2005年12月16日

睡眠障害を克服する

たまたま、妻のブログで寝不足の話が出ているようですので、関連する話題ということで睡眠障害について書いてみたいと思います。

以前も書いたとおり、日々の療育に追われながらも、家族が楽しく毎日を暮らし、家族のQOL(生活の質)を維持するためにもっとも大切なことの1つは、睡眠だと思っています。

毎日十分な睡眠が取れれば、いろいろな困難を乗り越えていけるだけの精神力も維持しやすくなりますし、気分も落ち着き、家の中の雰囲気も穏やかなものになると思います。逆に、睡眠時間が不十分だと、精神的に疲労困憊してしまい、子どもや家庭の将来についても後ろ向きに考えがちになるだけでなく、免疫力も落ちてしまい、病気さえかかりやすくなりかねません。

自閉症児に睡眠障害が多いというのはよく知られた事実ですが、それによって家族の睡眠がおびやかされているとすれば、他の課題やトレーニングよりも優先して、睡眠障害の克服に取り組んでもいいのではないかと思います。

理由は、大きく分けて3つあります。

第一に、これは繰り返しになりますが、睡眠時間を確保することは家族のQOLを維持するための最優先事項の1つだということ。
それによって生まれやすくなる、「明るく楽しい家庭」こそが、何よりも先に子どもに与えたいものだと言えるのではないでしょうか。

第二に、子どもにとっても睡眠時間の長さが脳の発達と関係があると考えられること。
睡眠とは、簡単に言えば、脳を休ませることです。ところが、最近の研究では、睡眠によって脳はただ休んでいるだけでなく、起きている間に学んだことを記憶として定着させるという活動を行なっていることが分かってきています。また、子どもの心身の発達に必要な成長ホルモンも、睡眠中に多く分泌されます。
我々は、療育によっていろいろなことを子どもに学習させようとしています。その学習を促進するのが睡眠だとすれば、あらゆる手を尽くして子どもによく眠ってもらうことも、大きな効果が期待できる療育プログラムの1つだと考えることができます。

参考リンク:http://www.in-time.jp/feel/colum02.html

第三に、親にとっても、睡眠を十分にとり、頭脳明晰な状態を維持することが、療育をすすめるにあたって必要だということ。
実際、行動療法のトレーニングをやってみると実感しますが、例え15分のトレーニングであっても、精神的にはかなり疲れます。こういった「知的な作業」である療育メニューを毎日きちんとこなしていくためにも、十分な睡眠は不可欠でしょう。

さて、睡眠障害を克服するための我が家の取り組みを簡単にまとめます。
うちの娘も、1歳前半くらいまでは睡眠障害が強くありました。夜は12時過ぎまで寝ないし、ちょっとした刺激ですぐ起きてしまい、夜中に何度も目覚めて泣いていました。我々、特に妻はかなり参っていました。
それでも、睡眠障害を克服するには近道はないだろう、ということで、王道だとは思いますが、こんなことをやりました。これが絶対ということはないと思いますが、参考になれば幸いです。

1) 規則正しい生活をさせる。
  朝、早朝に起きても寝室から出さず(寝室内で遊ばせておく)、遅くまで寝ている場合は泣いても起こすようにしました。また、昼寝が長すぎる場合はタイミングを見て起こし、夕方遅く以降は昼寝をさせないようにします(無理に起こしておく)。
  食事の時間などもできるだけ毎日同じ時刻にしました。
  夜なかなか寝なくても、朝いつもと同じ時間に起こし、長すぎる昼寝もさせないようにすると、その次の夜は比較的よく寝てくれるようになりました。

2) 運動させる。
  運動して疲れれば自然によく眠るようになるだろうと考えました。
  1日中家にいるという状況はできる限り避け、平日は近所を散歩させたり、休日は公園にでかけて走り回らせたり、ベビーカーにはできるだけ乗せないようにするといった工夫をしました。家の中にも運動のできるジムなどの遊具を、狭い家の中ですが何とか無理して置きました。

