2009年08月17日

そらまめ式絵カード療育法 (9)

今回で、最も重要な「ステップ1」についての解説が完結します。

4.要求のコミュニケーションを教える(続き)

(2)ステップ1:1つの場所に、1枚の絵カード(続き)

子どもが、絵カードの近くで、絵カードに対応するアイテムをほしがって手に入れようとしている、という状態になると、ステップ1のセッションを始める準備が整ったことになります。

具体的な絵カード交換のセッションは、子どもがそのアイテムを手に入れようと、手を伸ばしたり、親の手をクレーンで動かそうとしたときに始まります。
子どもが手を伸ばしたりクレーンをしようとするなどの反応をみせたら、すかさずその手を取り、絵カードに誘導して、絵カードを握らせます。うまく握ってくれなければ、子どもの手を上から覆うようにして、「握らせる」ようにします。
そしてその絵カードを握らせた手を、自分の体のほうに誘導し「手渡す」動作をさせます。
そうしたらあなたはその絵カードを受け取り、即座に「はい!」「どうぞ」などの簡潔なことばをかけながら、受け取った絵カードと交換で、その絵カードが表す、子どもが欲しがっているアイテムを渡します。

これで1セッションが終わりです。
ポイントとしては、以下の2つがあります。

a.絵カードを受け取ったら、即座にアイテムを手渡すこと。
 絵カードを受け取ってから、アイテムを渡すまでに時間がかかると、「絵カード」と「アイテム」との関係を学習することがそれだけ難しくなると考えられます。絵カードを受け取ったら、数秒以内にすぐにアイテムを渡せるように工夫します。

b.「絵カードと交換でアイテムが手に入る」という関係をうまく演出すること。
 これはどういう意味かというと、上記a.では、「絵カードを受け取ってからできるだけすぐにアイテムを渡すように」と書きましたが、この時間的関係を早くしすぎて、「絵カードを受け取る前にアイテムを渡す」ようになってはいけない、ということです。
 つまり、順序として、「絵カードを受け取る(子どもの手から離れ、親が受け取った状態になる)」のが先、「アイテムを手渡す」のが後、ということです。子どもがまだ絵カードを持っているときにアイテムを渡す動きをしないように注意しましょう。
 子どもから絵カードを受け取るまではアイテムには手をつけず、絵カードを受け取ってから初めて、アイテムを手にとって子どもに手渡すという「順序感」を常に意識するようにします。

アイテムが小さなクッキーのように複数である場合は、小さな1単位ごとにこのセッションを行なうようにすると、絵カード交換の習得を早めることができるでしょう。
また、以前にも書きましたが、例えばバナナとかジュースのように本来は分量の多い飲食物も、このセッションのトレーニングのために、1回分の分量を減らして何回も受け渡しする(絵カードで要求する)ようにするのも効率を高めるはずです。

絵カードをはがして手に取り、それをて大人に渡すという一連の行動は、最初はすべて手助け(ABAではプロンプトと呼ばれます)してしまって構いません。大切なことは、子どもに失敗体験をさせず、成功体験を繰り返してもらうことです。そして、子どもが慣れてきたら、この手助けは徐々に減らしていく必要があるのですが、そのときも、失敗体験をさせない範囲で減らしていくことがとても重要です。失敗しそうになったらすかさず手助けして、子どもが常に「成功」できるように配慮しましょう。

この、「最初は全面的に手助けをして常に成功体験を繰り返させる」ことと、「不必要な手助けはどんどん減らして自立的な行動につなげ、『指示待ち』にしない」ことのバランスをうまくとることが、ABAの極意の一つです。
手助けを減らすときは、「いきなり全部減らすのではなく、『徐々に』『後ろから』減らしていく」のがコツです。

絵カード交換でいうと、①絵カードの近くまで移動して、②絵カードに手を伸ばし、③絵カードをつかんで、④親(養育者)のところに持ってきて、⑤親に絵カードを手渡す、という風に手順を細分化して考えます。そして、

a.最初の手助け  :①②③④⑤全部手助け
b.少し慣れてきたら:①②③④ まで手助け、    ⑤は子どもにやらせる
c.次の段階    :①②③  まで手助け、   ④⑤は子どもにやらせる
d.その次の段階  :①②   まで手助け、  ③④⑤は子どもにやらせる
e.手助け最後の段階:①    だけ手助け、 ②③④⑤は子どもにやらせる
d.完全自立    :           ①②③④⑤をすべて子どもがやる


といったかたちで、手助けを減らしていくわけです。これを、子どもが失敗しすぎない(成功率は常に90%以上をキープ)範囲で、できるだけ早く進めていくわけです。このように、手助け(プロンプト)を徐々に減らしていくことを「(プロンプト)フェイディング」、手助けを後ろから減らしていき、手順をお尻から逆方向に覚えていってもらう教えかたを「バックチェイニング」といいます。

このような「ステップ1」のセッションを繰り返し、子どもが手助けなしで絵カードを自分で交換し、そのアイテムを手に入れることをマスターしたら、ステップ1は終了です。ステップ2に進んでください。(確実にステップ1ができるようになるまでは、ステップ1に留まることが大切です。)

