このシリーズ記事では、絵カードを使った療育法として、
・要求のコミュニケーション
・スケジュール
この2点に絞り込んで、私自身が娘への療育のなかで試行錯誤して得た経験をベースに、どちらかというと障害の重いお子さんをより強く意識した、シンプルで効果の期待できる絵カード療育法をまとめていきたいと思います。
なお、この療育法は、絵カードは使っていますが、PECSではありません。
単純に、一般的な絵カードの使用法をまとめただけのものであり、名称も便宜的につけただけであって、「誰のもの」でもないと理解しています。
この点を最初に明記するのは理由があります。
当ブログではかねがね、「現在の自閉症療育の3本柱」として「ABA、TEACCH、PECS」を提唱してきましたが、最近、意識してこれを「ABA、TEACCH、絵カードによる療育(PECS等)」という表現に切り替えるようにしています。
というのも、最初の2つ(ABA、TEACCH)とPECSとでは、その名称の位置づけが微妙に異なっている点を整理して書いたほうがいいのではないか、と最近考えるようになっているからです。
ABAとTEACCHは一般名詞であり、「オーナー」はいません。(TEACCHは若干微妙ですが、少なくともTEACCHという用語とその内容について、誰かがオーナーシップを主張しているという話は聞いたことがありません。)
一方、PECSは、アンディ・ボンディ氏他の考案した特定の療育法を指す固有名詞としての性格が強く、彼らの設立した「ピラミッド教育コンサルタント」グループがオーナーということになっています。
ですから、「PECSのような療育」をABA、TEACCHと同じように「一般名詞」で表現するとすれば、それは「絵カードによる療育」といった言い方になるだろう、ということから、最近では上記のような表現を使うことを意識しているわけです。(古い記事の修正まではできていません。その点ご容赦願います。)
この違いは、単なる表現以外にも影響があります。
つまり、ABAやTEACCHについては自由に語り、自由に教えることができる一方、「PECS」については、例えばそれについて本や記事を書いたり、他人に教えたり、あるいは勉強会を開いたりすることについて一定の制約がかからざるをえない、ということです。
実際、PECSジャパン(ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン)のHPに行くと、以下のような「ご注意」がトップページに掲載されています。
ご注意:弊社は、米国ピラミッド社とライセンス契約を結び、それに基づくワークショップの開催等によって事業が成り立っています。また弊社は契約に基づいてPECSを正しく普及するためにトレーニングの質を維持する責任を負っています。弊社の関知しない所でのPECSやピラミッド教育法に関する不特定多数の人向けの講演、研修会等の開催は、ご遠慮ください。
このような方針をとることは、ビジネスとしてPECSを展開する以上やむをえないことだと思いますし、PECSというブランドを守るために必要だという議論も理解できます。ですから、私自身としても、PECSが目指している方向性を否定する気はありません。
ただ、絵カードを使って療育をすること、絵カードの作り方、絵カードを交換することでコミュニケーションを成り立たせること、絵カードでスケジュールを教えること、こういったことはどれもPECS以前、TEACCHの頃から試みられていたことであって、新奇性があるとはいえないと考えています。
そして、そういう新奇性のない、「一般的な絵カードの使い方」をベースにした療育法のまとめ的なものを作れば、「とりあえず絵カードを使ってみましょう」といった初歩的な勉強会などにも役立つのではないか、と考えました。
それが、今回紹介しようとしている「絵カード療育」です。
内容は一般的なものばかりですが、シンプルさを重視して、絵カードのサイズや手順などは、家庭の療育にとって便利だと思うやり方に「決め打ち」して紹介します。その「決め打ち」のやり方に一応名前をつけて「そらまめ式絵カード療育」と呼びたいと思いますが、だからといってこれを自分のアイデアだと主張しているものではまったくなく、内容そのものは「PUBLIC DOMAIN」的なものだと考えています。
