テレビを消したら赤ちゃんがしゃべった!笑った!―音と光が言葉遅れの子をつくる
著:片岡 直樹
メタモル出版
第1章 新しいタイプの言葉遅れ―テレビがつくる後天的コミュニケーション不良
第2章 新しいタイプの言葉遅れの実際の症例と解説
第3章 脳の発達と成長のプロセス―3歳までに身につく能力とは
第4章 なぜテレビ・ビデオ視聴が悪いのか
第5章 正しい赤ちゃんの育て方
第6章 新しいタイプの言葉遅れの治し方
ブログ用の記事のストックはいくつかあるんですが、どれも割と本格的な「本記事」用のものばかりで、月曜以外に掲載しているような「サブ記事」用の軽いネタが切れてるなあ、と思って本屋に寄ってみたら、期待どおり(?)にネタを見つけてしまいました(笑)。
タイトルからもある程度想像されるとおり、この本は「自閉症についての本だ」と言ってしまってもいいくらい、自閉症関連の話題が中心になっています。
とはいえ、この本、いろいろな意味ですごい(もちろん悪い意味で)としか言いようがありません。
まず驚くのは、著者自身は、この本で取り扱っているのは「自閉症ではない」と主張しているということです。自閉症ではなく「新しいタイプの言葉遅れ」(以後「新しい言葉おくれ」と書きます)だ、というのです。
著者は、最近は自閉症とは違う『新しい言葉おくれ』の子どもが増えている、と力説します。
そして、その「新しい言葉おくれ」の子と自閉症をどうやって区別するかを説明するために、カナーの提唱した(なぜかDSMとかではないところもミソ)自閉症の症状と「新しい言葉おくれ」とを比較していくのですが、結論はなんと、「症状としては同じ、区別はつかない」になってしまいます。(症状は同じだけど原因が違うんだ=後天的なテレビの見すぎ症候群だ、という主張なわけです)
えっと・・・自閉症の場合、「症状が同じ」なら、それは自閉症だと思うんですが・・・
DSMとかの定義を引用しなかったのは、もしそっちから引用したら完全にこのダメ出しをされてしまうからなのかと邪推してしまいます。
どうも著者は、自分が対象にしているのは、自閉症と似ているけれども自閉症ではないタイプの子どもだ、という前提を置くことで、「自閉症は脳の障害であって治らない」という定説との対決を避けつつ、「私は『自閉症』を治せるんだ」という主張を正当化したいと考えているように思われます。
そして、第2章では延々と「新しい言葉おくれ」がテレビを消すことで治ったというエピソードの紹介です。
私がいつも批判的に書いている「エピソード主義」というのは、こういうのを言うんですよ、というまさに典型的なパターンになっています。
続く第3章では「新しい言葉おくれ」のメカニズムを理論的に?解説していくことになるのですが、ここで引用されているのが、かの有名な「ゲーム脳の恐怖」です。
「これぞまさにテレビが脳に悪いことの証明だ」といった形で、引用元にある脳波のグラフも転載されるといった力の入れようですが、この「ゲーム脳の恐怖」の主張は、科学的に妥当とは到底いえない、誤った「トンデモ仮説」である、というのが一般的な評価です。
そういえば書き忘れていましたが、この本はオビではなく裏表紙全面を使ってでかでかと「推薦文」が載っているのですが、その推薦文を書いているのが他ならない森昭雄氏(「ゲーム脳の恐怖」の著者)だったりします。
さらに、本文の中では、これまた「かの」岩佐京子氏の「テレビに子守をさせないで」も登場します。
・・・なんだか、あまりにも濃いメンバーが揃っていて胸焼けがしてきました。
後半の章では、「テレビ漬け」ではない、正しい赤ちゃんの育て方、テレビを消した後の子どもの「正しい」育てなおしかたについて説明されているのですが、ここで突然、「行動療法は大変危険だし誤った考えかたに基づいているから絶対にやめましょう」といった趣旨の文章が出てきます。そこまで柔らかかった文章のトーンがいきなりここだけかなり感情的・攻撃的になっていて驚きます。
そのほかにも、「知育玩具や早期教育はテレビと同じ人工的なものだからだめ」といった主張も出てきますから、この著者の立場は、こういったタイプの教育理論にありがちな「懐古的自然志向」なんだろうな、ということが分かってきます。
その気づきは、最終的に、「著者がおすすめする子育て」の中身が、率直にいってあまりに陳腐な、抱っこや言葉かけ、一緒に遊ぶ、スキンシップといったものであり、やたらと「心を育てる」という、療育・教育界のバズワードが頻出することで、確信に変わります。
ああ、疲れた。10分やそこらの立ち読みでここまで疲れる本も珍しいです。
ちなみに、調べていて気づきましたが、この本はこちらの記事の後半に書かれている内容が本になったもののようですね。
http://d.hatena.ne.jp/bem21st/20081121/p1
古くて新しい自閉症テレビ原因説 - ベムのメモ帳
最後にひとこと。
この世の中には、こういった、科学的根拠もなく、結果に対するエビデンスもまったくないような、端的に(科学的に)いえば「たわごと※」に過ぎないことを講演で語り、本を書き、そういう立場で子どもたちとかかわり、そういった活動によって(恐らく十分すぎるほどの)収入を得ている人々が現に存在する一方で、当事者にとって本当に必要な支援を提供してくださっている方の多くが、十分な収入を得られず追い詰められがちであるという現実を、私たちはどう受け止めればいいんだろうか、と、ふと思います。
(とりあえず、ネットで、有益な療育法や情報やトンデモ療法の情報が無料で手に入る状況を作っていくことは、こういう人たちの収入源を少しずつ奪っていくことになるだろう、とは思っています)
※「たわごと」と言っているのは「間違っている」と断定しているのではなく「科学的に証明されていない」という趣旨で言っています。
先ほど、「記事にするネタが見つかって良かった」と書きましたが、そういう意味では腹も立てていますから、こういう本は買いません。