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:53| Comment(4) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そらぱぱさん、今月初めましてにコメントさせていただいた2歳4カ月の息子の母親です。
息子の大好物の「いちご」で絵カードのステップ1をしました。
息子は何か欲しい時に「い」(ちょうだいのいです。)と言いながら両手をくっつけて要求してきます。絵カードで①~⑤をすべて手助けして何度もいちごをあげましたが、息子は「い」ばかりして絵カードを???という感じで見ています。
このような場合は絵カードをこちらに渡す⑤の時に一緒に「い」と言いながら渡せるようになるのが良いのでしょうか?
個人的な質問ですみません。こんな場合は夫婦でどうしたら良いのだろうと立ち止まってしまいました。またお時間があるときにでもご意見をお聞かせいただけたら幸いです。
Posted by reaponmama at 2012年01月22日 22:18
reaponmamaさん、

コメントありがとうございます。

まず、「い(ちょうだい)」という意思表示が(しかも音声言語つきで)できること、これは素晴らしいことですよね。

ですから、この「い」をうまく活用していく、というのも1つの考え方だと思います。

例えば、「い」と言わせてから、わざと「何を?」と聞いて、その後すぐに絵カード交換をさせる、というパターンを学習させる、といった方法が考えられます。

また、ABA的に考えると、絵カード交換よりも「い」が強く出てくるというのは、「い」が毎日の生活のなかで強化されているということに他なりません。

恐らく、いちごで絵カード、という場面以外で、たくさんの「い」→要求がかなう、という経験をお子さんはしているのではないでしょうか。
だとすれば、絵カードは「いちご」の場面でのみ機能し、「い」はそれ以外のすべての場面で機能するという状況になっているので、「い」で要求する行動が前面に出てきているという可能性もありますね。

もしそうだとするなら、毎日のありとあらゆる「い」のために絵カードを作って、それぞれの場面で絵カード交換をさせていくというやり方に変えるというのも考えられますね。

ともかく、ここでご紹介しているやり方も、あくまでも汎用的な一例にすぎないので、お子さんの特性や生活に合わせて、いろいろ工夫してカスタマイズしていくことも必要かと思います。
Posted by そらパパ at 2012年01月24日 23:22
そらぱぱさん、お返事ありがとうございます。そらぱぱさんの仰る通りで、息子はいちご以外で「い」の経験を他にもしています。
息子は食べ物(特におやつですが)にはとても興味を示すので、その時にちょうだいを教えたらすぐに出来るようになりました。
ただ、食べ物以外はあまり興味がないので、その時以外は「い」は出てきません。
そして食べ物やおやつが目に見えた時にしか指さしして「い」の表現はできません。
ですが、食べ物やおやつが欲しい時は自分で冷蔵庫の下や、おやつの入っているBOXに行き欲しそうに「あ~あ~」などと言いながら意思表示しています。このときにも絵カードは使えるなぁとは感じているのですが・・・。

そらぱぱさんからのお返事とても有り難く思います。まだまだ勉強不足な私にもとても分かりやすくお返事くださいます。

このブログを知ってから左側の記事を読むのが日課になっています。ついのめり込んでしまって、寝不足になってしまうのですが(笑)
最近は息子に対してストレスが多く、不安になったり落ち込んだりで叱ってはいけないと思いながらもつい強く叱ってしまったりした後に「叱りかた」の記事を読ませていただき、とても反省したばかりです。

よくコメントに皆さんが書かれていますが、そらまめちゃんはこんなお父さんの元に産まれてきて幸せだろうなぁと本当に思います。

これからもそらぱぱさんのブログでお勉強させてください。ありがとうございました。
Posted by reaponmama at 2012年01月25日 23:17
reaponmamaさん、

お子さんはいろいろな欲求のサインを出しているのですよね。
それはすごくいいことだと思います。

そしてコメントを読ませていただいた限り、そのどのサインも、社会通念上問題になるようなものではない(つまり、パニックしたり何かを壊したりするタイプの意思表示ではない)ように見受けられますから、基本的には、これらのサインを「尊重し、伸ばしていく」というアプローチを基本に据えられるのがいいかもしれないな、と感じました。
もしかすると、絵カードを経由せずに直接音声言語につなげていくことも可能かもしれません。

この辺りは、まさにカスタマイズと工夫のしどころだと思います。
欲求の際のお子さんのしぐさなどをつぶさに観察していると、いろいろと発見などもあるだろうと思います。(今回書いてくださった、「い」の出る状況の描写なども、まさにその1つですよね!)

また、お子さんの療育でかかるストレスをどううまくコントロールしていくかも、とても大切な療育のテーマです。
無理をせず、細く長くぶれずに続けていくこと、これが重要だと思います。ちょっと負担が大きいな、と感じたときは、頑張ろうとするのではなく、負担を軽減するにはどうしたらいいかという「工夫を頑張る」ようにするのがいいんじゃないかな、と思います。

今後ともよろしくお願いします!
Posted by そらパパ at 2012年01月31日 21:23
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