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2009年04月02日 [ Thu ]

「脳科学」の壁−脳機能イメージングで何が分かったのか(ブックレビュー)

発達障害に関する書籍を多数出している榊原氏が、発達障害の話題もからめつつ、脳科学ブームについて語った本です。



「脳科学」の壁 脳機能イメージングで何が分かったのか
著:榊原 洋一
講談社プラスアルファ新書

第1章 ヒトは「脳」から離れられない
 なぜ、という問い
 因果関係を知る乳児 ほか
第2章 脳科学氾濫の系譜
 デカルト
 ガルの骨相学 ほか
第3章 前頭葉ブーム
 前頭葉ブームの火付け役
 音読、計算と前頭葉機能 ほか
第4章 脳科学の到達点と限界
 脳機能イメージング法に内在する問題点
 血流が増えることの意味は? ほか
第5章 脳機能イメージングで何が分かるか
 研究成果の誇大表示の背景
 臨床医学と脳機能イメージング ほか


最近の脳科学は、ある意味現代の新宗教みたいなもてはやされ方で、以前私が支持していた茂木健一郎氏あたりもその「教祖様のひとり」みたいになってしまって幻滅を禁じえないのですが、本書はそういった「安易な脳科学ブームを批判的に検証した本」だといえます。

その主張を乱暴にまとめるなら、「昨今、広く一般的に語られるような意味での『脳科学ブーム』『脳トレブーム』の類は、すでに過去の遺物となったガルの骨相学が装いを変えてよみがえったようなところがあり、科学的妥当性に乏しいものが多いので、眉につばをつけて受け止めましょう。脳科学にはまだまだ乗り越えるべき壁があるのです」ということになるでしょう。

現在の脳科学ブームでは、語るまでもない前提として「脳機能局在」仮説がおかれていることが多いようです。
つまり、「左脳は言語脳で右脳は芸術脳」といったものに始まって、「意識の座は前頭前野にある」とか「海馬は眠らない」といったように、脳の特定の領域が特定の認知機能を担っていて、それを意識したりそこに働きかけることで「脳を理解しコントロールしよう」といった考えかたが、「脳科学ブーム」の根底にはあると考えられます。

著者がまっさきに批判しているのは、このような安易な脳機能局在論と、そこからさらに展開されがちな、もはや占いに近いような「トンデモ脳理論」です。

たとえば、第2章で触れられている「ちょっと昔の脳ブーム」の例として、「脳内革命」と「唯脳論」、さらに「ゲーム脳の恐怖」がとりあげられています。なかでも、「脳内革命」と「ゲーム脳の恐怖」については、脳科学的見地からおかしなところがたくさんあることが指摘されており、これについてはまったくの同感です。

そして、これらの本が書かれた時代にはまだ十分に実用化されていなかった(「ゲーム脳」については、使えるはずなのに利用しなかったというのが正しいようですが)新しい技術として、第3章以降ではいよいよ「脳機能イメージング技術」を使った新しい脳研究の姿と、そこから出てきた新たな装いの「脳科学ブーム」について語られていきます。

脳機能イメージング技術というのは、CTやPET、MRI(さらに発展形としてのfMRI)のように、脳のなかを流れる血流の量を測定して、それを画像化する技術のことで、脳科学で応用される場合には、「被験者になにか作業をやらせて、そのときの脳の各部位の血流量の変化を調べる」といったことを行ないます。

ここでは、DSソフトでも話題になった、川島隆太氏の「(大人の)脳トレ」についても批判的にとりあげられています。
川島氏の研究結果と、「脳トレ」とのつながりは簡単にまとめるとこういうことになります。

1)被験者に音読と単純計算をさせると、脳の前頭葉の血流が増大することが分かった。
2)前頭葉の機能低下が想定される認知症の人に、音読と単純計算をさせると、認知機能の低下が抑制された。
3)認知症でない一般の人が音読や単純計算をすれば、認知機能を高めたり老化予防になったりするだろう。


榊原氏は、このうち、2)→3)については明らかに論理の飛躍があるほか、実は2)についても、実験の統制に失敗している可能性を指摘します。つまり、2)で認知機能の低下が抑制された理由は、音読や単純計算をさせたことではなく、そういったトレーニングに参加することで実験者や介護者とのコミュニケーションが増えたことにあるのではないか、というわけです。

さらに、この1)から3)の論理の背後にあるもっと大きな仮説である、「血流量の増大=その脳部位の活発化を意味する」という考えかたも、厳密には「突込みどころ満載」だということが指摘されています。

もちろん、こういった研究をしている研究者の大部分は、そういった自らが使っている技法の限界をふまえつつ誠実な研究をしているわけですが、「野心的な一部の研究者」や「専門外の人が勝手に応用するケース」では、そういった「限界」をこえて、科学的には妥当だと思われないようなことが主張されることがあるわけです。
さらに不幸なことは、一般の人が目にしたりブームの対象になるような「脳科学」は、往々にして、そういう「本来の限界の外側にある、ちょっとおかしなもの」であったりします

著者が書きたかったポイントの1つは、まさに上記のような意味での脳科学ブームへの警鐘と、本来の脳科学の現時点での到達点(限界)の解説にあると言えます。そしてその目的は、著者の分かりやすい語り口のおかげで成功しているといっていいでしょう。

