イケイケ、パニッカー2 旅立ち編
著:高阪 正枝
クリエイツかもがわ
第1章 みんなは薫のため?
第2章 否定は力の源だ
第3章 折り合いをつける
第4章 みんなが待っている
第5章 思惑をこえて
第6章 訣別のとき
私は書店で必ず自閉症・発達障害のコーナーを覗いて、新刊にはできるだけ目を通していますが、そういった中で、まず読まないタイプの本があります。
それは、「自閉症児の親御さんが当事者体験を綴った本」です。
なぜかといえば、そういった本は私にとって、お金を出してまで読もうと思われないことがほとんどだからです。
私が本を読んで知りたいことは、端的には「自閉症である自分の娘を理解したり、娘の療育に役立つ情報・知識」です。
そういう意味で参考になるのは、以下のようなものです。
・自閉症一般についての理論、療育についての理論・技法
・その前提となるような、心理学の理論や哲学的な考えかた
・自分自身が娘と関わる体験そのもの
・妻から聞く、私がいない間の娘の話
また、当事者の話のなかでも、療育の専門家の話であれば、数多くの子どもとのかかわりの中から導き出された、自閉症の子ども一般にあてはまる「一般論」が書かれているはずで、私(と娘)にとって参考になることが書かれている可能性が高くなります。
自閉症の人自身が自らについて書いた「自伝」も、その人のことだけが書かれているという意味では個別性が強いものの、私たちが外から観察しただけでは気づきにくい「自閉症の内面」を知ることができるかもしれません。
対して、「自閉症児の親御さんの体験談」になると、かなり雲行きがあやしくなってきます。
まず、その親御さんがかかわっているのは自分の子ども1人だけですので、そこに出てくるのはすべて、一般化されない、特定の1人の自閉症の子どもについてのエピソードになります。自閉症というのはものすごく個別性の強い障害ですから、この時点で、そのエピソードに(自分の娘にも通じる)一般性を求めるのは難しくなります。
さらに、書いているのが自閉症の人本人ではなく、外から観察し、働きかけている親御さん=第三者であるため、その記述はすべて、その親御さんの価値観のフィルターを通したもの(=間接的な記述)になります。誰しも超人ではありませんから、1人の人間から見える世界には限界があり、見落としもたくさん出てくるでしょう。どうしても「万能感の錯覚(統制感の幻想)」のようなものにとらわれ、自分のかかわりと子どもの発達との因果関係を見誤ってしまうということも起こります。
つまり、「親御さんの体験談」というタイプの本は、個別性の強い障害である自閉症について、たった1人の子どもを対象にした話題を、これまた多種多様な子育て観・教育観があるなかで、たった1人の親御さんの価値観に限定された視点から語られたものになってしまうという必然的な問題を抱えているわけです。
もちろん、そういった話でも、知り合いの親御さんの苦労話をお酒を飲みながら語りあったり、ブログで(無料で)読んだりするのは全然構わないわけですが、全然知らない人のそういう話をお金を払ってまで読みたいかと言えば・・・なわけです。
ただ、このブログでは、読者ニーズも考慮し「自閉症についてのまんがは、見つけ次第全てレビューする」という方針をとっていますので、今回も購入して読んでみました。
前置きが異常に長くなりましたが、そんなわけで、内容についての解説が最小限となることをご了承ください。(詳しく解説しても、それは一般論ではないのであまり意味がないということもあります)
この本は、かなり前に出版され当ブログでもレビューしたことがある「イケイケ、パニッカー」の続編で、見開きページごとに4コマまんがが1つ、残りのスペースに子育てエッセイが書かれています。
いわゆる、ABAやTEACCHといった何らかのテクニックを駆使した療育的な話題はほとんど登場しません。
その代わり、買い物や公共施設の利用、きょうだいのかかわり、家庭内でルールを守らせるといった、「生活のなかで学ばせる」ということを強く意識した子育て・療育が描かれています。
全体的に、とても淡々としています。
登場する家庭は2人兄弟で、弟は自閉症(いわゆる積極・奇異型で、知的には軽度~中度くらいの遅滞だと思われます)で、姉は中学から不登校という、かなり苦労のたえない状況のなかで、心を折らずに前向きに子育てをしている姿には共感できますし、それをあえてドラマチックには描かずに、感情を抑えた文章で綴っているので、感情がこもりすぎた記述が苦手な私にも、読みやすいです。
最初に書いたように、これを読んで「自分の子どもへの療育」に役立てられるか、という視点ではなく、「似た境遇の親御さんの話を読んで共感したい」という視点でとらえれば、なかなかいい本じゃないかと思います。毎ページ見開きで完結するうえ、まんがが入っているので読みやすいですし、少なくとも陳腐な「お涙ちょうだい」的ストーリーにはなっていないので、そういう意味では読み応えがあるとも思います。ボリュームもかなりあります。
1冊目とあわせて読めば、著者のお子さんの成長(そして、著者自身の「成長」)も読み取れて、かつ、幼少から中学校までという比較的長いスパンの子育ての全体像を眺めることができるようになっています。
イケイケ、パニッカー―自閉症の子育てマンガ&エッセイ 新装版
著:高阪 正枝
クリエイツかもがわ
自閉症の親御さんの子育てまんがエッセイ、というカテゴリのなかでは、悪くない本だと思います。
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