そこで、ずいぶん期間が空いてしまいましたが、残りの部分について書いておきたいと思います。
パニックを一言で表現すれば、「不適切な要求行動」だといえます。
「パニックを抑える」という考え方は、「パニックは不適切な行動だからやめさせなければならない」という発想から生まれてくるもので、もちろんこれはこれで意味があります。
これまで書いてきたとおり、パニックを抑えるためには行動療法の「消去」というテクニックを使い、「パニックを起こしても無視する」という反応パターンを取ることになります。
また、「パニックを起こしたら慌てて対応してパニックをやめさせる」、あるいは「パニックを起こしたら罰を与える」という対応は、パニックを強化、もしくは望ましくない方向に変容させる可能性があるので、意識して行なわないようにしなければなりません。
でも、これだけではきっと、パニックを多少は減らせるかもしれませんが、十分なコントロールができるところまではいかないでしょうし、問題の根本的な解決にはなっていない、と思うのです。
もう一度、先ほどのパニックの定義を見てください。
パニックとは、「不適切な要求行動」です。
行動療法によりパニックを減らす働きかけだけを行なった場合、子どもがパニックで表現したかった「要求行動」は、一体どこへ行くのでしょうか?
子どもは、パニックが楽しくてやっているわけではありません。(もしそうだとしたら、それは「自己刺激」ですから、まったく違う対処方法が必要になります。)
何か要求があって、それを表現する方法としてパニックを起こしているわけですから、パニックだけに対応していては、パニックの問題を本当には解決できないのです。
ここでたとえ話を2つ書きます。
おもらしをする子どもに、「おもらしするな」と言って禁止しただけでは、「おしっこしたい」ときの対処方法がわからず、結局がまんできなくなってまたおもらししてしまうでしょう。おもらしという「不適切な行動」を減らすのと同時に、トイレで用を足すという「適切な行動」を教えることで、初めておもらしの問題を解決することができるのです。
あるいは、貧困ゆえに犯罪を犯してしまう若者をただ罰するだけでは、結局「まっとうに食っていく」ことができず、きっとまた犯罪を犯すほかなくなるでしょう。犯罪という「不適切な行動」を罰するのと同時に、貧困を解決し「適切な生産行動」ができるような各種政策を実施することが、真に有効な犯罪対策になるわけです。
パニックに対する対処もまったく同じです。パニックを抑える働きかけをするなら、パニック以外の「適切な」要求行動を伸ばす働きかけを同時に行なうことが絶対に必要なのです。
パニック以外の「適切な」要求行動とは何でしょうか。
ことばが出るお子さんであれば、ことばによる要求は適切な要求行動ですから、それを伸ばしていくことを考えます。
そこまで到達していないお子さんでも、例えば指差しやカードの提示ができるならそれを伸ばすことができますし、クレーン行動しかできないお子さんであっても、パニックに比べればクレーンは十分に「適切な」要求行動です。
クレーン行動(大人の手をつかんで目的物まで運んで要求をかなえようとする行動)を、自閉症の問題行動の1つとしてやみくもにやめさせようとする考え方があるようですが、クレーン以外の要求行動が発達していないのにクレーンをやめさせるのは、子どもにとって要求を表現する方法がなくなってしまう、非常に危険なやり方だと思います。
だって自分が同じ状態になったら、あとはパニックするしかないじゃないですか。
自閉症児の要求行動は、泣くだけから始まり、クレーン、指差し・手差し、ことばと、ゆっくりと発達していきます。それらすべては、その発達段階のお子さんにとって、「適切な」要求行動なのです。
それがどんなに周りの「普通の子」と比べて遅れていても、その要求に(応じるにせよ断るにせよ)そのつど応えていくのが大変であったとしても、そういった要求行動にちゃんと応えてあげて、「適切な要求行動」が強化され伸びていく環境を作らなければ、結果として適切な要求行動の発達を阻害し、パニックを奨励しているのと同じことになってしまうわけです。
なお、「適切な要求行動を伸ばす」やり方については、また機会をみて改めて考えてみたいと思います。
最後に、前回と一部かぶりますが、適切な要求行動を伸ばしパニックを抑制するための親の「反応パターン」を整理しておきます。
1.適切な要求行動があった時点で、応じるか応じないかを決める。
応じる場合はすぐに応じ、適切な要求行動を強化する。
2.応じないと決めた場合は、その後パニックが起こっても絶対に応じず、パニックを絶対に強化しない。
3.いきなりパニックで要求を開始した場合も、応じるか応じないかを決める。
応じる場合は、パニック中は無視を貫き、パニックが終わった後で応じるようにして、「パニックをやめる」という行動を強化するようにする。応じないと決めた場合は、パニック中もパニック後も何もしない。
確かに、パニックは放置しておくと危険な場合がありますね。
このあたりの話題は、ちょうど現在書いている最中の新しいパニックのシリーズ記事で触れようとしているところですが、私の1つの提案としては、「(できれば背後から)だまって体を拘束して、淡々と体を押さえ続けて、暴れるのが収まってきたらそっと離してほめてあげる」といったやり方です。
こちらのページでも少しだけ触れています。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/22523178.html
これは、いわゆる「抱っこ法」に似ていますが、拘束している最中は「愛情を注ぐ」ような行為はいっさい行なわず、一種の「無視」を続けるところがまったく違います。
決して万能な方法ではありませんが、多少なりともご参考になれば幸いです。
