2006年01月09日

自閉症とマインド・ブラインドネス(ブックレビュー)

今回ご紹介するのは、認知心理学の世界から自閉症にアプローチしようとする場合、避けてとおれない「心の理論」に関する本です。



自閉症とマインド・ブラインドネス
著:サイモン バロン=コーエン
青土社


「心の理論」というのは、以前「心を生みだす脳のシステム」のレビューの際に少し触れましたが、一言で言えば、「他人に心(自意識)があると分かり、それを推測する脳の機能」のことをさします。これに関してもっとも有名な「誤信念問題」を例にとって、心の理論とはどういうものか簡単に説明したいと思います。

あなたはこんな劇を見ています。
サリーはぬいぐるみで遊んだあと、そのぬいぐるみをおもちゃ箱にしまい、ふたをして外出します。
そこにアンがやってきて、おもちゃ箱からぬいぐるみを出してふたをし、ぬいぐるみをタンスに隠してしまいます。
その後、サリーが戻ってきてぬいぐるみで遊ぼうとしました。
さて、サリーはどこを探すでしょう?


言うまでもありませんが、正解は「おもちゃ箱の中」です。
劇をみている「あなた」は、事態の一部始終を見ていますが、サリーはぬいぐるみがタンスに移動したことを「知らないはず」です。つまり、自分が知っている・考えていることと、他人が知っている・考えていることは違う、ということが理解でき、さらに他人が考えているであろうことを推理できる、つまり「心の理論」が正しく働くようになって初めて、この問題に正しく答えることができるのです。

一般の子どもの場合、3歳では「タンスの中」と誤答することが多いのに対して、大体4歳になると「おもちゃ箱の中」と正しく答えられるようになるそうです。ところが、自閉症児の場合、他の発達課題と比較しても、誤信念問題だけが正答率が著しく低いという驚くべき研究結果が発表されました。その研究を行なったのが、本書の著者であるコーエンなのです。

コーエンの理論を一言で言えば、「自閉症のさまざまな症状は、何らかの脳の障害により『心の理論』に関する能力が阻害されたことによって起こっているのだ」ということになります。
本書は、その理論を比較的古典的な情報処理認知心理学の枠組みで説明しようとする試みです。

「心の理論」が機能するための脳のシステムとして、コーエンは次のような4つのモジュールが脳の機能として存在すると仮定します。

ID・・・意図の検出器
EDD・・・視線の検出器
SAM・・・注意共有の仕組み
ToMM・・・心の理論の仕組み

それぞれについて説明しようとすると本書の中身を写すのと同じになってしまうので省略しますが、ちょっと見ただけでも、自閉症児の特徴と言われる「目が合わない」「指差しに注目できない」といった行動パターンを連想させるような名前が出てきているのが分かります。

そしてコーエンは、自閉症児はSAMとToMMの機能に著しい欠陥が見られ、それが自閉症児にとって「心の理論システム」が働くことをほとんど不可能にし、結果としてさまざまな症状が生まれてくるのだ、と主張します。

このような、自閉症に関する認知心理学からの理解は、療育プログラムを作る際に「直接」役に立つものでは必ずしもないかもしれません。たとえば、「自閉症児は心の理論に欠陥がある」と分かったとしても、じゃあ心の理論を使わずに会話を教えるとはどういうことなのか、コミュニケーションを育てるにはどうすればいいのか、すぐに答えが出るとは思えません。

しかし、こういった脳の障害に対する客観的な視点は、行動療法で安易に「普通の子どもと同じこと」を強要しようとすることや、障害の重い子どもを安易に統合教育に押し込むことの危険性を教えてくれるのではないか、と思います。
脳の機能にある意味「致命的な」欠陥があるとすれば、「普通と同じに」という視点ではなく、「その中でどうすれば子どもがもっとも幸せに生きられるか」という、より謙虚な視点が持てるはずです。それが、結果として、療育プログラムを正しい方向に導いていく力になるのではないでしょうか。

本書は決して易しく読める本ではありませんが、「心を生みだす脳のシステム」で「心の理論」に興味を持った方には、ぜひチャレンジしていただきたい本です。

※その他のブックレビューはこちら


posted by そらパパ at 21:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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