2005年12月17日

脳から見たリハビリ治療(ブックレビュー)

いろんな本を読んでいます。
先日、いつものように書店の新書コーナーを眺めていて、目にとまった本がこれです。


脳から見たリハビリ治療―脳卒中の麻痺を治す新しいリハビリの考え方
著:久保田 競、宮井 一郎
講談社ブルーバックス

大脳生理学者である久保田氏、リハビリ専門医である宮井氏などによる、脳の機能回復に着目した最新の脳卒中に対するリハビリ治療の考え方について書かれた本です。
立ち読みして、何となく興味をひく部分があり、実際読んでみて面白かったのですが、改めて調べてみると、この久保田先生というのは、こんな本も書いていたんですね。


能力と意欲を伸ばす積極育児法―脳の発達期0~2才
著:久保田 競
主婦の友社ベビモブックス

これは、新生児に積極的に働きかけて脳の発達を促進しましょうという内容の子育ての本で、いわゆる英才教育に関心のある親御さんの間では有名な本のようです。87年刊「赤ちゃんの能力と意欲を育てる24カ月」の改題改訂版ということで、何と20年近く売れ続けているロングセラー。昨年の改訂により、最新の脳科学の知見による見直しが行なわれていることが期待できます。
残念ながら読んでいないので断定的なことは言えませんが、「お勉強」を詰め込むタイプの英才教育とは異なり、脳の発達段階に合わせた的確な刺激を与えることによって脳の発達そのものを促すという考え方に立っているということで、脳の発達障害により起こっている問題を解決するめにどんな刺激を与えればいいか、という療育のヒントになりそうです。機会があれば読んでみたいと思います。

さて、この本に戻りますが、予想されていた?とおり、自閉症の療育に直接役立つ記述はほとんどありません。そもそも自閉症の話題は一度も出てきません。療育のヒントを探るなら、恐らく上記の「積極育児法」のほうがまだ役立ちそうです。

ただ私は、「脳の損傷からの回復がどのようなメカニズムによるのか、その回復をサポートするために効果的なリハビリとはどんなものなのか」という研究には、実は、自閉症の療育にも役立つヒントが隠されているのではないかという期待を持っています。なぜなら、脳卒中のリハビリも自閉症の療育も、その原因が先天的なものか後天的なものかという違いこそあれ、脳の障害からの機能回復という面において同じベクトルを向いている部分があるからです。

実際、この本に書かれている、「リハビリで、療法士が手足の動きを的確にサポートすることによって、その的確な動きをするための神経回路が自然状態よりもずっと早くできあがる」といった研究成果は、同様に療育においても、問題のある行動に的確なサポートを与えたり、より多くの刺激を与えることによって、脳そのものを正しい方向に変えていけるのではないか、という期待を持たせます。
また、リハビリによる脳機能の回復や脳の可塑性の大きさを知るにつけ、やはり同様に療育による障害克服の可能性に期待するのと同時に、自閉症という障害が、単純な脳の特定部位の損傷というよりはむしろ、システム全体としての脳機能のなんらかの機能不全によるものに違いないという思いを強くします。

この本は、一義的にはリハビリ医療の本ですが、大脳生理学の権威が主たる執筆者として名を連ねていることから、脳科学、認知心理学の本としても興味深く読めます。純粋に科学的なリハビリの本というのも面白いですね。

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posted by そらパパ at 13:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする
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