この夏に診断されて、勉強初歩でムスメの頻発するパニックにまだまだ翻弄されています。
思うようにならないことに対してすぐにパニック。そうなっているときは抱っこなんてもってのほか…。ただ治まったとき、ムスメは抱きしめて欲しい(という表情で)わたしのところへやってきます。そこでわたしの問題です。そのムスメを抱きしめてあげられないんです。本当~にわたしも辛い。どうしてわたしはそうやってくるムスメを抱いてあげられないんだ、と。ムスメのことは、もちろんかわいい、愛していると思います。ただスキンシップが苦手なんです。わたしがここで抱いてあげられたら、ムスメはどんなにか安心するのだろうかという思いばかりで、さらりと逃げてしまう自分に嫌悪します。
何か違った形でムスメの気持ちを受け取ってあげたいと思いますが、なかなかいい方法に辿りつけずにおります。
これってやはりわたしに何か問題があるのかなぁ…とも思ったり。
少しずつですが勉強を重ねていかなければな、と思っています。
状況がよく分からないのでなんとも言えないのですが、パニックへの対応は、やはりABA的な「機能分析」が一番大切なんじゃないかな、と思います。
・なぜパニックしているのか。(パニックによって「手に入れているもの」はないか)
・パニックが終わったのなら、なぜ終わったのか。
というところを考えるところから始まると思います。
理解が深まることで、感情的にならずに済む場面も増えてくるのではないでしょうか。
パニックの理解ということに関して、そらパパさんのお考えをお聞かせください。私の息子は5歳で自閉性・精神遅滞とも中程度というところなのですが、本格的なパニックは勿論、ちょっとしたパニック(言うことや行動がおかしくなる)でも、たいてい恐怖(?)のような普通ではない感情の動きを伴っているように見えます。これは「認知の仕方が普通でない」とか「欲求を表出できないので」とかとは別の次元で、情動面の困難さがあるように見えます。息子は、ちょっときつい言い方で指示されることにも敏感で、ちょっとしたパニックになります。私は息子しか知りませんので一般化はできないかもしれませんが、情動面の困難さは自閉症の本質にかなり近いところにあるのではないでしょうか。もし、自らの欲求がたいしたことではなくても(強烈に拒否されたわけでなくても)、感情が思わずあふれ出してしまってパニックになるような場合があるとしたら、周囲の者が行動分析だけを考えて対処できるものなのかという疑問があるのですが、そらパパさんのお考えはいかがですか?
実は最近になってやっと、そらパパさんの1冊目の著書を読ませていただきました。きっかけは、先日京都大学の十一先生の講演で自閉症の脳科学的な知見に触れたからです(扁桃体、海馬、小脳の異常などを話されていました)。そらパパさんの本は自閉症の理解に関わる重要な概念を幅広く、分かりやすく説明されていて素晴らしいと思いました。認知心理モデルを目指すことの重要性もわかりました。しかしただ1点、やはり「情動」に関して質問させてください。そらパパさんの立場は認知心理から療育のレベルに中心をおいていて必ずしも脳科学にまで深く入り込むものではないことは承知しているのですが、自閉症で異常が見られるとされる扁桃体が情動を基盤とした認知心理過程一般において非常に重要であることを考えると、そらパパさんの議論なり、「一般化障害仮説」(扁桃体の異常についてはこの仮説でも触れられていますね)に、自閉症の情動に関する議論が欠けているのが物足りなく感じました。お分かりかとは思いますが、ここでの情動とは単に「怒った」「つらい」「悲しい」とかいうことばかりではなく、認知心理過程、特に対人的な認知心理過程の基盤としての情動機能です。このことと「一般化障害仮説」との関係はどのようになるか、お考えを教えていただければうれしいです。理論から療育にまでをつなげるそらパパさんの姿勢に共感するからこそ、この部分をお聞き(議論?)したいです。ちなみに私自身は、神経科学、生理学の研究者(動物実験)なのですが自閉症や高次脳機能は対象にしていません。単に自閉児の父親としての質問です。どうぞよろしくお願いします。
P.S. こんな忙しい時期にすみません。お返事を急がれなくても結構です。
コメントありがとうございます。
重要な問題意識だと思います。内容の濃いフィードバックをいただき嬉しく思います。
ご質問に対するお答えを書いていたら、十分に1つの記事になりそうなボリュームになってしまったので、ご回答は来週月曜日の記事の形でさせていただきたいと思います。
(回答の方向性がやや哲学的なものになりそうで、かずみさんの期待されているものとは若干ずれていると感じられるかもしれませんが、私としてはそれが「私の考えかた」の全体なので、ご了承いただければと思います。)
前半部分の質問に関しては、そらパパさんが書かれた記事への私の理解が足りませんでした。こちらのブログを見始めた頃に、記事「パニックを考える」を一度読んでいたのですが、膨大な知識に圧倒されて消化不良を起こしていたようです。読み直してみて自己解決したように思います。大変失礼致しました。
理解したことをまとめると、
「混乱」(私は情動によるパニックと言っていました。)に対しては、構造化等による環境改善を前提として、「逃げ場所」と「暴露法」による対処が考えられ、これらは広い意味の行動療法と言える。混乱があまりに強い時は投薬も考える。
以上です。
間違いがありましたら、ご指摘願います。
実用面での対応ということでは、私が考えていることは、まとめていただいたとおりです。
ただ、今回用意したお答えでは、その部分ではなく「そもそも情動ってなんだろう?」といった話題が中心になっていますので、予定どおり月曜日にアップするつもりでいます。
よろしくお願いします。
今も 17さいの 娘が大暴れ 対処法 たった一言でアドバイスないでしょうか?
