2009年09月21日

そらまめ式絵カード療育法 (12)

4.要求のコミュニケーションを教える(続き)

(4)ステップ3:複数の場所に、複数の絵カード(続き)


同じ場所に複数の絵カードが貼られ、子どもがその中から欲しいものを「選択する」ことを求められる「ステップ3」は、ABAでいう「分化強化学習」となるため、「間違った絵カードを交換してしまって、欲しいものが手に入らない」という「失敗体験」をすることも必要だ、ということを前回書きました。

もう一度確認しましょう。「ジュース」と「お茶」の絵カードが貼ってあり、子どもが「ジュースが欲しい」という状態にあるとき、

「ジュースの絵カード」を交換してジュースを手に入れる
 =欲しいものが手に入る
 =ごほうびとなる(強化される)
 =その行動が学習・定着していくようになる


「お茶の絵カード」を交換してお茶を手に入れる
 =欲しくないものが手に入る
 =ごほうびとならない(消去される)
 =その行動は減少していく(はず)


という2種類の学習の両方が必要になります。どちらか一方だけでは「分化」強化学習にならず、効率が著しく悪くなります。

また、子どもが実はジュースではなくお茶が欲しいと思っているときもあるかもしれません。ことばの出ない自閉症児の場合、本当に欲しがっているのがどちらなのかということは、外から見ているだけでは実はまったく分かりません。

でも、そうであったとしても、絵カードを導入すれば、まったく問題なくなってしまうのです。

というのも、「ジュース」と「お茶」の絵カードが貼ってあり、子どもが実は「お茶が欲しい」という状態にあるときには、

「ジュースの絵カード」を交換してジュースを手に入れる
 =欲しくないものが手に入る
 =ごほうびとならない(消去される)
 =その行動は減少していく(はず)

「お茶の絵カード」を交換してお茶を手に入れる
 =欲しいものが手に入る
 =ごほうびとなる(強化される)
 =その行動が学習・定着していくようになる


という、逆の分化強化学習が自動的に成り立つことで、うまくいくからです。

これって、考えてみるととても不思議なことですよね。
こんな風に、子どもの真意・内面がわからないということを前提として対応しているにも関わらず、「絵カード」という「ことば」を介することで、なぜかコミュニケーションが正しく成立するという関係は、「ことばの本質とは何なんだろうか?」という非常に哲学的な面白さを含んでいて、例えばヴィトゲンシュタインの「言語ゲーム」の話とかともつながってくるように思います。

・・・閑話休題。

つまり、絵カードAと絵カードBの2枚の絵カードから選択をさせる、というステップ3の学習には、

・「アイテムAが欲しいときには絵カードAを渡し、絵カードBは渡さない」という行動と、
・「アイテムBが欲しいときには絵カードBを渡し、絵カードAは渡さない」という行動、


このような目的と行動が正反対の2種類の行動をそれぞれ「分化」して学習させることが含まれていることになります。

そのために、ただ「絵カードを交換する」という行動の「成功体験」を積み重ねていけばよかったステップ2までとは異なり、「間違った絵カードを渡してしまう」という「失敗体験」にも意味が出てくることになるわけです。

ここで重要なことは、その「間違った絵カードを渡す」という行動にも、「その絵カードに対応したアイテムが手に入る」という、しっかりしたフィードバックが返ってきているという点です。これがあるから、「間違った絵カードを渡す」という「失敗」にも十分に意味が出てくるわけです。

次回は、その辺りから再開したいと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 20:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、そらパパさん。
ニュージーランド在住で、2人の男の子の母です。
うち1人(4歳のほう)は自閉症、ADHD、染色体異常を持ってます。
もう一人の息子(6歳)も少し変わったところがあり、アスペルガーじゃないかと昨年から疑ってます。

今日は、アドバイスいただきたくてコメントしました。
使わない絵カード(今は子供に見られたくないカード、たとえばお出かけカードとかデザートカードとか)はどのように保管されてますか?
今までは箱に入れてたのですが、必要なときにたくさんのカードの中から見つけるのに時間がかかってしまいます。
クリアポケットつきの壁掛けなども考えましたが、これもヒューゴ(うちの4歳児)に引きちぎられてしまうと思います。
みなさんは、どのようにカードを保管されてるのでしょう? 
お忙しいとは思いますが、何かアドバイスいただけますと幸いです。
Posted by Nicholls at 2012年01月31日 07:40
Nichollsさん、

コメントありがとうございます。

我が家では、使わないカードは、コミュニケーションブック風のバインダに保管しています。

http://soramame-shiki.seesaa.net/article/13535371.html
こちらの記事の、下のほうにあるような、バインダーに厚紙のページをはさんで、その厚紙にマジックテープを2~3列ほど貼ったものですね。

マグネット式だと、これができないので、バインダーにはさめる硬めのカードポケットページを何ページか集めてバインダに綴じて、そこに保管する感じになるでしょうか…
あるいは、同じ箱を使うにしても、お菓子の箱のように細かい仕切りがついた箱をつかってうまく整理して保管しておくという方法も考えられますね。

ただ基本的には、枚数が増えてきたらマグネットよりもマジックテープのほうが管理の負担は軽くなるようには感じます。

ご参考になれば幸いです。
Posted by そらパパ at 2012年01月31日 21:21
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

fortop.gif当ブログの全体像を知るには、こちらをご覧ください。
←時間の構造化に役立つ電子タイマー製作キットです。
PECS等に使える絵カード用テンプレートを公開しています。
自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

花風社・浅見淳子社長との経緯についてはこちらでまとめています。