これはすごい。まさに画期的な本。
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自閉症児のための明るい療育相談室
著:奥田健次、小林重雄
学苑社
はじめに
第1章 生活編 毎日の生活を楽しく
Q1 「寝ぐずり」と「夜泣き」が激しくて困っています。
Q2 そろそろ一人寝をさせたいのですが、可能でしょうか?
Q3 食事中、落ち着いて座って食べてくれません。
Q4 まだ手づかみで食べようとする癖があります。
Q5 偏食のためか食事時間がダラダラと長すぎます。
Q6 食べ物を飲み込んで吐き出してこねてしまいます。
Q7 トイレットトレーニングがうまくいかず、失敗が続いています。
Q8 うんちがトイレでできません。
Q9 女の子にいやらしい感じで抱きついてしまいます。
Q10 歯磨きがうまく一人でできるようになってほしいのですが……
Q11 お薬を嫌がらずに飲ませるよい方法はありませんか?
Q12 着替えに時間がかかります。
Q13 お小遣いの渡し方を迷っています。
第2章 遊び編 遊びを元気に楽しく
Q14 一人遊びが多く、人を避けてばかりいます。
Q15 遊びのやりとりができません。人とのやりとりを高める秘訣を教えてください。
Q16 遊びは一人遊びが中心で、物を並べることに固執しています。
Q17 片付けがなかなかできません。
Q18 テレビゲームに夢中すぎます。このままで良いのでしょうか?
Q19 高いところに登るのが心配です。叱っても効き目がありません。
Q20 水遊びがひどくて、放っておくとずっと続けています。
第3章 お友達編 お友達と仲よく
Q21 幼稚園の門の前で別れるときに泣くようになりました。
Q22 空想のようなことを言っていたと思ったら、嘘をつくようにもなりました。
Q23 弱い子をつねったり、つきとばしたりします。
Q24 順番抜かしをするのですが、大切なルールを教えるにはどうすればよいのでしょうか?
Q25 障害があるのは明らかなのですが「高機能」と言われて困惑しています。
第4章 ことば編 ことばのやりとり
Q26 「要求の泣き」が強くて困ります。
Q27 着席して課題をさせようとしてもすぐに逃げてしまいます。
Q28 無発語の状態ですが、やりとりを発展させていく方法はありますか?
Q29 おうむ返しが目立ちますが、おうむ返しは良くないことなのでしょうか?(エコラリア1)
Q30 おうむ返しが目立ちますが、会話に発展させるためのアイデアを教えてください。(エコラリア2)
Q31 獲得した語彙をコミュニケーションとして使うようになるためには、どんなことに気をつければよいのでしょうか?
Q32 「なんで?」「どうして?」などの質問が止まりません。
第5章 行動編 困った行動との付き合い方
Q33 アスペルガー障害と診断されました。
Q34 体調不良を訴えて登校をしぶるようになりました。
Q35 道順や順番のこだわりに対してどうすればよいのでしょうか?
Q36 洋服にこだわりがあって困っています。
Q37 収集癖が強くて困っています。
Q38 外出先での多動を何とかしたいのですが……
Q39 飛び出し行動があります。家庭や専門機関で取り組める方法はありませんか?
Q40 授業中の立ち歩きにはどうすればよいでしょうか?
Q41 家族への暴力に対して、どのように対応すべきですか?
Q42 きょうだいに対する暴力をなんとかしたいのですが……
Q43 動物への乱暴に対する指導方法を教えてください。
Q44 肥満になって不活発になりましたが、何か気をつけることがあれば教えてください。
Q45 指しゃぶりがまだ続いています。
Q46 性的な関心が強いようで心配です。
Q47 つば吐きの癖をどうにかできないものでしょうか?
Q48 行動療法にもいろいろあるようですが……
Q49 常同行動や自己刺激行動とはどんなものなのでしょうか?
第6章 学校編 学習・学校の課題
Q50 鉛筆の持ち方を教えてください。
Q51 算数の文章題が苦手です。どういう力を付けていけばよいのでしょうか?
Q52 通常学級での一斉指導は有効なのでしょうか?
Q53 教室で騒ぐ児童に、何かよい指導法はありませんか?
Q54 家庭での余暇の過ごし方にはどんなアイデアがありますか?
