(3)ステップ2:複数の場所に、1枚ずつの絵カード
前回まででご紹介した「ステップ1」のセッションを繰り返し、子どもが手助けなしで絵カードを自分で交換し、そのアイテムを手に入れることをマスターしたら、ステップ2に進みます。
ステップ2は、ステップ1の延長線上で取り組むことができます。難易度もそれほど上がりません。
つまり、ステップ1では、ある特定の場所1か所で、特定の絵カード1枚を使って絵カード交換を行ないましたが、ステップ2では、「複数の場所」で、「それぞれ特定の絵カード1枚を使って」絵カード交換を行ないます。
日本語が分かりにくくなってしまってすみません。要は、今までは絵カードを1枚しか使っていなかったところを、複数の絵カードを使うように拡張するのです。ただし、それぞれの絵カードごとに使う場所を変えて、それぞれの場所1か所1か所では、それぞれ特定の1枚の絵カードしか使わないように工夫します。
例えば、ステップ1で
・冷蔵庫にジュースの絵カードを貼って、冷蔵庫のなかのジュースを要求する。
というコミュニケーションを教えていたとすれば、追加する「要求表現」は、たとえば、
・ダイニングテーブルで、そこに用意されたお菓子や果物を要求する。
・戸棚で、そのなかにあるお菓子などを要求する。
・おもちゃ箱で、その中にある、親が出してあげたときに限って遊べるおもちゃを要求する。
といったように、冷蔵庫以外の、物理的に離れたそれぞれ別の場所で、それぞれ別のものを、それぞれの場所ごとに1種類だけ要求させるようにするわけです。
これは絵カード療育に限ったことではありませんが、子どもに新しいスキルを教えようとするときは、前回もご説明した手助け(プロンプト)を積極的に導入するようにします。
どんなときも、子どもが「いま何をすればいいのか」が分からず混乱してしまうという状況を徹底的に排除し、失敗体験をできるだけ避けて、「成功体験」を積み上げるのです。そのうえで、子どもが慣れてきたら手助けを徐々に減らして行動を自立させていきます。最初から突き放してはいけません。
また、「ステップ2」のなかをさらに「スモールステップ」に分けて考えると、使う絵カードの枚数を一度に増やすのではなく、徐々に増やしていくことが重要だということに気づきます。
「ステップ1」で「1か所、1枚」だったところを、いきなり「10か所、10枚」にしてはいけないのは言うまでもありません。「1か所、1枚」の次は、かならず「2か所、2枚」にすべきであり、その次は「3か所、3枚」と着実に1歩ずつ進んでいくべきです。
やがて、新しいカードを張りだしただけですぐに子どもが反応できるようになるなど、新しいカードへの適応ができるようになってくれば、新カード導入のスピードはぐんと上がります。そうなるまでは、一歩、一歩、着実にスモールステップを積み上げていくことが、結局はゴールを近くするはずです。
なお、ステップ2では、子どもが欲しいものごとにちゃんとそれぞれの場所に行って自分で絵カードをはがし、親のところに持ってきて渡すところまでをトレーニングするようにしましょう。
つまり、「絵カードを交換する」という動作だけでなく、「自分から絵カードのあるところまで歩いていく」という動作も含めて学習させる、ということです。
ステップ2で大切なのは、「複数カードを使う」ことだけでなく、むしろこの「自発的にカードを取りに行く」ということをマスターさせることだと言っても過言ではありません。
もちろん、ステップ1やステップ2の初期導入時には、絵カード(やアイテム)のある場所まで、親が連れて行ってから絵カード交換を教えるという感じになってしまうと思いますが、このような状態が残ったままでステップ3に進むのはやめたほうが無難だと思います。ステップ3はこれまでよりかなり難易度が上がりますので、あわててステップ3に進む前に、ステップ2が確実にできるようにしておくことが重要です。
「自分ではがして親のところに持ってくる」という部分を練習するときにも、ABAの「フェイディング」の考えかたが役立ちます。
最初は、親が絵カードのすぐそばに立って、絵カードをはがしたり手渡したりするところを手助けしながら「絵カード交換」を十分にマスターさせます。
その後、徐々に絵カードから離れて、遠い位置に立つようにしていきます。最終的には、親は特に動かず「普段の場所」にいるままで、子どもが絵カードを勝手に取りに行って、親のところまで持ってきて手渡せる、というところまでできるようになることを目指します。
そこまでできるようになったら、最終ステップであるステップ3に進みます。
・・・と、さらりと書きましたが、実はこれができるようになるというのは結構すごいことですよね。
何しろ、「○○がほしい」と思った子どもが、自発的に絵カードを取りにいって、自発的にそれを誰かに渡してその意図(要求)を表現しているわけですから。
これは、絵カードというものを「ことば」にした、完全に自発的なコミュニケーションだと言えます。ステップ2を成功させることは、それだけの意義があるわけです。
(次回に続きます。)
去年、このブログを見つけてからというもの毎日のように覗かせていただいでおります。若輩者の身ではありますが、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
先日は絵カードについての質問に答えていただきありがとうございました。あれから保護者とも相談し、内容を吟味した上でまずは施設内で取り入れております。現在はこの記事でいうところのステップ2まで進んでいる段階です。
1枚目に使った抱っこを示す絵カードの要求が強すぎて、2枚目の玩具が写った絵カードも時々抱っこカードと同じように使用(玩具のカードを手渡して抱っこを要求してしまう)したり、絵カードを噛んだり曲げたりするなどの自己刺激遊びとして使って職員に渡すことなくポイ捨てしたり…やってみるとこの子ならではの課題も見られますが、日常生活で楽しく使用することでコミュニケーションを見つけて欲しいなと感じつつあれこれ工夫しています。
PECSやABA、環境の構造化に関する内容を勉強しながらも、目の前を子どもを見つめた独りよがりにならない療育や保育を心がけたいと思います。
そらパパ様のような豊富な知識と柔軟な視点、そして暖かい眼差しをもてるよう、まだまだ精進しなくてはです。
コメントありがとうございます。
多少の不適切な反応があったとしても、自分のなかにある欲求を他者に表現するためのツールとして絵カードが使われている時点で、その絵カードはしっかりと「ことば」として活用されていることになります。
それは素晴らしいことだと思います。
そのうえで、より豊かな表現が実現できるように、少しずつより適切で複雑な使用方法を学習させていけばいいのだと思います。