2006年01月06日

TEACCHを考える(1)

これまで、行動療法と認知心理学(認知科学・脳科学)についてはずいぶん書いてきましたが、「そらまめ式」自閉症療育のバックグラウンドとなっているもう1つの理論、TEACCHについてはほとんど書いてきませんでした。

その1つの理由は、TEACCHというのが基礎定理から演繹的に導き出された理論ではなく、むしろ経験則を帰納的にまとめたノウハウの集積であること、さらには心構えとか価値観とか社会環境といった領域を相当程度含むものであり、一部を抜き出して「これがTEACCHです」と説明することがためらわれるものだということがあげられます。

しかしながら、娘が自閉症だと告げられて読んださまざまな書籍の中で、私が最も感銘を受け、強い影響を受けたのはTEACCHに関するものであり、現在に至っても、娘の、あるいはこのブログでまとめていこうとしている療育プログラムの中心にTEACCHの療育観があることは間違いありません。

先日、TEACCH本としては基本書と言える下記の本を改めて読みました。

TEACCH_book1.jpg

講座 自閉症療育ハンドブック―TEACCHプログラムに学ぶ
著:佐々木 正美
学研 障害児教育指導技術双書

本書は自閉症に関して私が最初に読んだ本の1つであり、娘の療育を進めるための原動力になった本です。読むのは今回でもう4回目くらいになると思います。
既に何度も読んだ本であるにも関わらず、約1年半ぶりに再読した本書の印象はとても鮮烈でした。

この1年半、娘の療育に悪戦苦闘し、自分なりの療育プログラムを組み立てていく「経験」の後に読んだ本書のメッセージは、以前とは比べものにならないほど、深く胸に届きました。
そして、ノースカロライナ州に住んでいない私たちがTEACCHプログラムとどう向き合うべきなのか、初めて分かった気がしたのです。

※ご存知だとは思いますが、TEACCHはアメリカのノースカロライナ州で州をあげて実践されている自閉症の療育プログラムです。

TEACCHは、自閉症に関する、恐らく現時点でほとんど唯一の「総合的な専門療法」でしょう。専門療法というのは、その障害に特化して、そのためだけに開発された療法、という意味で使っています。

例えば行動療法は自閉症に限らずどんな障害や問題に対しても応用が効く(動物にさえ使える)、極めて汎用性の高い療法ですが、逆にいえば自閉症固有の問題に対して特別な配慮を持つものではありません
「ロヴァースの早期集中介入」が自閉症の専門療法だ、という考えもあるかもしれませんが、これは明らかに「量」の独自性でしかなく、「質」について自閉症児への配慮があるとは思えません。

また、「太田ステージ」などの、自閉症児の認知の発達を掘り下げた療育プログラムもあるにはありますが、自閉症児の幼児期から成人後の自立までをトータルにケアするという意味での「総合」療育プログラムとまでは言えないように思います。

その一方で、TEACCHプログラムは、その専門性、個別性ゆえに、具体的な手続きとして記述されることを拒む傾向があります
TEACCHプログラムは、個々の子どもの発達状態や特性を専門家が評価し、個別プログラムを作ることで初めて具体化します。ゴールは明確ですが、そのゴールに至るルートはあえて概念のレベルで留められ、具体的な手順に落とされるのは実際の療育が始まってからです。

といったわけで、私たちがTEACCHプログラムの理念や成果に感銘を受け、いざ同じようなことをやろうとすると、TEACCH本には具体的な療育方法がほとんど書かれておらず、しかも子どもの状態を評価して個別プログラムを作ってくれるような施設も環境もない、だから結局何もできない、といったジレンマに陥ります。
その結果、TEACCH本に断片的に書かれている「構造化」や「絵カード」といった療育テクニック(あとはせいぜい個別評価)を採用することで「TEACCHやってます」とお茶を濁し、あるいは「TEACCHは実効性がない、日本ではできない」といった短絡的な結論を出してしまいがちです。

私自身、TEACCHに感銘を受け、「TEACCHに取り組んでいる」という病院を訪問して面談を受けた結果、「今は募集していません、いつになるか分かりません、やるとしても月に何度か来て短い療育を受けるだけです」と聞かされたときは、結局TEACCHがいくら素晴らしくても現実の娘の療育とは無縁なのか、とがっかりしました。
そして、「具体的で実践できる」療育方法として、行動療法の勉強や認知心理学をベースとした独自の療育方法の模索を始めたわけです。

でも、そういった「回り道」を通って、再びTEACCH本に戻ってきた私は、そこに書かれていることが全く違って見えることに初めて気づいたのです。

(次回に続きます。)
posted by そらパパ at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 理論・知見 | 更新情報をチェックする
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