2006年01月16日

TEACCHを考える(5)

なぜTEACCH本には、具体的なカリキュラムが掲載されたノウハウ本が登場しにくいのでしょうか。
今回は行動療法と比較して、少し違う角度から考えてみたいと思います。

実はよく考えてみると、「行動療法」にしても、それ自体は療育の枠組みであり、療育者のためのメタプログラムでしかありません。しかし、その枠組みの上に、ロヴァース式の早期集中介入やその他のABAプログラムが存在し、自閉症児に向けた具体的な療育プログラムを紹介する一般向けの本もいくつも出版されています。
過去に紹介したものばかりですが、参考までに改めて掲載します。



これら以外にも、市販されているものではありませんが、「つみきBOOK」も日本では有名ですね。私は会員ではありませんが、以前非会員にも販売していた頃に参考のため購入しました。

これらの書籍は、一般の親御さんが読んでとりあえず始めてみる、といったことが可能なレベルまで噛み砕かれ、具体的に記述されています。
もちろんプロのアドバイスは受けるに越したことはありませんが、仮にそれがなくても、これらの本を読んでじっくり取り組めば、いつでも「家庭の行動療法」を開始することはできるわけです。

一方、TEACCHはどうでしょうか。

既に書いてきたとおり、少なくとも「一般向け」という範囲では、上記のような書籍に相当するTEACCH本はないと思われます。つまり、TEACCHに関しては、本を買うだけでは、プロのアドバイスを受けずに「家庭のTEACCH」を開始できるという現状にはない、と言わざるを得ないと思います。

なぜ、行動療法にはいくつも「一般向けハウツー本」が生まれているのに、TEACCHにはそういった本がないのでしょうか。これは、既に説明したような「TEACCHの理念」の問題もありますが、もしかするとそれ以上に大きな理由として、それぞれの療法の出自があるのではないかと思います。

行動療法(応用行動分析=ABA)は、比較的色のついていない学問です。スキナーという偉大な始祖は存在しますが、彼の理論は論文として明示され、オープンな科学として共有されています。
例えば私が、ABAの理論にしたがってマッチングカードの療育法を開発したとしても、スキナーや他のABAの研究者に気がねすることなく、「ABAに基づいて療育プログラムを作りました」と堂々と語ることができます。行動療法となどんなものなのかも、公にされている情報で十分に理解できます。ですから、私が行動療法の本を書くことだって(理屈の上では)可能なわけです。

その一方で、例えば私が本で読んだロヴァースの早期集中介入にアレンジを加えて「新しいロヴァース型早期集中介入プログラムを作りました」と言ったらどうでしょう。恐らく、「そんなものは早期集中介入ではない」「ロヴァース一派に失礼だ」「早期集中介入の本質が分かってない」、そういった批判を受けるのではないでしょうか。少なくとも私自身は、そういった批判を心配し、ロヴァースとか早期集中介入とかいった用語を使わずに、「オリジナルの療育法」として紹介する道を選ぶでしょう。

TEACCHについても、これと似た状況があると考えられます。
TEACCHは、それ自体が固有名詞のようなもので、ショプラー教授や(日本では)佐々木正美先生の名前を背負った「色のついた」療育プログラムです。そして、オープンな科学としての側面よりも、臨床的、属人的な側面が強いと言えます。
TEACCHという枠組みの「概念」については多くの方によって語られていますが、その詳細や具体的プログラムには明文化されていないノウハウも多く、少なくとも一般向けの書籍では多くは語られません。

このような状況は、部外者がTEACCHの枠組みを借用してオリジナルの療育ノウハウを開発し、「TEACCHです」と語ることを難しくします。そもそも、「TEACCHにおける具体的療育とは何か」が外からは必ずしも明確でないことから、「これは本当にTEACCHなのか」ということも、部外者には分かりにくくなっています。
これは、独自の行動療法を、部外者が「ロヴァース式です」と語るのが難しいのと同じ状況です。

ですから、前回、私は自分のチャレンジについて「そらまめ式TEACCH」などと大それた表現で書きましたが、もちろん実際には、本気でこのような名前を使おうというつもりはまったくありません
あくまでも、部外者としてTEACCHについて学び、その方向性を部外者なりに理解した範囲で応用し、独自の「そらまめ式療育」としてまとめていきたい、という意味です。

そして、上記のような理由から、前回書いたような「だれだれ式TEACCHプログラム」の易しい家庭向けノウハウ本が「本当に」世に出てくるとすれば、現に深くTEACCHに携わっている「TEACCHチーム」の中からしかあり得ない、ということになります。
ロヴァース式の早期集中介入が、ノウハウ本や効能本などが独占的に存在することによって実態以上に美化されているように感じる中、TEACCHプログラムのさらなる地位向上、社会的認知向上のために、そういったノウハウ本や効能本が果たす役割は非常に大きいと思うのですが・・・。

私自身も、TEACCHのプロの方がまとめた「どんな家庭にも容易に適用できる療育の基礎メニュー」というのを、(自分が大きな誤解をしていないことを確認するためにも)ぜひ見てみたいと思います。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 21:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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