最近、それほどブックレビューは書いていませんが、本そのものはたくさん買って読んでいます。
自閉症に直接関連した本ばかりということはなく、最近は特に哲学系の本を多く読んでいます。でも、哲学の本は自閉症への問題意識を出発点にして読んでいるので、私のなかではやはりこれらも「自閉症にかかわる本」だったりします。
今回は、そんな最近買った本(読了していないものがほとんどです)を簡単に「非定例記事」(月曜ではない記事という意味)扱いでご紹介してみたいと思います。
この中のいくつかの本は、将来、ちゃんとレビューするかもしれません。
自分で考えてみる哲学
著:ブレンダン・ウィルソン
東京大学出版会
哲学の入門書には、古今東西のいろいろな哲学者の思想を断片的にダラダラと紹介するものが多いですが、私としてはそういう本は真の意味で「哲学入門」にはならないと思っています。なぜなら、哲学を学ぶことは、知識とか理論とかを身に付けることではなくて、「自分の視点をもつこと」、もっと言うと「自分の視点をつくること」だと思うから。
だから、私たちが当たり前だと思いがちなことに潜むさまざまな謎や矛盾、定義できないことなどをしっかり見せつけてくれて、「考えるきっかけ」「自分の視点をつくるためのヒント」を提供してくれる本こそが、「哲学の入門書」たりえるんだと思っています。
そういった意味での哲学入門書の傑作としては、野矢茂樹氏の「哲学の謎」(講談社現代新書)を以前紹介しましたが、この本は同じ方向性で、さらに「多彩な謎」を提供してくれているように思います。
「哲学の謎」を読んで面白いと感じて、もう少し掘り下げた本を読みたいなら、絶対のおすすめです。文章は平易ですが、語られている「謎」はとても深いです。
プラトン入門
著:竹田 青嗣
ちくま新書
プラトン―哲学者とは何か
著:納富 信留
日本放送出版協会
アリストテレス―何が人間の行為を説明するのか?
著:高橋 久一郎
日本放送出版協会
いま、自閉症と関連して、プラトンの哲学に少し興味をもっています。
というのは、プラトンがいうところの「イデア」というのは、まさに自閉症児者が獲得できない形而上的な世界観とイコールなんじゃないか(言い換えると、一般化障害仮説で障害されていると考える、雑多な経験が一般化されて得られる「一般化されたルール、プロトタイプについての知」こそが、プラトンのいう「イデア」なんじゃないか)というひらめきがあって、それを検証してみようと思っているからです。
哲学は(も)素人なので、原著ではなく入門書をいくつも読むような勉強のしかたになってしまいますが、なかなか面白いですね。ちなみにアリストテレスはプラトンの弟子にあたります。
ウィトゲンシュタイン入門
著:永井 均
ちくま新書
そんなわけで、哲学っていうのは「私とはなんだろう」「他人とはなんだろう」「心とはなんだろう」「時間とはなんだろう」といったことを考えたりする(もちろんそれだけではありませんが)行為ですが、そもそもそんなことは無意味だ、というのが、オーストリアの著名な哲学者ウィトゲンシュタインの立場です(ということのようです。まだ私も勉強中です)。
ある種の概念的思考と言語は間違いなく密接に相互依存していて、どちらか一方の存在なしにもう一方は存在し得ないように思われますし、自閉症という障害がまさにその部分に問題を抱えていることを考えると、ウィトゲンシュタインをとおして見えてくる(であろう)「ことばと世界との関係」について知ることも、自閉症を理解するためのヒントになりそうな気がしています。
なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか
著:スーザン・A. クランシー
ハヤカワ文庫NF
自閉症でいえば代替療法とか七田式とかともつながるような、トンデモ理論に関連する本。
アメリカでは広く「アブダクション」なる体験が語られます。これは、自分が宇宙人に誘拐されたという体験のことで、これを信じているアメリカ人は大勢いるそうです。
この本は、心理学の研究者が、そういうアブダクション体験という、ありえないような誤った「記憶」なり「信念」がどのようなプロセスで形成されていくのかについて、実際にアブダクション経験をしたと主張する人々を取材して研究したものです。
