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2009年01月05日 [ Mon ]

行動分析学マネジメント−人と組織を変える方法論(ブックレビュー)

「お父さん」だけでなく、「ABAを深く学びたい人」にもうってつけの好著です。


行動分析学マネジメント−人と組織を変える方法論
著:舞田 竜宣、杉山 尚子
日本経済新聞出版社
(Amazonが在庫切れのときは楽天ブックスもご利用ください)

序 章 今こそ組織・人材マネジメントに「行動の科学」を
第1章 褒めてやらねば、人は動かず―好子による強化と弱化
第2章 鬼の上司が会社を伸ばす?―嫌子による強化と弱化
第3章 ネガティブ社員はこう扱え―消去
第4章 活発な職場を取り戻す―復帰
第5章 上手な褒め方、無意味な褒め方―強化スケジュール
第6章 「頑張れ」というだけでは業績は上がらない―課題分析
第7章 ハイ・パフォーマンス集団の作り方―シェイピング
第8章 「勝ち味」を覚えさせよ―チェイニング
第9章 裏表のない組織を作る―刺激弁別
第10章 お互いの悪い癖を直す―プロンプト、代替行動
第11章 表彰制度はこう変えよ―好子の種類
第12章 フィードバックで新人を育てる―フィードバック
第13章 マンネリが組織を不活性化する―確立操作
第14章 過去の自分と決別する―自己強化と抹殺法
第15章 「苦手な顧客」の克服法―レスポンデント条件づけ
第16章 コンプライアンスを高める―ルール支配行動、トークン
終 章 伸び続ける会社を作る

当ブログ殿堂入りの「行動分析学入門」の著者の杉山尚子氏が、経営コンサルタントと組んでビジネス書を出しました。
しっかりした(スカスカでない)文字組みで300ページ以上ある単行本ですから、かなりのボリュームです。ですが、構成がしっかりしていて文体もこなれているだけでなく、本文の半分は仮想の会社「ノルウェー・モバイル」を舞台としたドキュメント風の仮想ケーススタディになっていますから読みやすく、ボリュームの割にどんどん読み進められます。
年末年始、それほど本を読む時間があったわけではなかったのですが、それでもこの本は読了することができました。

実はこの本は、ビジネス書の皮をかぶった「ABAの教科書」になっています。
一見、組織や人材の効果的なマネジメント法を幅広く取り扱ったよくあるビジネス書・・・のようにも見えるのですが、「隠された真の姿」は、行動分析学の応用の一例として、ビジネスという場面を取り扱いつつ(つまり、これも一種の「ABA=応用行動分析」になるわけですが、本書によるとこのジャンルは「パフォーマンス・マネジメント」と呼ばれているようです)、行動分析学理論の全体を概観する、「理論書」なのです。

つまり、まずビジネスの諸問題があって、それにABAの取り組みを当てはめるという構成ではなくて、強化、消去、課題分析、シェイピングといった、説明すべき「理論」を順に並べて、それに合わせる形で仮想のビジネス・ケーススタディが、多少口の悪い言い方でいえば「でっち上げられて」います(なので、ビジネス書としては、若干ご都合主義的に見える側面はあります)。ですから、この本で「組織マネジメントのすべてのエリア」がカバーされているかどうかは分かりませんが、逆に「ABAの基礎理論」はすべてカバーされています。それは、目次の構成を見ても明らかですね。

本書は「ABAの教科書」としてはかなり本格的なものになっており、レベル的にも中級クラス以上には達しているでしょう。
確立操作やレスポンデント条件づけ、ルール支配行動にまで言及しており、使われている用語も安易な言い換えのない「専門書仕様」になっているところからすると、その水準は以前ご紹介した「行動変容法入門」にも匹敵するものになっていると言えます。もちろん、個々のテーマに与えられたボリュームは大したことはありませんが、そこで取り上げられているのが「研究室での実験」ではなく「職場でのケーススタディ」という身近なものになっていること、さらには、これは恐らく一方の著者である舞田氏のノウハウが活かされているのだと思いますが、「確かにこのやり方なら使えるかも」と感じられるような「洗練された実践方法」が紹介されていることで、既存の本では得られない、「理論面での気づき」や「(療育等への)実践のアイデア」がたくさん得られる、「実用的・実践的なABAの理論書」になっている点が素晴らしいと思います。


 岩崎は、こうした村上の刺激弁別を「裏表のある性格」と呼ぶ。なぜ村上の性格に裏表があるかといえば、相手によって態度を変えるからである。このように考えると循環論に陥って、村上の行動を的確に説明できない。典型的な医学モデルによる行動観であり、個人攻撃の罠にはまっている。(中略)行動を説明する際に、強化や弱化、消去、刺激制御などの基本原理でより多くの事柄を説明できるなら、循環論を招くような「性格」といった余計な概念を持ち込む必要はない。
 枕が変わると眠れないという人がいる。自宅ではよく眠れるが、旅先では眠れないのだ。しかし、こういう人を二重人格とは呼ばないだろう。自宅と旅先、普段使っている枕と、ホテルの枕に対して刺激弁別が起こっていると説明すれば済む。村上の二面性も、旅先では眠れないことも、刺激弁別という一つの概念で説明可能な点で、二重人格という説明よりも優れているのである。