お薦めの本
あとがき
見る人が見れば、著者と目次だけでポチっといくくらいインパクトのある本ですが、実際、その中身も期待を大きく上回るものでした。
すごいこと、その1。
すべての課題に、著者2人の異なった「解決案」が提示されていること。
つまり、54の課題に対して、108の回答がある、という構成になっているわけです。こんな本は今まで見たことがありませんが、この「1つの問題に2つの解決案」というのが、本書に非常に大きな付加価値を与えています。
↑こんな風に、すべての問題について2人分の「解決案」が掲載されています。
ABAというのは行動原理という理論から入るから、ある問題に対する答えは一意に決まる、と考えがちですが、実際にはどこまでいっても「臨床」であり、問題解決の「ノウハウ」は臨床家ごとに違ってきます。もちろん、問題を抱えるお子さんのほうも千差万別ですから、適切な対応もさまざまでしょう。
ですから、問題行動の類型としては1つであっても、それに対する解決のためのアイデアは、複数あったほうがいいに決まっています。そうすれば、そのうちの1つをお子さんに適用してみてうまくいかなかったとしても、そこで立ち往生してしまうのではなく、さらに別のやり方を試してみることができます。
さらに、2つのアイデアが並んでいることで問題解決のイメージがふくらみ、親御さん自身が第3、第4のアイデアを出していくことにもつながるはずです。
また、ABAについての「読み物」として本書を読む場合でも、「ABAといっても、臨床家によっていろいろなアプローチ、いろいろな着眼点があるものなんだな」ということが実感として理解できますし、「療育というものは、こんなにもいろいろなアイデアを駆使しながら、効果のあがる働きかけを模索していくものなんだな」ということで、療育的働きかけとは極めてクリエイティブな営みである、ということも伝わってきます。
さらにいえば、2人の著者の問題解決へのアプローチの違い、「個性」も透けて見えて、非常に興味深いものになっています。実際、Q27のように、答えがほとんど逆になっているものもあります。(こういう点を見ると、ABAというのは「正しい答えがある」ことが強みなんじゃなくて、「検証ができる」ことこそが強みなんだということがよく分かります。)
ざっくり言うと、奥田氏のほうがより行動主義的で、行動の「結果」に対して働きかける傾向が強く、「罰」を使う傾向が強く、全体的に「問題行動に負荷・コストをかける」ことによって問題行動を減らしていくアプローチになっている一方、小林氏は相対的にやや認知主義的で発達への意識が強く、行動の「きっかけ=先行刺激」に対して働きかける傾向があり、全体として「問題行動を起こさずに済む環境づくりをしていく」ことで問題行動を減らしていく傾向があるように感じられました(これは個人的な印象ですが)。
とりわけ、奥田氏のやりかた(本書では「奥田式」と呼ばれています)は、これまでの一般的な「ABA本」では恐らく意図的に掲載を避けられてきたと思われるような、やや厳しめで実行にそれなりのリスクが伴うもの(例えば、寝るときに親離れさせるためのアイデアとして「寝室に閉じ込めてしまって、泣き叫んだり頭をゴンゴンやって抵抗してもそのままにする」やり方とか、高いところに登るのをやめさせるためのアイデアとして「安全な環境で、登りかけている子どもをわざと落として、怖いという経験をさせる」やり方など)が多数掲載されていて、これまで恐らく門外不出、「専門家に聞いて初めて教わる」タイプのものだったと思われる解決策が満載で、これだけでも本書を買う意味があると言えるでしょう。(ただ、本書のなかでも繰り返し警告されていますが、こういう多少なりともリスクのある働きかけをやる場合には、ちゃんと行動理論の基礎を学んだうえで、覚悟を決めてしっかりとやりとげることが必要です。)
すごいこと、その2。
すべての解決法が、実際に親が実施できる具体的なものになっていること。
これはABAであれば当然なのかもしれませんが、「○○といった可能性を考慮しながら、しばらく様子を見ましょう」とか「子どもの気持ちにたって、かかわりを深めましょう」といった、答えが書いてあるのかないのかよく分からないような「解決案」は1つもありません。もちろん、「トラウマ」とか「アンビバレンス」のような、検証不能な概念で説明されてケムに巻かれてしまうこともありません。
すべての回答は、親御さんが実際に実施できるものばかりで、かつ極めて具体的です。(一部、具体的に説明しつつ、専門家の支援を推奨するものもあります)