トンデモ系の話題については、正しいとか間違っているといった議論にとどまるのではなく、「なぜそんなトンデモを信じてしまうのか」という視点が、非常に大切だと思っています。そこには、ヒトの哀しくも興味深い認知の傾向、限界が存在します。
最近、このハヤカワのNF系の文庫のなかに、疑似科学に関する面白そうなノンフィクションがたくさんあることに気がついたので、少しずつ買って読んでいます。
新訂 自閉症の謎を解き明かす
著:ウタ フリス
東京書籍
はい、これはもちろん買いました。
自閉症の認知心理学的研究、ということでは外せない1冊であることは間違いないと思います。
・・・が、通勤中に読むには厚すぎです。
内容的にも、自閉症の認知心理学的研究の「可能性」というよりは「限界」を感じる側面の多かった(関連記事)初版に、やはり個人的にはあまり可能性を感じられない(関連記事)脳神経学的な新しい研究を追加したようなものになっているようで、ダンベル代わりに通勤電車に持ち込む決心がなかなかつきません。
自閉症に関連する認知心理学的研究を知るなら、むしろ先日レビューしたこちらのほうが、最初に手にするべき本なんじゃないかな?と個人的には感じています。さらに「もう1冊」ということであれば、買ってみてもいいと思います。厚さの割には良心的な値段ですし。
発達障がいの子どものための楽しい感覚・運動あそび―不器用、多動性、読み書き困難などに見られる感覚・運動課題の理解と支援に向けて
著:森田 安徳
明治図書
感覚統合訓練の実践メニュー集です。詳細な目次はこちら。
ボールプールとかブランコといったいろいろな機材が必要なメニューが多いので、必ずしも家庭で実践するための本としてはそのまま使えるわけではないのですが、私がいつも言っていて(関連記事)、拙著でも書いているような「環境とのかかわりのきっかけを作るための、最初期の療育」の、具体的なアイデアがたくさん掲載されているように感じたので、自分自身の参考資料として買ってみました。
我が家の場合、子どもが正式に感覚統合の療育を受けたということはありませんので、こういう本はとても参考になって便利だと感じました。
今月新刊の、子どもの精神病性障害―統合失調症と双極性障害を中心に (子どもの心の診療シリーズ 8) (子どもの心の診療シリーズ 8) (単行本)
松本 英夫 (著), 飯田 順三 (著) 3990円
が気になっていますが・・値段が高いので、購入を迷っているのですが、この値段を出しても読む価値がありますか?なんとなく、精神病と自閉症って繋がりがどこかにあるのかなって・・無知でしたら申し訳ありません。。
すみません・・たくさん本を読んで理解されている方なので、意見を聞きたくなりました。
コメントありがとうございます。
ちなみにご提示いただいた本ですが、個人的にはおすすめしません。
出版社の内容紹介ではこう書いてあります。
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子どもの内因性精神障害のうち、統合失調症と双極性障害にフォーカスを絞る.臨床現場でも大いに注目される発達障害を視野に入れた診療の実際を提示する.統合失調症では、進展著しい生物学的研究と精神分析という力動的観点から迫り,成人に対する知見も盛り込みながら,現時点での診療の到達点と今後の課題を明示した。双極性障害では、近年とみに進歩が著しい薬物療法についても詳述する.
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発達障害を、「精神分析的=力動的視点も交えて、統合失調症との関連でとらえる」というのは、はるか昔に唱えられたものの、適切な働きかけにつながらないとして絶滅したはずの考えかたですが、最近なぜかゾンビのように一部で力を盛り返しているようです。
こういった本は、百歩譲って、「臨床者にとっての『臨床の知』」としてまったく意味がないとは断言しませんが、少なくとも、親としての「自閉症を理解しよう」「子どものことをもっとよく知りたい」というニーズには応えるものではないと考えたほうがいいと思います。以下の記事も参照ください。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/88946904.html
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/107620702.html