さて、本書のもう1つの(そして、当ブログで紹介する理由としては最も大きな)ポイントは、榊原氏が発達障害を専門とする臨床医でもあることから推測されるとおり、「発達障害と脳科学」について、現時点での到達点と限界が、わかりやすくかつ率直に書かれているという点にあります。
自閉症を含む発達障害については、第4章までの「脳科学のこれまでの流れの批判的検証」でも何度かとりあげられていますが、第5章の最後、171ページから185ページまで(初版)では、約15ページにわたって、「脳機能イメージング研究から明らかになった発達障害と脳機能についての知見」がかなりのボリュームでとりあげられています。



ここを読んで分かることは、以下のとおりです。

・発達障害では、脳の働きに健常者とは異なるパターンが見つかっており、「発達障害は脳の器質的な違いと関係がある」ことはほぼ間違いがない。つまり、「自閉症は育て方が悪いせいだ」はほぼ間違いであることが確認されているということ。

・その一方で、治療や予防、療育に役立つようなレベルで何かがわかっているのかといえば、とてもそうとは言えない。そしてその限界は、かなりの部分、脳機能イメージング法という研究技法の限界にもあり、当面、このアプローチから発達障害の医学的介入に関して劇的な成果が生まれる可能性は高くないだろうということ。


つまり、発達障害が脳の障害でありそうだという確認はできたけど、現状はまだその段階で止まっていてその先に進むのはなかなか大変そうですよ、ということですね。

脳科学についてたくさんの本を読みまくっているような人には(新書ですから)物足りなさを感じるかもしれませんが、「最近注目されている脳科学ってどんなもので、それが自閉症(や発達障害)にどんな貢献をもたらしてくれるんだろう?」といった素朴な関心に、良心的に応えてくれるいい本だと思います。(リンク先のAmazonの書評はちょっと持ち上げすぎのような気もしますが)

着飾らない「脳科学入門」としてもなかなかの内容で、おすすめできます。


p.s.脳についてちょっと知りたい、というニーズに応えてくれる好著としては、過去にもこんなものを紹介しています。

ゆらぐ脳(池谷裕二)
脳研究の最前線(編:編集:理研脳科学総合研究センター)

また、私が提唱している「一般化障害仮説」につながる、ジェフ・ホーキンス氏の脳科学の本は、こちらになります。

考える脳 考えるコンピューター(ジェフ・ホーキンス)

posted by そらパパ at 22:34 はてなブックマーク | コメント(4) | トラックバック(0) | 理論・知見
この記事へのコメント
・発達障害では、脳の働きに健常者とは異なるパターンが見つかっており、「発達障害は脳の器質的な違いと関係がある」ことはほぼ間違いがない。つまり、「自閉症は育て方が悪いせいだ」はほぼ間違いであることが確認されているということ。

ここは、自分には論理の飛躍があるように思うところです。というのは、器質的な違いが育て方によっては生じない、ということを論証しなければならないと思うからです。

一卵性双生児のうち1人が自閉症であればもう1人も自閉症の確率は極めて高いものの100%ではないということを踏まえると、遺伝子要因が100%ではない、つまり環境要因も自閉症の原因足りうるということにならないでしょうか。
Posted by はじめ at 2009年04月03日 22:29
はじめさん、

コメントありがとうございます。

まあ、そこに書いているのは私の読み取りであって、榊原氏が書いているのはもう少し控えめで「自閉症という障害(行動特性)の背後には神経的基盤があることが確認されたのだ」といった言い方になっていますね。

ただ、自閉症という障害がたった2歳程度でそれなりに顕著な行動の違いとして現れることと、2歳程度までの間の「育てかた」で、そこまで子どもの脳に顕著な影響を与えることはほとんど考えられないこと(もちろん、杉山先生が書いているような激烈な虐待をした場合は別かもしれませんが)、そして自閉症児の脳に器質的な異変が多数見つかること、これらを総合的に考え合わせれば、「自閉症は育て方によってなるのではない」と結論することには相当高い妥当性があると考えています。

ここで書きたかったのは、「環境要因」と「遺伝要因」に分けるというよりは、「コントローラブルな要因」と「アンコントローラブルな要因」に分ける視点で、「育てかた」とはつまり、「コントローラブルな要因」を指していると考えていただければいいかな、と思います。
Posted by そらパパ at 2009年04月04日 00:08
お久しぶりです。脳の働き…メカニズム、いつものように難しいことは語れない鈴蘭ではありすが…胎児の頃から…狭いお母さんの子宮の中で手や足など触れることで少しずつ脳が発達し…生まれてからも今度は目も使い、触れる、見る、嗅ぐなどを使い発達するのはすごいことですね。脳の機能は果てしない宇宙みたいだし…回復力もまたすごいですね。私も少しお勉強をしたいと思います。
Posted by 鈴蘭 at 2009年04月04日 17:15
鈴蘭さん、

コメントありがとうございます。

ご指摘のとおり、

・脳は外界とかかわっていくことで、外界とのかかわりかたを学習する、まさにそのための器官です。

・その能力は、私たちの想像を絶するわけですが、逆にいえば、脳をもっている私たちが脳について考えることができるのも、またとても不思議なことです。

・ダメージを受けたときの回復力、新しい刺激に対する可塑性、子どもから大人への発達の力、どれも脳の力はすごいなあ、と思います。

ですね。
この本は、脳科学がいまどのくらいのことを解明できているのかを分かりやすく解説してくれるので、なかなかいい本だと思います。

Posted by そらパパ at 2009年04月05日 21:42


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