七田式超右脳教育法で自閉症の子が良くなる!
七田 眞
KKロングセラーズ
このシリーズ記事では、七田式の本が語る自閉症についての「ストーリー」を、科学的根拠の乏しさは一旦脇において、一種の「ファンタジー」として読み解いたうえで、その「ストーリー」が自閉症児とその親御さんにとって有益なものになりうるのかどうかについて考えています。
自閉症についての「ストーリー」というものが、大きく分けて「障害の原因」と「療育法・治療法」から構成されると考えると、前回の読み解きでは、そのうち「療育法・治療法」を先に取り上げてきたことになります。
本書が述べる自閉症療育の中心には、「神としての脳」がある、と考えることができるでしょう。
もともと、七田式というのは「教育理論」、つまり本人以外の人間が外から働きかけて子どもに影響を与えるための理論ですし、その理論の中心にあるのも大昔から「右脳理論」ですから、すごく簡単にいえば「右脳」に実体性を認めて、それ自体に働きかけるという基本的な姿勢があると言えます。
ところが、「脳」というのは外から見えませんし、脳というのは本質的にはただの臓器であって、人という「全体存在」に対しては「部分」でしかありません。そこに「全体存在」とは別の「人格」を認めてしまうと、必ず矛盾が生じます。そしてその矛盾はたいてい、端的に「脳に非物理的存在(神?)が実在する」「脳にホムンクルス(小人)がいる」といった主張によって解消せざるを得なくなってしまうわけですが、本書の主張する療育論は、まさにそのストーリーに典型的にのっていると言えるでしょう。
ですから、前の記事で紹介したような「念力による療育」は、「神としての脳に祈る」ことだと整理することができます。
また、逆さ吊りやジャンプ1000回といった一種異様な「運動療法」も、「神に祈るための呪術」だと考えられないでしょうか。(つまり、それによって普段はアクセスできない「神としての脳」にアクセスできるようになるという「特殊なおまじない」だということです。)
そして、特定の食事を制限し特定の食事を推奨するという、代替療法的な「食事療法」は、「神である脳への特別な捧げもの」を供しているのだ、とも考えられます。
今回の「読み解き」で、自閉症の「原因」よりも先に「療育法・治療法」を取り上げたのは、本書における自閉症療育の柱として「波動」による「念力療育」があること(つまり、心身二元論に基づく、肉体とは遊離した「精神」への働きかけにも非常に重点がおかれていること)を知っておくことが非常に重要で、ここの部分の前提を知ってもらわないと、おそらく「原因」の議論も分かりにくくなるのでは、と考えたからです。
さて、今回はもう一方の「自閉症の原因」について本書が語る「ストーリー」についてですが、これについてはかなり明確に「母親が悪い」(環境による部分が極めて大きい)と表現されていることが分かります。
つまり、脳の先天的な障害はほとんど無関係であるか、関係があるにしてもほんのきっかけにすぎず(それどころか、その「脳の先天的な障害」さえも、母親の妊娠中の食事や「気分」の問題、「胎児への愛情不足」が原因である、つまり「人災」だと主張しているように読み取れます)、自閉症の最大の原因は、親が子どもをどのように育ててきたかという「育て方・愛情の与え方」にある、というのです。
これも、現実的な話として、原因を環境因に求めなければ、「うちの教室に来れば治る」と主張しにくくなるわけで、ある意味必然的な主張だとも言えるのですが、ここではそういう「うがった見方」はあえて取らないことにしましょう(笑)。
ともあれ本書では、具体的に以下のようなものが「自閉症の原因である」とされています。
・生まれた直後のスキンシップがないなど、「愛情のかけかたが足りない」
・病院で産む
・誕生直後の愛撫をしなかった
・その結果、子どもは心に傷を負い心を閉ざしている
・母乳を与えず人工ミルクを与えるなど「与える食事が間違っている」