具体的、というのは、やりかたがはっきりしているということだけでなく、「やってみて、その働きかけが有効だったかそうでなかったかも、すぐにはっきり分かる(検証可能)」ということでもあります。
ここに書かれたABAの「解決案」が常に正しいかどうかは分かりません。でも、うまくいかないときはすぐに「うまくいっていない」と分かるところにこそ、ABAの良さがあるわけです。
もう一度ここで、「目次」に並んだ相談項目を見てみましょう。
どれも非常に悩まされることが多い典型的な相談ばかりで、実際我が家でも問題になったことがある(あるいは現在でも問題である/これから問題になりそうな)ものがたくさんありますが、それらのすべてについて、本書は「こういう解決方法があります」という具体的なアイデアを、しかも著名な2人の専門家からそれぞれ別のアイデアを、教わることができるわけです。
どの回答も具体的なので、読んだその日から実践することが可能です。
つまり、「108の回答がある」というのは、本書においてはそのまま「108の解決策、アイデアが具体的に書かれている」ということです。これは本書の隠れた、でもとても大きな「すごい」点だと思います。
すごいこと、その3。
この本が現に出版され、たかだか2000円台の出費でいつでも買えるという事実それ自体。
先日の井上先生のABA本でも書きましたが、本書に掲載されているような職人的な「療育ノウハウ」というのは、臨床家個人の「部分最適」だけを考えると、恐らく「表に出さずに隠しておく」ほうが、お金になる類のものだと思います。つまり、「私のところにきて高いお金を払ってくれたら教えますよ」というやり方ですね。
その一方で、日本中に散らばる支援を必要とするお子さんにとっての「全体最適」を考えると、ごく限られた、経済的にも地理的にも恵まれた一部の家族だけが優れた療育ノウハウを手に入れることができ、そうでない人は手に入らずに「格差」が広がってしまうという状況は望ましくありません。そういう視点からは、できるだけ多くの優れた療育ノウハウが公開され、社会の知として広く共有されることが求められるわけです。
もちろん、臨床家にも生活があり、それが失われればそもそも「療育ノウハウ」自体が育たなくなるので、ノウハウを囲い込むやり方を全面的に否定するものではありません。加えて、専門家と親御さんとの間には大きな技術的・経験面でのギャップも当然あり、共有化できない領域がたくさんあることも間違いないでしょう。
でも、その制限をふまえつつ、最大限にノウハウの共有化が実現されれば、全国の意欲のある親御さんが安定して一定レベルの療育を行なえるようになり、「格差」を最小限のコストで縮小させることができるはずです。これは社会的にみても意義のあることでしょう。
そう考えていくと、本書が出版されたことの画期的な意味というのが理解されるはずです。
私の率直な印象として、本書を正しく理解し、活用することができれば、本書のもつ「力」は、ほとんど「破壊『力』」と呼んでもいいくらいの、極めて大きなものです。暴言であることを覚悟して書くと、実際に身の回りにいる「専門家の先生」に相談にいくよりも、本書を読んで正しく実践するほうが、恐らく8~9割以上の確率で、より有効な働きかけができるのではないだろうか、と思うくらいです。
そういう意味で本書は間違いなく「専門家殺し」です。
もちろん、本当に優れた専門家は「殺され」ないでしょうが、ただ肩書きを持っているだけで、本で読んだ一般論でアドバイスする以上のことをほとんどやっていないような中途半端な「専門家」は、本書の破壊力の前に、おそらくひとたまりもないと思います。
そんな破壊力をもった「すごい本」が、わずかな出費で手に入ります。
予約して何か月も待って、わざわざ遠いところまで泣き叫ぶ子どもを連れて出かけていかなくても、自宅でAmazonで申し込むだけで(在庫があれば)2、3日でわざわざ自宅にまで「来てくれて」、そのままずっと家にいて、悩みがあったら夜中でも相談に乗ってくれるのです。
しかもその相談に乗ってくれるのは、日本屈指の優れた行動療法家で、2人も並んで待っていてくれるのです。
どこかのゲーム機メーカーの元社長ではありませんが、まさに「すごい時代になったでしょう」と感じずにはいられません。
私が子どもの障害を知り、駆けまわって情報を集めたわずか数年前と比べても、最近の「療育情報のオープン化」の流れは劇的です。その「流れ」にうまく乗って、価値のある最新の情報を低コストで手に入れることで、いま自閉症児を育てている親御さんは(従来と比べて)大きなアドバンテージを手に入れられます。