(初版192〜193ページより)

ですから本書は、ビジネスに携わる方だけでなく、自閉症の療育にかかわる親御さんや教育・福祉担当者の方が読んでも、得るところが大きいと思います。私も、本書でいろいろ勉強させてもらいました。

例えば、「プロンプト(手助け)はできるだけ早くフェイディング(減らしていく)しなければならない」というABAの「常識」がありますが、なぜそうなのかという理由が、自分の中では今ひとつ整理できていませんでした。
今回、本書の第10章を読んでいて、初めてその理由が「急いでフェイディングしないと、行動のトリガーとなる先行刺激が、本来のものではなくてそのプロンプトになってしまって『プロンプトしないと行動が始まらない』という学習が成立してしまうからだ」ということに気づきました。こんな風に、ABAの中の疑問が、ABAの用語で理解できると、頭のなかがとてもすっきりします。
こんなことは研究者の方には自明なのかもしれませんが、なかなかこういった細かい説明は本にも出てこないせいか、ほぼ独学でやってきた私は、本書で初めて明確に意識できたわけです。
このことを理解できると、よく言われる「ABAを不用意にやり続けていると『指示待ち』の子どもになってしまう」という問題がなぜ発生して、それを防止するためにはどんなことに気を配ってABAの療育をすすめていけばいいかということを理論的に考えることができるようになります。

また、課題分析とスモールステップの設定についても、本書では「営業マンが契約をとる」というケースを例に取り、この非常に複雑な手順を、まずは8つ程度のおおまかなスモールステップに分けて整理し、それぞれの営業マンごとに「問題のあるステップ」だけをさらに細かく分けて、何ができて何ができないのかを検討していく、というやり方が取り上げられています。
このやり方は、とても実用的、実践的ですね。
1つの手順に対して、いきなり何百といった非常に細かいスモールステップを考えようとするABAの本も少なくありませんが、家庭の療育でそこまでの手間をかけるのは多くの場合現実的でないように思います。でも、「まず全体をおおまかに分けて、その中で『うまくできないステップ』だけを詳細に分解する」というのなら十分実践に応用できます。
こんなことも、ぼんやりとは分かっていたのですが、本書のケーススタディがとても分かりやすく、「なるほど、効率的な課題分析とスモールステップの分け方ってこうやるんだ」と、今回初めて「実感として」納得できたように感じています。

このように、本書の内容は相当に高度ですが、「ビジネス書を読むことに慣れているお父さん」なら、ABAの前提知識がなくても十分読みこなすことができそうです。ですから、そういった方にとっては、「ゼロからいきなり高度なABAの知識と実践を身につけることができる『おいしい本』」になっていると思います。
そしてさらに、あらゆる「ABAを必要としている人(ビジネスマンに限りません)」にとっても、「2冊め、3冊めに読む本」として、理論面を深める格好の教科書になっています。(ちなみに「1冊め」のおすすめは、こちらこちらです。)

ようやく、この手の本で、本当に「決定版」と感じられる本が出ました。大量に売られるビジネス書ならではの1000円台という「割安な価格設定」も魅力です。
当ブログの趣旨から考えても、この本は殿堂入り決定です!

参考:当ブログで過去に紹介した類書

短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント 著:石田 淳
パフォーマンス・マネジメント 著:島宗 理
うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで 著:カレン・ブライア

その他のブックレビューはこちら

posted by そらパパ at 21:53 はてなブックマーク | コメント(2) | トラックバック(0) | 理論・知見
この記事へのコメント
そらパパさま

いつもありがとうございます。
せっかくの殿堂入りの本ですが、コメントがなさそうなので、コメントします。

個人の行動を変容する事にターゲットにするだけでなく、それが各職場のみんなをハッピーにするといった構成に感心し、一気に読めました。
そらパパさんが例にあげていた、営業の手順を課題分析する章や、表彰制度の章はあらゆる仕事に応用できる考え方で、ビジネス書としても参考になりました。

STとして、親御さんにバックワードチェイニングの指導を行う事も多いのですが、「「勝ち味」を覚えさせよ」みたいな言い方をしたら、よりこちらの思いが伝わるかも。
Posted by あやぱぱ at 2009年03月01日 07:14
あやぱぱさん、

コメントありがとうございます。

この本の内容は、実際に仕事にも使えると思います。ただ、ABA的な考えかたはかなりラディカルなので、自分の上司くらいとは共有できても、それよりもっと上の人にはなかなか通じないなあ、と感じることは多いですね。

ABAをビジネス的に語っているので、確かに逆に「流用」できそうな表現もありそうですね。
Posted by そらパパ at 2009年03月02日 18:36


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