・砂糖を与えすぎる
・ミルク・牛乳を与える
・水道水を飲ませる
・テレビを見せる、ことばをかけないなど「育て方が間違っている」
・三歳までの間にテレビを見せる、機械音を聞かせる
・電磁波に晒す
・手がかからない子だといって、ことばかけを怠る
・子どもが障害をもっていると思うなど「子どもにマイナスの波動を送っている」
・つわりの頃に胎児に対してネガティブな感情を持つ
・障害だから治らない、と考えてしまう
・ことばが出ない、と考えてしまう
そこで、これらをそれぞれ解決するための療育法として、
・愛情の「正しいかけかた」として、「抱っこ法」
・子どもを胎児期に戻し、愛情をかけ直す
・過去に親が与えてしまった辛い経験を慰めてやる
・どんなに暴れても抱き続け愛情をかけ続ける
・そうやって、閉ざされた子どもの心を開く
・食事の「正しい選びかた」として、「七田のすすめる食事療法」
・砂糖、水道水、牛乳を断つ
・玄米、塩、野菜、ルイボス茶をとる
・カルシウム、ビタミン、レシチンなど、七田で扱っているサプリメントをとる
・七田で扱っているOM-Xで、通じをよくして宿便をとる
・子どもの「正しい育てかた」として、「テレビを見せずにことばかけなどを増やす『右脳教育』」
・高速で理解や記憶を求めない「七田式右脳課題」
・逆さ吊り、その場跳び、朝の散歩、オイルマッサージなどの「運動療法」
・寝ている子どもに語りかける
・カセットテープで歌を聞かせる
・波動の「正しい送りかた」として、「ポジティブな気を送ったり、障害は治ると心から念じること」
・子どもに障害などないと「心から信じる」
・ことばを話せるようになると「心から信じる」
・ことばが話せる、何でもできるといった「暗示」を子どもに送る
が推奨されるわけです。
・・・必ずしも綿密な構造をもっている「ストーリー」ではないので、読み解くのは相当骨が折れましたが、これでだいたい、本書が説く自閉症の「ストーリー」の全体の構造が解明できたのではないかと思います。
これらをもう少し大きい枠組みで整理すると、先に述べたように、「これまでの(親の)行ないの悪さ」によってへそを曲げている(機能不全に陥っている)「神としての脳」に対して悔い改め、捧げものをし、呪術的な踊りを舞って、心から祈ることで、再び「神」から慈悲を受け、奇跡を起こしてもらって「自閉症を治す」のだ、というよりイメージしやすい「ファンタジー的なストーリー」になるわけです。
私自身としても、かなり面白い「構造」を掘り起こせたんじゃないかと思っています。七田氏のもっている療育的立場に、ある程度近づけたのかもしれないな?とも思います。これで私も、彼らの考える自閉症療育をいつでも「語る」ことができるかもしれません(笑)。
次回は、最後に残されたテーマとして、このような七田式の「ストーリー」は、科学的根拠を脇に置いたときに、「療育のフレームワーク」としては有用である、という可能性はあるだろうか?という議論をすすめていきたいと思います。
(次回に続きます。)
※ちょっと情報追加。
いわゆる疑似科学批判に精力的にされているアカデミック方面の方として有名な菊池誠氏(過去の当ブログ関連記事)が参画した、疑似科学批判本の新刊が出ています。(ほんのちょっとですが七田式も登場します)
おかしな科学―みんながはまる、いい話コワい話
著:渋谷研究所X、菊池 誠
楽工社
内容は、「疑似科学入門」的な位置づけで、マイナスイオンとか波動とか血液型性格診断のような「定番」の疑似科学・トンデモ科学についての対談形式でのライトな批判という印象です。気軽に読めるので、疑似科学などに関心があっても、これまで関連書を読んだことがない方はどうぞ。「七田式」も固有名詞入りで「オカルト」「超能力教室」などと一刀両断されていて、けっこう勇気のある本だなあ、と思います。(菊池氏のブログでも、これまで再三にわたり七田式が批判されています。)