多いことから、自閉症児の脳になんらかの器質的異常があることはほぼ確実だと言われています。
「異常部位」の候補としては、小脳や扁桃核、海馬など、いわゆる「古い脳」と言われる部分があげられていますが、最近では、複数の種類の障害が、同じ「自閉症」という症状を引き起こす可能性が指摘されています。

第2の方向は、認知レベルの研究です。

自閉症は脳の障害です。
脳が他の器官と決定的に異なるのは、感覚や運動、思考などの情報を処理する機能を持っていること、つまりソフトウェアが動いていることです。この情報処理のプロセスを、広い意味で「認知」と呼びます。
この認知のプロセスにどのような機能障害があるのかを特定できれば、自閉症の人がどんな世界を生きていて、どんなことに困難があるのかが明確となり、療育の効率を大きく高められるでしょう。
これは言い換えると、自閉症者の「心理的内面」を研究することですが、先のとおり問診はできませんので、仮説のもと統制された実験により、健常者にできて自閉症者にできないことを探していくというアプローチをとります。
第1の生物的レベルの研究が、脳のハードウェア面での異常を研究することだとすると、第2の認知レベルの研究は、脳のソフトウェア面での異常を研究することだと言うことができるでしょう。

どちらのアプローチが早く答えにたどり着けるかは、今のところ分かりません。
ただ、個人的には、生物的レベルの研究には限界があるのではないか、と感じています。

脳を1つのコンピュータシステムと考えたとき、「脳の器質的異常」というのはむき出しの機械のパーツの不調を指し、自閉症という障害は、コンピュータを起動してアプリケーションを実行したときの、アウトプットの不調を指すと考えられます。

つまり、「脳の器質的異常」と「自閉症の症状」は、入口と出口、まさにこの障害を考えるときの両端であり、あまりにも距離が遠いのです。
また、脳は、その可塑性・適応性により、多少の器質的異常は認知プロセスを変えることによって解消してしまう力を持っています。つまり、ハードウェアに異常があれば、ソフトウェアも適応的に変化するということです。これは、仮に直接の器質的な原因が見つかったとしても、結局、認知プロセスの変化まで含めて研究しなければならない、ということを意味しています。

結局のところ、脳がハードとソフトで構成されている以上、脳の異常というのは、特定の部位(ハード)の器質的異常というだけでは説明しきれず、特定の認知機能(ソフト)の異常という説明がどうしても必要なのではないでしょうか。

次回は、今日ご説明した内容について考えるのに好適な本をご紹介したいと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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