多くの方がご存知のとおり、TEACCHの療育ノウハウで最も特徴的かつ効果的なものが、いわゆる「構造化」と呼ばれる環境の操作です。これには、次のような働きかけが含まれます。
1. 空間の構造化
2. 時間の構造化
3. 作業の構造化
4. 手順の構造化
5. 視覚化
「空間の構造化」とは、教室や生活空間を物理的に仕切って色分けしたり、1つの場所を1つの目的にしか使わないようにして、「どの場所は何をするところか」を分かりやすくすることです。
「時間の構造化」とは、スケジュールを事前に提示し、現在どの位置にいるのかが常に分かるようにする、あるいはタイマーなどを使って、現在の作業がどのくらい続き、次にどんなことがあって、「終わり」はいつ来るのかといった「時間に対する見通し」を分かりやすくすることです。
「作業の構造化」とは、いわゆるワークシステムと呼ばれているもので、作業課題を行なう際に、どんな作業をどのくらいやって、終わったら何ができるかといった情報を分かりやすく提示することで、作業に自発的に取り組める環境を作ることです。また、作業自体を分かりやすく構成することも含まれます。
「手順の構造化」とは、1つ1つの作業の進め方や複数の作業の「流れ」を、例えば左から右に、上から下に、道具を出して作業をして道具をしまう、といったように、同じパターンで繰り返し覚えられるような分かりやすい順序にすることです。
そして、「視覚化」とは、耳で聞くよりも目で見るほうが分かりやすい(視覚優位)という自閉症児の特性をふまえ、あらゆる情報を目で見て分かるようにすることを指します。例えば、スケジュールを図示する、作業の流れを絵で上から下に表示する、話しことばではなく絵カードによるコミュニケーションを教えるといったことです。
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TEACCHにおいて、話しことばを教えることの優先順位は高くありません。療育の目標は「ことばを話すこと」ではなく、コミュニケーション能力を高めることです。
話しことはば抽象化された記号であり、かつ、耳から入ってきてすぐ消えてしまうという、自閉症児にとって扱いにくい性質を持っています。障害が軽くない子どもに無理に話しことばを教えようとはせず、文字や絵カードのような「視覚化」された手段も必要であれば活用し、自分の意志を相手に伝えるという、コミュニケーションそのもののトレーニングを目指します。
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TEACCHのユニークな着眼点として、家事活動・余暇活動の重視があげられます。
基本的な家事(新聞を取りに行く、カーテンの開け閉め、掃除など)を家庭で毎日規則正しくやっている自閉症児は、これらを喜んでこなし、情緒も安定し、社会適応もよい傾向があります。そのため、TEACCHでは幼児期・児童期から簡単な家事の手伝いをさせることを勧めています。
また、自閉症児にとって「自由時間」は、すべきことや「終わり」が分からず、見通しが立たない極めて不安な時間になりがちです。自閉症児はその不安を解消するために、パニックや自傷、自己刺激などの不適切行動にふけるようになります。
そこで、自由時間への不安を軽減し自発的に過ごせるよう、余暇活動の習得のための働きかけを積極的に行ないます。手芸や絵画、ピアノや音楽・ビデオ鑑賞、ゲーム、運動などがポピュラーな余暇活動です。
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社会への参加についても、あくまでも自閉症児の側に立ちます。
障害の重い自閉症児を安易に統合教育に参加させることは、不安と混乱を引き起こすリスクが高いため、否定的です。そういったケースに対しては、分かりやすい「構造化された特殊な環境」を維持しながら、健常児との相互刺激という統合教育のメリットを享受するために、自閉症児の教室に健常児が訪問する「逆統合」の試みを進めています。
また、成人後の自閉症者が社会で自立できるよう、自閉症者の作業訓練とあわせて、地域社会に働きかけて自閉症者の受け入れ・サポート体制を整備するほか、自閉症者が独立して生活するグループホームのような取り組みも進めています。
これらの取り組みは、社会そのものの構造化と言うこともできるでしょう。個人で取り組むには無理な部分もありますが、TEACCHの理念を感じさせる部分です。
(次回に続きます。)