2006年01月20日

認知発達治療の実践マニュアル(ブックレビュー)

ブックレビューではありますが、読むだけでなく、実践することを前提としたご紹介です。

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認知発達治療の実践マニュアル―自閉症のStage別発達課題 自閉症治療の到達点2
著:太田 昌孝、永井 洋子
日本文化科学社

とても高いです。値段だけみると、完全に専門書の領域に見えます。
また、以前ご紹介した自閉症児の発達単元267」と、装丁も、ちょっと見た内容の印象も、さらに値段も似通っていて、どちらがいいか迷ってしまうかもしれません。「どちらでもOK」と書いてある紹介ページも多いですね。

でも、この「そらまめ式ブログ」では、思い切って、この「認知発達治療の実践マニュアル」の方を明確におすすめしたいと思います。理由を以下に書きたいと思います。

少し調べた方ならご存知のとおり、「発達単元267」はショプラー教授の著作で、TEACCH関連書籍という位置付けになります。一方、この「認知発達治療の実践マニュアル」は太田先生の著作ということで、いわゆる「太田ステージ」関連書籍ということになります。

この2冊の本は、見た目こそ非常に似ていますが、本質的に異なる点があります。それは、「発達単元」が、どちらかというと現場で実践されてきた経験が先にありきで、そのアイデア・ノウハウを後から発達水準・カテゴリ別に整理した印象が強いのに対し、「実践マニュアル」は、太田ステージという認知発達モデルが先にありきで、それをもとに、各発達水準からステップアップするための課題が用意されている傾向が強いのです。

つまり、「発達単元」の課題は、厳密な意味においては体系化されているとは言えない、臨床的な「アイデア集」であり、掲載されている課題をどのように選び、どのように組み立てて実践するかという部分で、療育者の一定以上のスキルが求められます。実際、TEACCHの療育カリキュラムは、こういったノウハウをベースに、経験豊かなプロのスタッフによって個別に開発されているといえます。

また、より厳密な課題設定のためには、発達段階を評価するツールとしてPEPなりPERなりが必要になりますが、これらの資料はこの本には含まれず、別途手配しなければなりません。これは、一般家庭ではほとんど不可能だといえます。

こういった問題があるため、「発達単元267」は、それほど経験のない親が家庭の療育で活用するためにはかなり扱いづらいと言わざるをえません。

一方、「実践マニュアル」は、既に書いたとおり、最初に「太田ステージ」という発達モデルがあり、子どもがそのモデルにおいてどの段階にいるかを見極めた上で、その発達段階にふさわしい課題ができるように整理されているという構成になっています。太田ステージの評価法もこの本の中に含まれています。
つまり、この本1冊あれば、子どもの発達段階を評価し、その段階に合せた療育メニューを選ぶことが、比較的簡単に誰にでもできるようになっているわけです。

加えて、「自閉症の障害の『根っこ』は脳の認知機能の欠陥にある」と考えている私にとって、認知レベルに沿った発達課題の設定という「実践マニュアル」のやり方には強い説得力を感じます。

以上が、家庭で実践する課題本として、この「実践マニュアル」をおすすめする理由です。

さて、次に残った問題である、そもそも一般家庭で専門書のようなこの本を買う意義・必要があるのか?という議論についてですが、これは、ぜひ買ったほうがいいというのが私の考えです。

本書で説明されている課題はイラストや手順も入っていてとても分かりやすく、容易に理解することができます。それぞれの課題が目指すべき発達課題や注意するポイントなども明確で、これ1冊あればあらゆる発達段階のあらゆる分野における適切な課題を見つけることができると言っても過言ではないでしょう。つまり、本書は専門書っぽくない専門書なのです。

値段についてはどうでしょうか。
自閉症に関するセラピストを見つけて、家庭での課題のさせ方について指導を受けるとすれば、それ1回だけで数万円から数十万円の費用がかかるでしょう。実際には、そういったプロを見つけて面談の予約をもらうだけでもものすごく大変なことです。
しかも、そういった指導で教えてもらえるのは、現時点の課題だけか、せいぜいその先半年くらいまでだけです。短時間で子どもを診断するため、子どもの体調などで発達レベルを正しく診断してもらえない可能性も否定できません。
そう考えると、たった6000円程度で、日本屈指の自閉症治療の権威である太田先生のノウハウがぎっちり詰まった(しかも分かりやすい)「課題全集」が手に入るというのは、むしろ非常にお買い得だと言えます。

上記はプロのアドバイスを否定するものではまったくありませんが、そういったものを受ける機会がないとしても、本書をじっくり研究し、TEACCHや行動療法の手法についても勉強しながら、自分の子どもに合った課題を頭をしぼって実践することができれば、プロのサポートを受けるのに限りなく近い(部分的にはそれ以上の)内容の家庭療育ができると言ってもいいのではないでしょうか。

「家で課題をやらせてみたい」と考えたら、まず本書。強くおすすめします。
posted by そらパパ at 23:26| Comment(2) | TrackBack(0) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。昨年末から、そらパパさんのHPにお邪魔しては、いろんなことを勉強させていただいています、5歳自閉症児(男)の母です。早速、この本を購入し、むさぼるように読みました。そらパパさんのおっしゃるように、課題学習etcの具体的なものがたくさん載っています。そこそこ、課題はやっていた気になっていましたが、これを読むと改めて抜けていた点、もっとアレンジしたほうが良い点など、本当に参考になりました。自宅で、学習教室が開けるんじゃないかと思うくらい(笑)です。
この本を紹介していただいたそらパパさんに、心から感謝いたします。
Posted by ピーターソンの母 at 2007年01月14日 16:47
ピーターソンの母さん、はじめまして。

当ブログからの本の購入ありがとうございます。

本書は、課題集のなかでは一番評判が良いようですね。本書をフル活用することができれば、本当に学習教室が開けるかもしれませんね。(^^)

これからもよろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2007年01月16日 23:01
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