3) 感覚統合に取り組む。
  夜中に目がさめやすいのは、もしかすると音や皮膚の刺激などに過敏なためではないかと考え、感覚統合的な療育を重視しました。
  上記の「運動」とも関係しますが、子どもが怖がりすぎない範囲をうまく見極めながら、タカイタカイやバランス遊び、布を巻きつける遊びなどで一緒に遊んだり、ジムなどの体全体を使う遊具を置いたりしました。また、にぎやかなところも含め、いろいろな場所に出かけ、「日常の音や環境」に少しでも慣れてもらおうとしました。

4) 寝ている間の刺激を最小限にする。
  寝ている間はできるだけ子どもが起きてしまうような余計な刺激を与えないようにしました。
  子どもの寝室として静かな部屋を選んだのはもちろん、寒すぎたり暑すぎたりしないように寝室のエアコンもある程度ぜいたくに使い、さらに朝日で早く目がさめてしまわないよう、すべての窓に遮光カーテンをつけました。
  ちなみに、最後のアイデア(遮光カーテン)は、療育での家族面談で担当医から指摘され、絶大な効果があったものです。
  それまで、寝室は和室のため窓は障子張りで、カーテンはつけていませんでした。子どもが毎朝6時頃に起きてしまうことを相談したところ「朝そのくらいの時間から部屋が明るくなりませんか?」と聞かれ、なるほどと気づきました。障子の手前にさらに遮光カーテンをつけ、それを閉めて寝るようにしたところ、7時、8時まで平気で寝るようになり、子どもの機嫌もよくなりました
  同じ理由から、寝るときはできれば豆ランプなどをつけず、真っ暗にしたほうがいいと思います。うちの娘は、今は真っ暗になると気持ちの切り替えができるようで、多少寝るのをぐずっていても、あやしながら真っ暗にすると、程なく眠ってくれるようになっています。

5) 子どものサイクルに合わせる部分は合わせる。
  重い自閉症の子どもに対して、「普通」を強制しすぎないことも大切だと思います。社会が受け入れないような行動は管理しなければなりませんが、社会的に問題にならないこと、許容されることを無理に規制することは、「普通」とは異なる感覚、異なる特性をもった自閉症児にとって、大きな苦痛になる可能性もあります。
  睡眠についても同様で、家族が負担を感じない睡眠サイクルができれば、それが多少「普通」ではないとしても、それを受け入れ、維持していく方向に切り替えていいと思います。
  我が家の娘も、夜11時まではまず寝ません。昔は12時を回っていたのでそれよりは多少早くなりましたが、これも娘に強制して早くしたのではなく、自然とこの時間に落ち着いてきました。現状で家族も本人もうまく回っていますので、この状態を維持していくことが現在の目標です。例えばこれを9時にしようとか、そういうことは考えていません。
posted by そらパパ at 23:41| Comment(10) | TrackBack(1) | 実践プログラム | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
睡眠障害、ABA等で検索をしていてたどり着きました。

「まず睡眠の問題を優先させる」

諸手を挙げて賛成です!

最近は娘の睡眠時間も(前よりは)ましになってきたので私の状態もマシになってきましたが、私の睡眠時間がめちゃくちゃだったときは本当に療育どころではなかったです。「明るい家庭」からも程遠かったです。

もっと早く気づいていれば・・・。

貴サイトは、ものすごい量の情報量ですね。ゆっくり読ませていただきます!

Posted by ゆ~こ at 2010年10月15日 18:58
ゆ~こさん、

はじめまして。
コメントありがとうございます。

我が家では、睡眠問題は娘が0歳のときが一番ひどかったですね。
食事もとって、お風呂も入って、普通ならすーっと寝てくれるはずのところ、ほんのちょっとした音や刺激ですぐに目を覚ましてしまい、かなり悩まされました。

その頃はまだ娘の障害にも気づかず、「療育」というわけではなかったのですが、「この問題を解決することは家族の生活の質向上にとって重要だ」と考えて、いろいろと工夫をしました。