もちろん、本が1冊あれば自閉症児やその家庭が幸せになれる、というほど話は単純ではありません。
でも、さまざまな問題を解決する有効な方法を知ることが、そういう「幸せ」のための欠かせない基礎になることは間違いありません。
ですから、その基礎を作るための「職人たちの知恵」が、自宅にいながらにして簡単に手に入るようになったことの意義は、いくら強調しても強調しすぎることはないでしょう。
さて、本書はこのように「すごい本」ですが、本書をフル活用してさらにその効果を最大化するためには、本書がカバーしていない知識を他の本で補うのが望ましいでしょう。
まず、本書はABAの「行動理論」をベースに問題解決のアイデアを提供する本ですが、その基礎である「行動理論」についての説明はほとんどありません。
もちろん、理論の知識がなくても個別の解決策は実施できるように工夫はされているわけですが、その背後にある「理論」を知れば、本書のアドバイスをさらに深く理解できますし、掲載された54の課題以外の問題行動にも応用が効くようになるでしょう。
行動理論の基礎を学ぶための本で一番のおすすめは、集英社新書の「行動分析学入門」(当ブログ殿堂入り)です。新書で180ページ程度とコンパクトなボリュームの中に、充実した本格的な内容がぎっちりと詰まっています。
(教科書的でない、もう少し「柔らかめ」のABA入門書がいいのであれば、こちらの本も悪くない選択です)
そして、本書は「問題行動の解決」を中心とした本ですが、一方で、「日々の療育として何をやらせるか」ということも、もちろん重要になってきます。
そういった日々の発達課題をABAに基づいて実践するためのマニュアルとしては、こちらも当ブログ殿堂入りしている、井上先生の「家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46」がおすすめです。
つまり、
・ABAの基礎を学ぶ教科書
・ABAによる問題解決ガイド(本書)
・日々のABA療育マニュアル
という3点セットを揃えることで、「家庭でのABA療育環境」を、専門家顔負けの高いレベルで整備することができます。上記のおすすめセットなら、全部買って5000円強ですが、これらをセットで読むことによって生まれる付加価値は、その金額の10倍では利かないのではないでしょうか。
問題行動解決マニュアルとして、実に画期的な本だと思います。文句なし、殿堂入りです。
※その他のブックレビューはこちら。
※補足:奥田氏についてはもう1冊、「子育てプリンシプル」という新刊が出ていますが、こちらについてはやや批判的なレビューを、近日中に書く予定です。
そらパパさんが、この記事に書かれたように
最近の「療育情報のオープン化」の流れは、
まさに劇的ですね。
> Q51 算数の文章題が苦手です。どういう力...
我が家が行っている方法を紹介させて下さい。専門家の
本の記事のコメントに記載するのもおこがましいですが、
以前、そらパパさんが食べたことないと書かれていた?
"笹だんご" を使った方法です。
http://angel.ap.teacup.com/tsumiki-niigata/225.html
コメントありがとうございます。
自閉症の療育は、結局は子育ての延長で、親が家でやっていくことなので、「こうやればいいんですよ」という情報がしっかりオープンに出てくれば、別に物理的に専門家が近くにいなくても、相当な範囲がカバーできてしまうんですよね。
自閉症の療育技法のなかで、再現性があって言語化が容易なのは何といってもABAですので、こうやってABAの英知が一般向けの本になってどんどん集まってくれば、日本の療育の未来はそれなりに明るいと思います。
※「笹だんご」は関西の実家では売っていなかったですが、それとそっくりなお菓子を「ちまき」という名前で売っていましたね。
ブックレビューはホントに助かっています。今後もよろしくお願いします。
追記:
遅ればせながら、ただ今「ブッダのことば」(岩波文庫)を読んでいます(^^)
コメントありがとうございます。
そんなに大した数ではありませんが、おかげさまでこの記事経由で購入くださっている方もいらっしゃるようですね。
この本は、行動療法家の「スジのいい現場のノウハウ」をオープンにしたという点で画期的だと思っています。
以下、JKLpapaさんへの直接のレスということではなく、一般論として書きますが、
私は、「ここにあらゆる悩みの『正解』が書いてある」、あるいは「どんな問題もこの本に書いてあるやり方ですぐに解決」、みたいな意味でこの本を評価しているわけではありません。
