2006年01月10日

TEACCHを考える(2)

久しぶりにTEACCHに触れた私が初めて気づいたこととは何なのか、何回かに分けて書いていきたいと思います。

前回も書いたとおり、TEACCHは具体的な療育手続きを記述することを拒む側面があります。「TEACCH本」は、具体的な療育方法が書いてあるようでいて、実はその部分にぽっかり穴が空いています。

娘の障害に気づいた直後の私は、前回紹介した「講座 自閉症療育ハンドブック」をはじめとして、何冊ものTEACCHに関する本を読みました。さらに、TEACCHに関するビデオも下記サイトから購入しました。

teacchvideo.gif
http://www.asahi-welfare.or.jp/guidebook.html
朝日新聞厚生文化事業団 書籍・ビデオ一覧

TEACCH関連のビデオが購入できる、恐らく日本で唯一のサイトです。私は「TEACCH」「親のためのTEACCHプログラム」「自閉症児の明日のために-TEACCHのねらいと考え方」の3本のビデオを購入しました。

しかし、これだけの情報に触れても、どうしても娘のための「TEACCHの療育プログラム」は自作できなかったのです。
なるほど、構造化した環境とか、ことばではなくコミュニケーション意欲に注目するとか、TEACCHが大切だと考える「概念」は分かりました。でも、じゃあ構造化して何をどういう順番で教えるの?とか、コミュニケーション意欲を伸ばすために何をどんな風にやっていけばいいの?といった疑問には、どの情報もほとんど答えてくれませんでした。
実は、ほとんど専門家用といえるPER-Rの発達テストや、6000円もする「自閉症児の発達単元267」という課題本まで買いましたが、それでも当時の私には、その結果を「療育プログラム」に結び付けることはできませんでした。

このときはまだ気づかなかったのです。TEACCHは、具体的な療育メニュー以外の部分にこそその本質がある、ということに。

それから1年半ほどがたちました。

その間に、娘に対する行政からの療育も週2回のペースで継続的に行なわれるようになり、家庭での療育も少しずつ形になってきました。認知力の向上トレーニングや毎日15分の行動療法トレーニングなど、いろいろな具体的な取り組みにチャレンジし、成功も失敗も含め、いろいろな経験をしました。
現在では、娘に対してどういった療育プログラムが考えられるか、少なくとも「どんな選択肢がありうるか」についてはかなりイメージすることができるようになりましたし、娘の反応性も改善し、こちらの働きかけに対して、多くの場合、何らかの反応が見られるようになってきました。
一言でいえば、自分なりに、自閉症児(娘)の療育に対して、経験を積んで全体像がイメージできるようになってきたと言えます。

そして、そんな経験の上に立って、改めてTEACCHのメッセージに触れて気づいたこと。
それは、TEACCHとは、自閉症児に対する非常に深い配慮と愛情のもとに作られた、療育プログラムを作るための「箱」だ、ということです。これは、言い換えれば、TEACCHそれ自体は必ずしも具体的な療育メニューではない、ということでもあります。

TEACCHは、具体的な療育の仕方が分からず、そのノウハウを短絡的に求める人にとっては、漠然とした概念論ばかりが目立つ、空虚な理想論にしか映らないでしょう。
しかし、実際に療育に取り組み、経験を積んで、そしてその結果としてぶつかる「自閉症児の療育で、単なるスキルの習得の先に何を目指せばいいのかが分からなくなる」という問題に対して、TEACCHは明確な方向づけとゴールを示してくれます。
自分が持っている「部品」としての療育の知識・技術を、どんな風に組み立てて活用すれば、目の前にいる自閉症児を最も幸せにできるのか、そのチャレンジの進め方こそが、TEACCHであると思うのです。

よく、「TEACCHで使われている『技法』は実は行動療法だ」とか、「TEACCHは環境への働きかけを重視するあまり、能力開発面が弱い」とかいう論評を見ますが、本質を見誤っていると思います。
TEACCHにおいて、療育の具体的な「技法」は必ずしも特定されていないのです。
今後、自閉症児に対する画期的な療育「技法」が開発されれば、TEACCHチームは何の躊躇もなくそれを採用するでしょう。でもそれは、TEACCHの枠組みが変わったということではない、のだと思います。

TEACCHは、療育プログラムのプログラム、つまり、自閉症の「メタ療育プログラム」なのだ、というのが、私が気づいた、TEACCHの本質です。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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