繰り返しますが、これはPECSではありませんので、このシリーズ記事で紹介するやり方を「PECS」に関連するものとして紹介したり取り扱ったりすることは、多くの人に迷惑がかかりますので、絶対におやめください。
また、ここで紹介するやり方は内容を相当シンプルなものに限定しており、ある程度以上発達水準の高いお子さんには物足りない内容だと思われます。ここで紹介する内容を出発点にして、TEACCHの「絵カードによる視覚化・構造化」やPECSなど、さらに進んだ内容について、それぞれの療育法が是とする方法で勉強されることをおすすめします。
(次回に続きます。)
この連載を楽しみにしています。
コメントありがとうございます。
今回の連載は、理論的なことはほとんどなく、完全に実用的な療育マニュアルになる予定です。
1回目の記事がちょっと思わせぶりになってしまいましたが、絵カードをシンプルにやりとりしてコミュニケーションする療育法を、PECSから離れて誰もが気兼ねすることなく活用できるような形でまとめていこう、そういうシリーズ記事にしていくつもりです。
よろしくお願いします。
今回の、絵カードによる療育:その名称についての記事、本当にとてもありがたい内容でした。私は絵カードを使った支援と、PECSという存在について悩んだり迷ったりしていましたので、そらパパさんの記事を見て、スッキリしました。視覚的支援、特にカードによる要求表現の支援を考えたり、それについて情報交換を求めたりする際に、これまで、どうしても踏み込めない気分になっておりました。それは、PECSという存在をどう自分の中で理解すればよいか分からなかったからだと思います。私も、PECSの注意書きなど十分理解した上で、同士と絵カードについての情報交換をこれからも続けようと思いました。
コメントありがとうございます。
私も、「絵カードでコミュニケーションを教えることイコールPECSだ」という誤った認識が強くなることに懸念を感じています。
そうなってしまうと、ちょっとした勉強会を主催して、絵カード交換を教えたり、親御さん向けの啓蒙チラシを作ったりすることができるのは、PECSのセミナーを受けて所定の資格を取った人だけなのか、という議論になってしまいかねません。(そうなると私も何も教えることができないことになります)
そうではなくて、私たちが尊重しなければならないのは、「PECS」という名前をつけて絵カード交換を誰かに教えるのなら、PECSの「オーナー」の意向に従うべきである、ということのはずです。
記事でも書いているとおり、絵カード交換による療育それ自体には、特許をとれるほどの新奇性はないでしょう。
ですから、「PECS」と呼ばずに、一般的な絵カード交換療育を教えるのであれば、PECSに迷惑もかけず、逆にPECSに気兼ねをする必要もないだろう、と考えられるわけです。
このシリーズ記事では、そういう「絵カード療育」をまとめていきたいと考えています。
こんかいのシリーズ記事はそれほど大それたものにはならない予定ですが(^^;)、少しでも参考になれば幸いです。
療育関係は手当り次第に取り組み始めるとキリがないので、最近は納得しないと前に進めなくなってきています。息子自身、はじめに正しいやり方を教えないと修正に時間がかかる子なので、それも慎重さに拍車をかけています。
絵カードも、PECSど真ん中で取り組み始めてよいものか…もっと敷居の低いものはないだろうか…と模索中です。最近、息子が何かを要求する気持ちが爆発的に芽生えてきて、でも言葉が追いつかないので、いよいよ導入する時期だ、と頭ではわかっているのですが。ちなみに、いつかは役立つだろうと、民間療育先でPECS専用ファイルは購入済みです。
今回の記事が、私の背中を押してくださることを願いつつ。連作、楽しみにしています。
夫婦両方のブログをご覧いただいているようで、ありがとうございます。
ご期待に応えられるような記事にしたいと思いますが、書かれている内容をみると、「素直にPECS」でもいいかもしれないな、という風にも思います。
PECSは、フェーズの途中でやめても内容は破綻しませんから、フェーズ3で足踏みするならフェーズ3まで、4までなら4までといった風に、お子さんに合わせてどこまで進めるかを決めることができると思います。
シリーズ記事が終わるのは何か月か先になると思いますので(^^;)、「今ニーズがある」のであれば、PECSでスタートされてしまうほうがいいかもしれません。
ともあれ、よろしくお願いします。