2009年09月28日

そらまめ式絵カード療育法 (13)

4.要求のコミュニケーションを教える(続き)

(4)ステップ3:複数の場所に、複数の絵カード(続き)


ステップ3(絵カードの意味を理解し、欲しいものに対応した絵カードを選ぶことを教える)の療育をすすめていく際のポイントとして、以下の2つがあげられます。

a.複数ならんだ絵カードからどれを選ぶかについては、手助けをしない。

 これは、下手に手助けしてしまうと、子どもが本当に欲しいものと違う絵カードを交換するという不適切な行動を「手助け」してしまう恐れがあるからです。
 前回の記事で、「子どもの内面の意図(どちらのアイテムが本当に欲しいのか)が必ずしもわからなくても、ステップ3の分化強化学習は適切に進めることができる」と書きましたが、このような巧妙な分化強化学習をうまく進めていく大前提となるのが、この「絵カードの選択は子ども自身が行なう」という部分になります。
 ですから、ステップ3にすすむ前の「ステップ2」の段階で、「自主的に絵カードをはがして親に渡す」という行動については、十分に子どもにマスターさせておかなければなりません。ステップ3で新しく覚える必要があるのは「カードを適切に『選ぶ』」ということ、ただそれだけになるように、ステップ2までの段階は絶対におろそかにしてはいけないわけです。

 特段の指針なく、手探りで絵カードによる要求のトレーニングを行なったりすると、つい私たちは、こういったステップ3的な複雑な手順からいきなり始めてしまいがちですが、おそらくそれはうまくいかないでしょう。
 そのようなやり方がうまくいかないのは、これまでステップ1・ステップ2という段階をみてきて分かるとおり、ステップ3的な手順をマスターするためには、その前提としてマスターしておかなければならないスキルが実はけっこうあるからです。それを飛ばしていきなりステップ3的な手順を教えようと思っても、「新たに覚えなければならないこと」が一度にたくさん登場しすぎてしまって、課題として難しくなりすぎてしまうわけです。

b.必ず、渡された絵カードに対応したアイテムを手渡す。

 先の例で示したように、「絵カード」という「ことば」は、その絵カードを交換したときに、そこに示された内容が確実に実現する(ジュースのカードならジュースが手に入り、お茶のカードならお茶が手に入る)という関係があるときに初めて、「ことば」としての機能を発揮します。ですから、絵カードを渡して何かを要求されたときには、必ず、その渡された絵カードに対応したアイテムを手渡さなければなりません。それ以外のアイテムを渡すことは絶対に避けなければなりません。

b.について、改めてもう少し掘り下げて解説します。

繰り返しているとおり、ステップ3に入って初めて、絵カード1枚1枚が個別の意味をもった「ことば」になります。
実はステップ2までは「絵カードを交換する」という動作だけに意味があり、絵カードにはまだ「ことば」としての機能はありませんでした。つまり、絵カードの「図柄」とは無関係に、「特定の場所で『絵カードを交換する』という行動をとると、その場所で手に入れたいものが手に入る(絵カードに何が書いてあるかなんてことはきにしなくていい)」ということだけを学習させていたわけです。

それが、ステップ3で劇的に変わり、絵カードの図柄の違いが、「ことば」としての意味を持つようになります。
ただし、そんなふうに絵カードに「ことば」としての意味が与えられ、かつ、そのことを子どもが徐々にでも理解していけるようなものになっていくためには、ジュースの絵カードを交換したらジュースが手に入り、お茶の絵カードを交換したらお茶が手に入る、という確固たる対応関係が安定して常に実現していることが絶対に必要なのです。

この「対応関係の重要性」に気づかず、子どもが「お茶カード」を渡したときに、親が変に気を回して、お茶ではなくジュースを渡すようなことがあると、この「絵カードと意味との安定した対応関係」が崩れます。そうすると、絵カードは「ことば」としての意味を失っていくほかなくなってしまいます。

少し脅すような書き方になってしまったかもしれませんが、実際に私たちが求められる対応は、特段難しいことはありません。
単純に、子どもが渡した絵カードに対応するアイテムを、常に子どもに渡せばいいのです。仮に、それが明らかに子どもが欲しがっているとは思えないアイテムであったとしても、です。絵カードとアイテムの対応関係そのものは、常に安定したものとして実現させる必要があるのです。

もちろん、受け取った絵カードに対応したアイテムを渡したときに、子どもが明らかに期待と異なったものを受け取ったという反応をすることがあるでしょう。
そんなときは、子どもにもう1枚の絵カードを手渡すように手助け(プロンプト)して、実際にもう1枚の絵カードを受け取ったうえで、その絵カードに対応する、もう一方のアイテムを渡すようにします。この段階では、絵カード交換を手助けしてもかまいません。

とにかく大切なことは「絵カード」と「アイテム」の関係は絶対に崩さないようにすること。ただそれだけです。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
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