その後、娘の障害を知ってからは、なおさら娘と家族が質のいい睡眠をとれるよう、上記に書いたような形でさまざまな配慮を重ねてきました。

睡眠リズムを整えることは療育の最初の一歩だ、と今でも確信しています。

またお時間のあるときにお越しいただければ幸いです。よろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2010年10月17日 22:04
 3歳の自閉的傾向がある娘の母です。
(発語は良くありますので、アスペルガーよりですが、まだ確診はついていません)
 そうそう、寝ることは家族のQOLと、持続可能な療育のためにも大切よ!と、思って特にこの項を熱心に読みました。古い項ですが、万金の価値があると思います。
 遮光カーテン、小さな音・光も避ける、ホントだと思います。うちも気を付けています。効果あります。旦那は不満そうですが、旦那が寝付いたころに騒がれると怒るのは旦那ぢゃないですか!
 うちの子は、それに加えて、乾燥肌があり、痒さや暑さで寝付きづらくなるようです。大人がどう感じるかではなく、本人に任せて、極寒でも半裸で寝付かせたり、ワセリンを塗ってやったりして、寝付いてから毛布をかぶせてやりました。
 言葉によるイメージ作りができるので、あすの朝のメニューやおやつ(お昼寝の時)をゆっくり語ってやると、最近は眠れるようになりましたが、以前は、そういうイメージも作れなくって、かえって興奮しちゃっていたので、これは、成長に応じてですかね。
 で、最後の11時…に苦笑。ああ、うちの子の10時半(そらパパさんの工夫完璧実施して約3年間連日)は、まだましなんだ…。
 ちなみに今現在はいかがですか?
 次子が8月ごろ生まれる予定で、正直つわりで眠いんですけど、この子が9時に寝ることはありえない、と腹をくくっていれば、10時半の就寝にいちいち心が揺れません。でも、小学生高学年くらいになったら、なんて淡い期待は残しちゃってます。
Posted by しまなみ at 2012年03月19日 15:57
しまなみさん、

コメントありがとうございます。

睡眠とか外出とか、そういう「生活の根っこ」を療育の優先事項にすることが大切だ、ということは、このエントリを書いた頃も、そして今もまったく変わらず考えているところです。

ちなみに、現在は娘は9時過ぎには寝てくれるようになりました。
これも、特に無理をして「矯正」したわけではなくて、娘の成長のなかで、自然に変わっていったという感じですね。
今くらいの時間になったのは、就学の少し前くらいだったように記憶しています。
Posted by そらパパ at 2012年03月25日 23:57
はじめまして。先月末自閉症と診断された2才半の息子の母です。
自閉症について必死で勉強中です!そらぱぱの本も買わせて頂きました。
息子は生まれた時から睡眠障害がひどく、私も産後からうつ病とパニック障害です。色々と試しましたが、もう限界です。。。小さな子に薬をあげるなんて!副作用が怖い!!と思って今までがまんしてきました。いつか治ると思ってがんばってきました。最近は子供と二人で飛び降りる夢を見たりします。もう薬をあげるしかない。。。いや、あげたくない。。。。漢方なら大丈夫か?など、頭がぐちゃぐちゃです(ToT)
HACプログラムご存知でしたらご意見お願い致します。小児科医から紹介されました。
愛しい息子のために死ぬわけにはいきません。がんばります。
Posted by いっくんまま at 2012年04月19日 11:29
いっくんままさん、

はじめまして。
コメントありがとうございます。
また、拙著をお読みくださり、ありがとうございました。

いま、とても苦しい、辛いと感じてらっしゃると思います。
これまで考えていた家族のありかた、将来を見つめなおさなければならなくなるわけですから、そういったお気持ちになってしまうのも自然なことだと思います。

こういう精神状態のときには、なかなか客観的な判断ができないものです。
いま、「こうするしかない」みたいな気持ちにとらわれることがしばしばあると思います。
でも、そう思ったときには、ちょっと気持ちの緊張を緩めて、「もしかしたら、そうでもないんじゃないかな?」と意識して考えてみることをおすすめします。

そうして、ゆっくり、じっくりと前に進んでいけばいい。
そう思います。

薬については、信頼できる医師の処方であれば、闇雲に否定するものではないと思います。
それらの薬は自閉症そのものを治すものではなく、パニックなどの症状を抑える対症療法として出されるものですが、薬によって状態がよくなれば、お子さんも家族もよりよい時間をすごすことができ、療育ができてお子さんを伸ばすチャンスも広がってくると思います。
漢方については、特に漢方だから西洋医学の薬よりも安全だ、といったことはありません。また、自閉症に対する薬効ははっきりしていないと思います。

