2009年08月07日

発達障害とことばの相談(立ち読みレビュー)

うーん、やっぱりだめか・・・


発達障害とことばの相談~子どもの育ちを支える言語聴覚士のアプローチ~
著:中川 信子
小学館101新書

序 章 コミュニケーションを願うすべての人へ
第一章 すこやかな育ちを応援する
第二章 ことばの育ちを支えるということ
第三章 特別支援教育と発達障害の子どもたち
第四章 子どもとの向き合い方、歩き方
第五章 STと一緒に「ことば」を育てた家族
第六章 ことばを窓口として人生とつき合う

自閉症、発達障害に取り組んできた言語聴覚士として著名な、中川信子氏の新刊が、新書で出ました。

・・・が、書店で中をぱらぱらと読んで、ある予想通りの内容が含まれていることを確認した私は、買わずに書棚に戻しました。

それは、

件の東田直樹さんと、彼が広告塔になっているFC(筆談援助)が大々的にとりあげられ、薦められていたからです。

全体の内容としては、以前ぶどう社から出版された下記の本などとそれほど変わりがないようで、言語聴覚士として長く発達障害や自閉症とかかわってきた経験のなかから、ことばの遅い子どもへの「ことばの育てかた」を解説する、という内容になっています。


↑これらの本は、どれも内容的には新しさに欠けますが、手堅い内容だと思います。私もかなり最初のころに読ませていただきました。

中川氏はこの業界では「重鎮」のお一人と呼んでも差し支えないと思うのですが、最近はご自身のブログのなかで、「(科学的に証明はできないが)自閉症に漢方薬が効く」とか「東田さんのFCを広めましょう」といった発言を繰り返しておられて、自閉症療育についてもEBや科学性が重視されつつある昨今の情勢のなかでは、やや違和感を感じざるをえない立場をとられています。

 科学的に数量化して説明しろといわれても不可能ですが、からだの周りに尖った“気”を発散してイライラしていた子が、ほんわりとやわらかい雰囲気になったり、眠れなくてキーキー言っていた子がぐっすり眠れるようになっておだやかになったりすることを、私も何人か、目の当たりにしています。

 私はSTとして、コミュニケーション手段の確保が自分たちの職種の大きな役割だと思っています。
 その意味で、自閉症の人たちのコミュニケーションのひとつの可能性としてファシリテーテッドコミュニケーションが、少しずつ認知されるようになってきていることを、喜ばしく思っています。
 多くの本を通じて精力的に自閉症の世界について発信してくれている東田直樹くんの存在も大きかったと思っています。
ずっと応援していました。


こういった「最近の動き」を受けて出た今回の本ですので、もしかすると東田さんの話題が出てくるかなあ、さすがに批判的な意見も耳にしているだろうから長く「記録」として残ってしまう本の中に書くのは安全策として控えるかなあ、などと考えながら立ち読みしてみると、第4章で、自閉症の人の代替コミュニケーション(AAC)のイチオシとして筆談援助(FC)が登場し、東田さんをその「代表的成功者」として登場させていました
「参考図書」のページが巻末にあるにもかかわらず、わざわざ東田さんの本を2冊も本文中で紹介し、おすすめするという力の入れようです

同じAACでも、「絵カード」は、筆談援助を紹介するマクラの文で「絵カードなど」のようにたった一言だけ登場するだけという扱いでした。

この本は全体的に、具体的にとりあげられている療育法が「筆談援助(東田さんのFC)」、「マカトンサイン」「感覚統合」であり、ABAやTEACCHは事実上ほとんど取り上げられておらず、絵カードもごくわずか、さらに自閉症の子どもに対しても音声言語での言葉かけ・言語理解をかなり重視する(STの先生なので当然といえば当然ですが)というスタンスであり、最近の自閉症療育の流れと比較すると、非常に率直に申し上げれば、かなり「時代おくれ」である、という感が否めません。

商業出版で出る本に書かれたことは、その人の公的な立場そのものである、と考えるならば、中川信子氏については、本書の内容をもって、残念ながら、私にとっての「支持できる自閉症支援の専門家」から外さざるを得ないなあ、と感じています。

私自身、著作にはお世話になりましたし、書かれている(一般的な)意見については共感できる部分も多々あるだけに、残念です。

※その他のブックレビューはこちら


posted by そらパパ at 18:18| Comment(7) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そうなのですか・・・
目次からは推測できないですね。

私も中川さんの本にはお世話になって、若いママたちにも勧めたこともあるので
残念です・・・。
FC、恐るべしですね。
Posted by こうまま at 2009年08月07日 20:25
最初、中川氏はインリアル・アプローチの強力な紹介者(ブルドッグ)と見ていましたが、ある時点から語らなくなってしまったことを不思議に思っていました。こういうことになっていたのですね。それから漢方を研究している医者によると実証された効果のある漢方薬は残念ながら今のところ発見されていないそうです。漢方医がノーベル賞を取るのは、まだ遠い様うですね(笑)
Posted by スカラベ at 2009年08月08日 00:33
こうままさん、スカラベさん、

コメントありがとうございます。

花風社の浅見氏とか、今回の中川氏のように、影響力のある方が、科学的根拠に乏しい代替療法的なものにハマってしまうと、副作用が大きくて悩ましいところですね。

ただ、今回は「立ち読みレビュー」ですので、詳細はぜひ実際に書店などで中身を確認されることをおすすめします。
インリアル・アプローチ的な考えかたそのものは、本書のなかでも触れられているようにも感じましたので。
Posted by そらパパ at 2009年08月08日 17:41
初めまして。
ずっと拝見していましたが、初めてコメントいたします。