この記事でも、便宜的にアフィリエイトリンクを貼ってはいますが、リンク先でこの本ではなく、違う本や商品を買うための「入口」として使っていただければと思います。
※その他のブックレビュー等はこちら。
片岡氏はまた本を出版したのですね。
このような主張をする人物が日本小児科学会の評議員というのは困ったものです。
コメントありがとうございます。
先ほどトラックバックさせていただきました。
こういう本は見つけ出すときりがないですね。
記事でも書いたんですが、がんとかアトピーとかでもそうなんだと思いますけど、根拠のない突拍子もないことを語るとお金になって、そうでない地道な活動にはお金が降ってこないという現状には悲しくなります。
この手の本は個人的には避けて通るようにしています。それでも親や世間の大人の「ビデオゲームばっかりやらせているから」とか「テレビのせいで」とか言われ、傷ついたことが何度もありました。そんなにやらせてる訳ではないのですが、アスペルガーをもつ息子は、他の子と関わるよりもゲームが好きなのは事実です。
これが元でアスペになったわけはないのですが。
それでも以前は学校でも色々言われたので、ゲームを与えなかったり(結果、友達との話題のとっかかりが一つ減った)、テレビを見せなかったり(なにかしらobsessionを見つけます)しました。
日本では新聞でもこういう本を取り上げますよね。私の親など、新聞に載れば「事実」だと思うようです。
アメリカの大学にいた時に、文章を書く時にソースはなんであるか、そのソースは信頼出来るものなのか、それはどこで確認出来るか、などをきちんと書けないようなものは公に発表するべきではないと教わりました。
それなのに次から次へと、面白そうなタイトルだけで無責任に本を出す出版社。もっと科学的根拠を持って本を出してほしいです。
そして、主観と思い込みで書いた本を信じる大人達が多すぎます。それはとてもこわい事ですよね?
そらパパさんのようにきちんと勉強されている方が、このような本について無視をせずに、時間をさいて、がんがん批判してくれて、本当に嬉しいです。
コメントありがとうございます。
まず、前半のお話についていえば、確かにこの辺りの話は、原因と結果を取り違えている議論である可能性が高いと思いますね。
対症がテレビとかゲームだと、多少親として後ろめたい感があったりしてだまされやすいですが、こう書き換えると明らかにおかしいことが分かりますね。
一般的な考えかた
「自閉症という障害のために、興味が限定されてこだわりが生まれやすい」
裏返した主張
「特定のものに興味を持ちすぎたりこだわったりすると自閉症になる」
テレビと自閉症との話は、要はこれと同じ裏返しの誤ったロジックに基づいているんじゃないかなあ、と思います。
療育と科学的根拠については、あまり厳格にやろうとすると、一般に受け入れられているようなものまで否定しなければいけなくなるので、なかなか難しいということはあります。
例えば、感覚統合の遊びだとか、TEACCHの構造化とか、RDIとか、そういったものも、科学的に立証された療育か、と言われれば必ずしもそうでないですから。
ですから、直感的に「これはトンデモだ」と感じる療育を「これはトンデモだ(だからダメだ)」と論じることは、実はかなり難しいことであったりします。
絶対…読まないです。ただ…診断間もない子供達の親御さんには見せたくはないなぁ…と思います。そら豆パパさんから…ブログをするにあたってのアドバイスしていただいて…頑張って書いています。あたたかいコメントがいただけて…嬉しいです。そら豆パパさんのように頑張っていきたいと思います。
http://lifesavior.jugem.jp/?cid=24
http://lifesavior.jugem.jp/?cid=20
_____
/
/ おい、テレビゲームはマインドコントロールのため
∠ のものらしいぞアヒャヒャ
∧_∧ \_____/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( @∀@) ,-っ | そうか!よし!わかった!
/⌒ヽ/ / _) \
/ \\//  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ /.\/ ‐=≡ ∧ ∧
/ ∧_二つ ‐=≡ ( ・∀・) ハァハァ 待ってろよ~
/ / ‐=≡_____/ /_
/ \ ‐=≡ / .__ ゛ \ .∩
/ /~\ \ ‐=≡ / / / /\ \//
/ / > ) ‐=≡ ⊂_/ / / .\_/
/ ノ / / ‐=≡ / /
/ / . / ./ ‐=≡ | _|__
/ ./ ( ヽ、 ‐=≡ \__ \
( _) \__つ ‐=≡ / / /
.↑  ̄作者 ``) ‐=≡ // /
`)⌒`) ‐=≡ / | /
あきを→ ;;;⌒`) ‐=≡ / /レ
;;⌒`)⌒`)‐=≡ (  ̄)
http://lifesavior.jugem.jp/?cid=24
http://lifesavior.jugem.jp/?cid=20
この文章は、あきをさんの本の8年前にかかれたものです。もはや科学ですらない。あきをさんってここの人だったんですか?
コメントありがとうございます。
いろいろなコメントをいただいて、改めて、自閉症児の親御さんが、ネットを活用することの重要性(そして、そのネットに意義のある情報を提供することの価値)を感じました。
「専門家」にもおかしな人もいます。
多くの情報に接していれば、そういう「おかしさ」に気づくチャンスも増えるでしょう。
もちろん、ネットの情報も玉石混交ですが、幸いにして「おかしなものは正直に叩かれる」という健全な傾向はありますから。
○この本を読ませたら赤ちゃんが(この本はおかしいと)しゃべった!(あまりのばかばかしさに)笑った!―こういう本がが分別のつかない子をつくる