正解かどうかは、実際に自分のお子さんに試してみないとわかりません。この本に書いてあるのはどこまで行っても「ヒント」ないし「アドバイス」です。
でも、それは実際に物理的に「専門家」に相談にいっても同じなわけですね。
結局、「スジのいい専門家」に相談して、「スジのいいヒント・アドバイス」をもらって、それを実際に自分の子どもに試してみて、うまくいったりいかなかったりして試行錯誤しながら「正解」に近づいていく、それが専門家のノウハウを活用した療育ということになるわけです。
で、この本が出たことの意義は、「スジのいい専門家」に、たった2000円なにがしでいつでも相談できて、「スジのいいヒント・アドバイス」が何度でももらえるようになった、という、まさにそこにあるわけです。
しかも、自分の悩み1つだけのアドバイスがもらえるわけじゃなくて、54もの問題に108ものアドバイスがもらえることによって、ただ専門家から受動的にアドバイスを受けるんじゃなくて、読者自身がある程度「スジのいい専門家」に近づけるような、そういう療育ノウハウを手に入れることができる、それが「画期的」だと思うわけですし、「専門家殺し」になっていると感じるわけです。
なので、この本は、「この問題の正解を教えてもらおう」と受動的・部分的に読むんじゃなくて、「奥田先生、小林先生のノウハウを丸ごと盗んでしまおう」と、能動的・全体的に読むのが、その価値を最大限に引き出す「いい読み方」なんじゃないかな、と思います。
※「ブッダのことば」ですが、長く持っていながら、私は多分全部は読んでないです。いつも、最初の20ページくらいか、後のほうにある「8つの詩句の章」に目を通して、自分の中で「思い」がいっぱいになったら、そこで読むのをやめる、みたいな読みかたばかりです。ちゃんと通して読まないといけないなあ、とは思っているんですが。Amazonのレビューのトップにも上がっている「犀の角」のところは、確かにすごい迫力ですね。
もう目次を見ただけで、すぐ飛びついてしまいました。
そらパパさんのおっしゃる通り、内容もすごいですが、二人の先生がそれぞれ意見を書かれているので、自分自身のアイデアが浮かびやすくなりますね。
この本の価値はそらパパさんのおっしゃる通りで、批判するつもりではまったくないのですが、私のように自閉症療育暦が浅い親からすると、ちょっと気をつけて扱うべきかと思います。
感覚的な言い方で申し訳ないのですが、ABAをやろうとするとき、「ぶれない」線をどこに引くか、というのがとっても難しいと思うのです。Q41の「家族への暴力」というのに、私も今ちょうど困っているのですが、「タイムアウト」を中途半端にやってしまって失敗する、というパターンになってしまいました。一回はできても、どんな弱い力でも他人を叩いたらタイムアウトって、いうのが、難しいのです。うちの場合、きょうだい喧嘩がありますから、ますます難しいのですが...
この類のテクニックで成功したのは二人の断乳だけです(苦笑
その時は何ヶ月も前から入念に計画して、夫の連休を利用してだっこもしませんでしたので、それぐらいの「きっぱり」と、その後しばらくはお風呂も一緒に入らないという徹底ぶりで成功したのだなーと、これを読んで思いました。
日常生活で、罰的なことを徹底することは、母親一人では難しいでしょう。私の本書の読み方は、「これほど徹底的にやれないのであれば、使わないほうがいい」というのがABAの印象になってしまいました(笑
それと、なんとなく論調に違和感があった奥田氏のパートは、もうひとつの本のレビューで納得しました。ABA3点セットに、「クリシン」の本を付け加えることを提案します(笑
私は佐々木正美先生ゆかりの療育機関に通っていることもあり、基本的には「環境を合わせる、大人が歩み寄る」アプローチでまずは問題をアセスメントしてみます。子供への負担を可能な限り取り除いた上で、どうしてもゆずれない線で、ABAを使ってみる、という風にしています。
ABAは私にとっては、問題行動を変えるよりは、強化の原理でできることを増やしてあげる、達成感を持たせるほうに使うほうが簡単です。
奥田氏は、優れたABAの実践者という側面と、かなり(私からみて)変わった思想の持ち主という側面、2つを持っていらっしゃるので、なかなかとらえるのが難しい方だなあ、と思います。ブログも書かれていた(現在は更新停止)ようですが、こちらを読むとさらにその印象が強まります。
http://kenjiokuda.cocolog-nifty.com/
ちなみにもう1つ、この本が出るまでは「実践的ノウハウをオープンにしない人」という印象もあったのですが、その評価はこの本で180度変わりましたね。
