何だかややこしい話になっていますので、もう少し噛み砕いて考えたいと思います。
「一般向け」と呼べる範囲で、TEACCHにおける取り組みについてもっとも具体的に記述されている本としては、以下のものがあげられるでしょう。
自閉症児のための絵で見る構造化―TEACCHビジュアル図鑑
著:佐々木 正美、画:宮原 一郎
学研ヒューマンケアブックス
この本には、TEACCHに取り組む施設や学校が、教室における環境をどう構造化しているかについて、絵で見て分かるように紹介されています。間に挿入されている、佐々木先生による構造化の重要性の解説にも納得させられ、とてもいい本だと思います。
これを見ていると、何となく、「TEACCHの療育プログラム」というのが明確に存在するようなイメージを受けますが、改めてじっくり読んでみると、やはり必ずしもそうは言えない、ということが分かってきます。
例えば、この本には実習の実例として、牛乳パックを使った工作指導について紹介されています。
教室の構造化のやり方や手順の細分化、子どもへの配慮などについて図で分かりやすく説明されていて、「牛乳パックを使った工作指導」をどんな風に進めればいいか、どんな部分に気を配るべきかを極めて具体的に理解できます。
でも、なぜ牛乳パックを使った工作指導をすることになったのか? 工作に取り組めるようなレベルに到達するためには、どんな療育のステップを踏んでいけばいいのか? そういった情報はまったくなく、突然、「牛乳パックを使った工作指導のやり方」だけが、ぽつんと解説されているのです。
これは、別にこの本のこの単元だけに限ったことではなく、TEACCHプログラムの実例紹介全般についていえることです。
前回ご紹介したビデオにも、課題に取り組む自閉症児と療育者の映像はたくさん出てくるのですが、それらの課題がどう体系づけられていて、どういう目的があって、どんな達成レベルを目指しているのか、そういった情報はまったく得られません。あくまで、具体的な療育プログラムはTEACCHスタッフとの面談のうえ、個別に決められることが前提となっているのだと思われます。
そして、どうしてもTEACCHの具体的なプログラムの組み方について知りたい、と考えると、いきなり下記のような専門書との格闘が求められます。明らかに「素人さんお断り」といった雰囲気です。
自閉症児の発達単元267―個別指導のアイデアと方法
編:E.ショプラー
岩崎学術出版社
自閉症のコミュニケーション指導法―評価・指導手続きと発達の確認
著:リンダ・R. ワトソン、エリック ショプラー、キャサリン ロード
岩崎学術出版社
しかも、たとえば「発達単元267」に記載されている課題は、自閉症児に対する臨床的なノウハウは感じられるものの、必ずしも体系だっているとは言えず、タイトルどおり「アイデア」集です。少なくとも、課題そのものの体系にはTEACCHの明確なオリジナリティは存在しないように思います。
これは、「絵で見る構造化」の本に見られるように、課題の「実施方法」に非常に明快なオリジナリティがあるのとは対照的です。
TEACCHとは、一義的には、療育者がどういった目的意識を持って実施すべき課題を選ぶのか、あるいは選んだ課題をどう実践していけば自閉症児が受け入れやすいか、そういった疑問に応える、いわば療育者にとっての「枠組み」=メタ療育プログラムなのだ、と思います。つまり、療育に対する基礎知識や経験がある「療育者」を、さらにステップアップさせるためのプログラムなのです。
私がまだ療育のイロハも分からない1年半前、TEACCH本を大量に読んだにも関わらず、娘のためのTEACCHに基づく療育プログラムを自分で作ることがどうしてもできなかった理由も、今にしてみれば分かります。
「療育者」ではなかった当時の私には、TEACCHが語っているような「療育のやり方=メタ療育」のノウハウ以前の問題として、「療育」そのもののノウハウがあまりにもなさすぎたのです。
(次回に続きます。)