天才脳は「発達障害」から生まれる
著:正高 信男
PHP新書
CASE1 キレやすい信長
CASE2 かたづけられない北斎
CASE3 てんかんもちの熊楠
CASE4 野口英世の放蕩癖
CASE5 サバイバーとしての中内功
何がなんだかよく分からない本です。
昔の偉人がアスペルガーだった、発達障害だったといった本はけっこうたくさん出ていて、今さらな感じがしますが(個人的には、「特別なケース」を引き合いに出して「一般論」を語るのは、そもそも「不適切な議論」だと思っていますが)、この本はあまりにも構成が不思議すぎます。
「キレやすい」
「かたづけられない」
「てんかん」
「浪費癖」
「PTSD」
これが、ここで紹介されている5人の偉人の「障害ないし疾患だと思われるもの」だそうです。
・・・なんか、発達障害とは関係が薄かったり、まったくないものがたくさんあるような気がするのは、私だけでしょうか。
著者は、この本を書くのに何年もかけられたらしいですが、その前に、そもそも「発達障害とはなんなのか」を正しく理解されたほうがよかったのでは?と思わずにはいられません。
それと、最後にちょっと過激なことを書きます。
本書のメッセージというのは、まえがきなどを読むと、「天才には、発達障害と思われるような特異な人が多いから、発達障害の子どもをもっとポジティブにとらえて才能を伸ばすべきだ」といったもののようです。
でも、言うまでもありませんが、「天才」と呼ばれる人がみんなそうなのではなく、常識人もたくさんいるはずです。そして、このようなエピソード主義的な説明は、構造をそのままに、「悪いほう」に、簡単に裏返してしまうことができます。
裏返すとどうなるか? 例えば、こうなります。
「重大犯罪者には、発達障害と思われるような特異な人が多いから、発達障害の人をもっと厳しく監視して活動を制限すべきだ」
(もちろん、上記はただのレトリック(言葉遊び)であって、書いている内容に私はまったくコミットしません)
つまり、本書は「いいこと」を書いている本に見えて、その実、「とても危険な論理」に陥っているのです。
冒頭にも書いたように、私がこういった(自閉症スペクトラムの「天才」を集めてくるような)本を好きになれないのは、こういう「危険な構造」があるからでもあるのです。
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