けが しないことだけ考え ほっておく 気長に見守る それだけが最良と考えますが?
コメントありがとうございます。
たった一言で、という難しいご質問ですが、信頼できる医師の先生にご相談されてはいかがでしょうか。
家庭での取り組みで対処できる範囲と、薬物療法やその他のさまざまな外的支援に頼るべき範囲を切り分けること、それが何より有効なのではないだろうか、と感じました。
息子は小中学校の支援学級を出て、今は支援学校に在学中です。といっても、自閉症と診断されたのが、1年くらい前の話なのですが。
乳児期は夜泣きが激しい子で、車に載せてドライブすると、ピタ!っと泣きやみました。息子が「ちょっとちがうな」と感じはじめたのは、3歳児検診時に、言葉がでていなかったことです。その後、学童期には、友達をたたいてしまったりで、よく学校から指摘がありました。
小学5年生頃から、頻繁ではないのですが、いらだつ時は豹変して壁に穴をあけたり、ものを投げたり、時には私たち親になぐりかかったりもします。ただ、落ち着いた後は、「またやってしまった」と、自分を責めているようです。
最近は、力もついてきて、攻撃行動も激しさを増し、8月にはついに入院に至りました。ほぼ1週間は完全監護室で、その後少しずつ外に出る練習をし、約1カ月後には退院しました。入院中から、ジブレキサというお薬を7.5mg~1.0mg服用しはじめ、退院後3カ月ほどは非常に調子よく学校にも通い、家でもお手伝いをし、安心していたのですが、12月中旬ころ、学校の作業実習がうまくできなかったのがきっかけのようで、風邪をひいて体調も悪かったせいか、また大暴れし、入院となりました。
今回の入院は、主治医の勧めではなく、恐怖に慄いた家族の希望でのものでした。病院では、2週間ほどは他の入院患者さんから声をかけられるだけで興奮して院内を走りまわったり、でしたが、徐々に周りの環境にも慣れ、昨日は外泊して家族でゆっくり過ごしました。
が、今後、また同じようなことが起こり、最悪の場合、自傷、他傷など、取り返しのつかないことになるのでは、という不安があり、専門の施設に預ける方が周りの者も、本人にとってもよい選択かもしれないと、妻と相談しているところです。ただ、調子がよいときは、本当に穏やかな子で、私たちをいたわってくれますので、家でみてやりたい、というのは本音にあります。
8月のときも、今回も、きっかけから通常の生活に戻るまで、約1カ月かかり、きっかけから半月後に爆発するような経緯があります。
思春期であることも激しさを増す要因なのかな、と考えたりもしています。
このブログで、色々と書籍が紹介されていますが、私たちに今最もふさわしい書籍がありましたら、紹介していただけないでしょうか。
コメントありがとうございます。
息子さんのことで悩まれているとのこと、心中お察し申し上げます。
そのような厳しい状況について、素人である私ができるアドバイスは、残念ながらないと思います。
すでに実施されているかと思いますが、一定程度は薬物療法が避けられないとは思いますので、医師との連携がまず必要だと思います。
また、書籍ということでは、直接役に立つようなものはちょっと思い当たらないのですが、比較的自傷・他害について多くページが割かれていると感じている本としては、以下のものがあります。
http://soramame-shiki.seesaa.net/article/373748731.html
発達障害のある子のABAケーススタディ
直接役に立つものだとは思われませんが、もしわずかでもご参考になれば幸いです。
自閉症で重度知的障害の息子(小5)の母です。
「パニックを減らすために(①②③)」の記事、大変参考になりました。
私の子育てブログでこの記事を紹介したいのですが、お許しいただけるでしょうか?
ブログはこちらです。
→ http://blogs.yahoo.co.jp/daichan17111711
ただ今息子のパニック、他害等の対策に取り組もうとしているところです。
記事そのものを載せるのではなく、リンクのアドレスを貼る形にしたいのです。
急な申し出ですみません。
ご検討くださいませ。
コメントありがとうございます。
当ブログやそのエントリをご紹介いただいたり、リンクを張っていただくことについては、特に商用だったり特殊な目的でない限り、無断でやっていただいて構いません。
よろしくお願いします。
空パパさんブログと、本を読んで勉強して行きます