中川信子先生がFCを指示されていること、この記事で初めて読んで驚愕しました。
先生の著作は「ことばの遅れ」に関する本の中ではとても分かりやすく、周りにも勧めていましたので…

確か「こどものこころとことばの育ち」では
クリティカルシンキングの必要性についても触れていらしたように思います。
本当に残念です。
Posted by ぴよ at 2009年08月08日 23:59
はじめまして。
中川信子さんの本「ことばをはぐくむ」
あたりはよい本だと思いますが、
(初期の療育で読むなら)
そらぱぱさんが「支持する専門家」
とは具体的には誰でしょうか?
「専門家」といっても十人十色で、
専門家との相性もあるでしょう。
そもそも専門家は必ずしも必要な存在なのでしょうか?
専門家の言葉を鵜呑みにする親もいますし、
自分自身もそういうところがあるので、
そらぱぱさんのように、自分で判断できる
眼を養いたいです。
Posted by ふわぐわママ at 2009年08月09日 22:53
 JKLpapaです。お疲れ様です。
 ぶどう社などの出版社ではなく、小学館の新書というのも、中川先生の著名性あってのことでしょうか。残念ですね。
 専門家も自閉症児者といっしょでいろんな方々がいらっしゃいます。それぞれが、自分の見出した価値を信じて(商売優位の方もいらっしゃいますが)社会に発表をされていますので、それらを目にするわたくしたちが、しっかり判断しないといけませんね。
 FCは、やはりコミュニケーションの自発性の部分だけとっても、問題の多い手法だと思います。
 中川先生は支持してきただけに、重ね重ね残念です。 
Posted by JKLpapa at 2009年08月10日 15:53
皆さん、

コメントありがとうございます。

ぴよさん、

中川氏は確かに、クリシンのことも書かれていたと記憶しています。
でも、最近は引用にもあるように「科学的に証明されない療育法もある」みたいな立場もとられているようで、考え方が矛盾しているように感じます。

なぜなら、療育の世界で「科学的に証明できない」というのは、「再現性がない」ということだからです。
原理原則が分からなくても、例えば100人の子どもに試してみて何割かの子どもに明らかに変化が見られれば(それが統計的に有意であれば)、さらに別の研究者がやってみても同じ結果が得られれば、それで「科学的な療育法」と呼ぶことができます。

ですから、仮に百歩譲って「科学的に証明できない療育法」があるとしたら、それは「効いたという過去のエピソードがあるだけの療育法」であり、「改めて効くかどうか実験してみようとすると、効果が見られない療育法」だということです。この矛盾を乗り越えられる「科学的に証明できない療育法」は、論理的にありえないと思います。

つまり、「これをやって『効いた』と言っている人がいますよ」ということと、「これをやれば(あなたのお子さんにも)効きますよ」ということは、全然別のことだということです。これを混同しないことは、まさに「クリティカル・シンキング」そのものだと思うのですが・・・。


ふわぐわママさん、

「私が支持している専門家」ということですが、私は実際に自閉症の「専門家」の方とじっくり話をしたりしたことがあるわけではありませんので、正確には「書かれている著作の内容を支持している専門家」ということになりますが、ブックレビューで「殿堂入り」している本や、殿堂入りしていなくても高く評価している本の著者については、専門家として支持している、とご理解いただければいいかと思います。(なお、殿堂入り本の著者のなかでは、「奥田健次」氏については、療育の専門家としては支持していますが、政治思想的には支持していません。)

自閉症について語る「専門家」はもちろん必要だと思います。
自閉症は謎が多く、個別性も高いため、例えば自閉症児の親という立場では、自閉症という障害そのものを一般化して研究することは極めて困難です。
ですから、多くの例に接し、そのことばかりを考えつづけることのできる「自閉症の専門家」というのは、自閉症という障害を解明し、働きかけを深めていくために欠かせないのではないでしょうか。

もちろん、そういう人のなかに、「おかしな道」に進んでしまい、しかもそのおかしな道で影響力をもってしまうような人が出てくるのは(一般論です)残念なことですが、多様性というのは、それはそれで重要なことだと思います。

そこで大事になってくるのが、それを読む側、専門家の支援を受ける私たちの側の「クリティカル・シンキング」だということになりますね。


JKLpapaさん、

大手出版社から新書で出ると、専門書や単行本で出るより影響力が大きいのは確かでしょうね。
そして、ここ数年の間に出ている自閉症・発達障害の新書は、杉山氏の「発達障害の子どもたち」を除くと、残念ながらあまり支持できないものが多いですね。

http://soramame-shiki.seesaa.net/article/20387222.html
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/25129700.html
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/110130045.html
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/123095199.html

ご指摘のように、こういった「専門家」の多くは、善意で自らの立場をとって発言されていますので、大切なのは、私たちの側の眼力だ、ということになると思います。
ただ、当事者でない一般の方が目にする「自閉症」の本が、例えば東田さんの本であったり、彼の話題が肯定的に語られている新書だったりする可能性が高い現状は、残念だなあという気はします。
Posted by そらパパ at 2009年08月10日 21:59
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