HACプログラムについては、下記リンクが最も有名なところだと思います。

http://homepage2.nifty.com/hac2001/

内容については詳しくありませんが、療育の方向性としては間違ってはいないと思います。
ただ、ABAやTEACCHなどと比較すると、それほどメジャーではなく、取り組んでいる方の人数も多くないんじゃないだろうかと思います。
Posted by そらパパ at 2012年04月19日 23:30
ありがとうございます。
『ゆっくり、じっくりと前に進んでいけばいい。』のお言葉に涙です(ToT)焦り過ぎていました。長期戦ですから、スタートでバテてしまっては、何にもならないですよね。
薬についてのご意見もありがとうございました。まずは睡眠障害克服を優先します。来週主治医の予約をとりました。投薬について相談したいと思います。
療育もじっくりと考え、色々と試しながら我が子に合うものを探して行きたいと思います。そらまめ式じっくり読んでいきたいです。
Posted by いっくんまま at 2012年04月20日 10:50
いっくんままさん、大変ですね。
 うちも、睡眠障害もー大変でした。
 たまたま、もともとの仕事が、当直とかあって、寝られないことにも慣れていたのですが、周りの、3か月になれば楽になるから、とか、1歳過ぎれば、とかいう言葉が、ホントに温厚な私も切れさせるぞ!と響くくらい、長丁場でした。上記コメにもありますが、もー、3歳半を過ぎた今でも10時半にならんと寝ないし、その前の儀式はつきっきりで1時間かかるし、昼寝も大仕事。適量のお薬は、きっと、いっくんも助けてくれますよ。
 大人の方が、寝ないと障碍出てしまいます。
 とはいえ、もしかしたら、いっ君が寝ても、ママさんは寝つけないかも。その時も心配しないでね。2年半頑張ってきて、そういうリズムになっちゃっているし、春はもともと不眠になりやすい時期なので、ママの睡眠リズムも半年くらいは取り戻すのにかかるでしょう。
 それでも、静かに横になるのは、コドモを案じながら戦うより、ずっと体にやさしい。
 杞憂かもしれませんが、もし、ママの方が眠れなかったら、寝る禅など、試してみてください。横になって考え事するのはよくない。
 何だか修行僧みたいですね(笑)でも、子育てしながら只で流行の修行(考えない練習?というベストセラーあり)できちゃうのは、お得かも。
Posted by しまなみ at 2012年04月24日 16:46
はじめまして。
 
今5歳になる自閉症、知的障害の子がいます。
3歳で睡眠障害の診断を受け、今年に入り
ようやくあう薬にあたり半年くらいは順調に
睡眠がとれていました。


ところが、季節が変わった10月現在
体調も少し前に崩しましたが。睡眠リズムが
薬を服用中にもかかわらず乱れていて
奇声もまた増えて夫婦で困っています。
だいたい薬を使う前から秋くらいから
冬場は睡眠が乱れていたのはあります。
ちなみに昨年暮れから癇癪を起すなど
睡眠がとれない上、癇癪に奇声・・・
本当に一時本当に辛くて辛くて大変でした。


季節の変わり目など睡眠に変化があったり
するのでしょうか?
睡眠が十分でないと子供もまるで別人の
ようになります。

どうかアドバイスお願いします。
Posted by マユ at 2014年10月04日 10:25
マユさん、

コメントありがとうございます。

子どもの睡眠障害は、親まで精神を消耗してしまいますから、本当に大変ですよね。

ところで、睡眠障害についてご相談いただきましたが、私は素人ですし、お答えすることは不可能だと思います。
かかりつけの医師に相談して、投薬の内容や量を調整してみる、ということを検討されてはいかがでしょうか。

我が家も、睡眠障害はありませんが、自傷やパニック傾向は強いので、投薬を続けており、常に医師に最近の状態を伝えてこまめに投薬内容を修正しています。

具体的にお役に立てず、申し訳ありません。
Posted by そらパパ at 2014年10月09日 20:27
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Tracked: 2006-02-07 16:33
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