それと、「プロじゃなきゃ本格的なABAはできない」という主張は、現時点では真理かもしれませんが、それを言ってしまうとABA的には敗北なんじゃないかと個人的には思っています。
なぜなら、ABAはすべてを行動に還元することで、自らを「最も科学的な心理学、科学的な療育法」だと位置づけているわけです。
科学的=再現性がある(追試できる)、ということでいうなら、「誰がやっても成功するタイムアウトの手続法」というのを、素人の親でもできるように記述できなければ、タイムアウトは「修行を積んだ・経験を積んだ高僧でなければできない呪術」ということになってしまって、その部分について科学ではなくなってしまうと思います。
まあ、そもそも「罰」というのは、完全に実施できないと「部分強化」になってしまうので、親が見ていないところでもできてしまうような行為については使うのが難しいでしょうし、親が見ているところだけで徹底すると、こんどは分化強化が起こって、「親が見ていないところだけでやる」になってしまうので、使える場面は限られると思います。(逆にいえば、親が制御できる行動だからこそ、断乳は成功したのだろうと思います。)
でも、ピッカリママさんが最終的にTEACCH寄りの療育理念に到達していたというのは、率直に言ってちょっと驚きました(以前のやりとりでは、かなりABA的な世界観にのめりこんでいらっしゃったようにお見受けしていたので)。
ABAをしっかり学んで、その威力も理解したうえで、TEACCH的な理念にもとづいて療育にとりくむ、というのは、個人的にはいちばん手堅くてお子さんにとっても安心できるやりかたなんじゃないかと思っていますし、当ブログの立ち位置も基本的にはそうです。
私がTEACCH寄りであることに、驚かれたとの事、私も意外でした(笑
そういえば、コメントはABAについてに偏っていましたね。それほど、ABAの理論は私には新鮮で、一見簡単そうに見えたので(笑
読み物としても、杉山先生の本が文体も含めてすごく好きです。一度お会いしてみたいです。
実は勉強や実践では、TEACCH系の方がずっと多く取り組んでいました。
でも、いまだにTEACCHって何?というとよく答えらないんですが...
療育機関も「TEACCHやってます」とは明言されていないんですが(笑、多分TEACCHの理念がベースなんだろうと思います。
幼児期だけですが、保育園や幼稚園の巡回指導などもしてくれ、親の教育にも熱心なので、療育、医療、地域、家庭をトータルでサポートしていただけています。(診察は年1回程度ですが...)
この一年、色々やってみて、母親としてできること(というより、優先してやるべきこと)は、子供を安定させることで、うちの場合、二人ともとにかく見通しを持たせることと、身体的な負担を取り除いてあげることでした。
そして、少しづつ協力してくれる身近な大人を増やし、活動の場を広げる。この1年はそれにつきました。
そうしているうちに、薄皮がめくれるようにだんだん子供のことが見えてきて、気がついたら子供が先を歩いてた、という感じです(笑
ABAの職人にはなれそうにありませんが、生まれ変わったら、スキナー箱で実験してみたいです。(鳩が怖くなくなったら...
コメントありがとうございます。
ピッカリママさんの療育理念はスジが通っていますね。そんなお母さんに支えられて伸びていけるお子さんは幸せだと思います。
(個人的には、こういうスタンスこそ、子育ての「プリンシプル」と呼ぶに値するんじゃないだろうか、と感じます。とにかく最後は親の言うことを聞け!みたいなのよりも・・・)
TEACCHは、ABAのような意味で「わかる」ものではないんでしょうね。わたしも、TEACCHは、ABAとの「違い」のなかにしか実体を見つけられないようなところがあります。
注:以下、やや残酷な表現がありますのでそういうのが苦手な方は読まないでください。
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スキナー箱は興味深い実験です。
同期がそれぞれ別のマウスを担当して学習実験をするんですが、やっぱり「頭のいいマウス」とそうでないのがいたりします。
ただ、学習と消去を繰り返すのでマウスのストレスが強く、10匹に1匹くらいは実験中に胃潰瘍で死んでしまうことがあります。
それを避けるために、実験の前後に5分以上マウスをなでてあげるんです。(実験についてくれる助手から、「死んでしまうのは愛情が足りないんだから自分の責任だ、ちゃんとしっかりとなでてあげるんだぞ」と繰り返し言われました)