パフォーマンス・マネジメント―問題解決のための行動分析学
著:島宗 理
米田出版
ABAの本です。
このブログのリンク集でもご紹介している「自然と人間を行動分析学で科学する」の島宗先生の本ということで、本屋で見かけたので買ってみました。
一読した感想、これは「奇書」ですね。
この本は、行動療法のベースであるABA(応用行動分析)の初心者向けテキストであり、「大学の先生が書いたビジネス書」といった体裁をとっています。
基本的には、部下の仕事のミスを減らす、効率を上げる、品質管理、モチベーションを上げるといった、管理職として成功するためのノウハウを、すべてABAの原理に従って解説していくといった本です。
これだけ書くとごく普通の本のように思えますが、この本は、学術書として見ても、ビジネス書として見ても、とても奇妙な独特の味わい?を持っています。
具体的にいうと、
1.全編ストーリー仕立てになっていて、しかもその内容がかなり微妙。
いきなり最初の編から、ABAを使ってうまく女性の部下をコントロールできるようになった上司が、その部下とラブホテル街に消えていくというエピソードから始まります。
そして、その後のストーリーの大部分は、この部下といい仲になった人物がABAを使って次々と問題を解決し評価を上げていくといった内容になっています。
別の女性の部下とは(なぜか部下は女性ばかり)毎週会社の会議費でランチを食べ、恋愛の相談にも乗り、学級崩壊しているクラスの建て直しまでやってしまいます(ドラゴン桜?)。
本編の内容は大まじめで、エピソードも無意味に入っているわけではなく、各編のトピックへの分かりやすい導入となっているわけですが、このストーリーのせいでちょっと女性にはおすすめしくにい本になっています(笑)。
2.説明がひたすらABC分析。
まあこれはABAだから当然でしょうし、「いい面」だとも言えると思いますが、とにかく最初から最後まで、行動に関するあらゆる説明はすべてABC分析(行動によってどう状況が変わったかを図示して分析する方法)で行われます。
ABAが重視する節約の原理(できるだけシンプルな原理で説明する)が徹底されており、内容のわかりやすさに貢献していると思いますが、実際読んでいると、どこを読んでいても同じページを読んでいる気がしてくる(「ストーリー」の間にABC分析の表が挿入されているという構成がまったく同じ)ので、だんだん不思議な気持ちになってきます。
3.結構ムチャなものまでABAの対象にしている。
ABAサイドの方にとっては「ムチャ」ではないのかもしれませんが、恋愛とか道徳とかをABAだけでコントロールするというトピックのためにわざわざ独立の編が設けてあって、「ストーリー」まで用意してあります。
個人的には、限界をわきまえて使えば恋愛だろうか道徳だろうがABAでコントロール可能、という主張には違和感は感じないのですが、「初心者向けの本」あるいは「ビジネス書」として考えると、これは相当奇抜というか、「尖った」主張をしているようとは思います。
4.それでいて、内容はきわめて真面目。
これだけの「変わった」本でありながら、強化、消去、弱化といったABAの基本は言うに及ばず、脱感作療法からレスポンデント行動、シェイピング・モデリング・プロンプト・フェイディングといったABAの概念を幅広く網羅し、それを実際の生活に応用するためのノウハウが豊富に盛り込まれていて、特に管理職の方には間違いなく「役に立つ」本になっています。
少なくとも、大手の出版社から山のように出ている観念論ばかりで抽象的なリーダー論・マネジメント論を読むよりは、本書を読んだほうがはるかに有用であることは間違いありません。
本書は、もちろん自閉症の療育本ではありません。でも、「ことばによる指導」が難しい自閉症児の療育にもっとも有効だと思われるのは行動療法(ABA)であり、本来のABAとはどんなものかを知るための本としては、かなりおすすめだと思います。
何度か書いているように、自閉症向けのABAの本は、ほとんどがロヴァース式の早期集中介入に多かれ少なかれ染まっていて、ABAの一部のみが強調されている印象が否めません。
もちろんそれらの本も重要ですが、行動療法に取り組もうと考えるなら、少なくとも1冊は「自閉症用」ではない、ピュアなABAの本を読んでいただきたいと思います。
殿堂入りしている「行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由」と本書、どちらも扱っている内容はほぼ同じですが、「会社では管理職のお父さん」が読むのであれば、もしかすると本書を読めば、会社での部下の指導と家での子どもの療育、両方に役に立って一石二鳥になるかもしれません。
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