2005年12月01日

環境の構造化と「非構造化」

家族旅行について、昨日は療育する側(親)から見た意味について書きました。
今度は逆に、子どもにとっての意味について考えてみたいと思います。

言うまでもなく、外出させて外の社会に触れさせることは、子どもにとって、成長し自活していくために必要な社会との関わりを学習するために欠かせないことです。つまり、子どもを連れて外出することは、子どもにとって必要な刺激を与える手段の1つだと言えます。

ところで、自閉症の子どもを日々の生活の中で療育するという視点から考えると、「刺激の与え方」には、相反する2つの要素がからみあっていることに気づきます。

1つは、分かりやすい刺激、不快でない刺激を与えること。

そしてもう1つは、より多くの種類の刺激を与えること。

この2つのバランスをどう取っていくのか、特に、自分が父親として、どうこの問題に関わっていけばいいのか、ということが、いつも気にかかっています。

コントロールされていない「通常の環境」は、自閉症の子どもにとって混乱と喧騒の耐えがたい世界だとよく言われます。自閉症児全員がそこまで苦しんでいるわけではないにしても、一般的にも、自閉症の子どもにとっては、配慮ある人間によって調整された環境、つまりTEACCHでいうところの「構造化された環境」が必要だ、ということは言えると思います。
そして親は、日々の生活・療育の中で、子どもが喜ぶこと・嫌がること・混乱すること・よく理解できることなどに徐々に気づいていき、子どものためを思い、子どもが喜ぶ刺激・よく理解できる刺激だけを与えるようになります。(ここには、これまで説明してきた行動分析の「強化」の仕組みも働いています。)
もちろん子どもにとっても、構造化された環境だからこそスムーズに状況が理解でき、能力を伸ばしていくチャンスが広がるわけですから、ここにはプラスのいいサイクルが生まれます。そのこと自体は積極的に推進していくべきであり、療育する親にとってもまず目指さなければいけない方向性です。

ただ、今の時点で子どもにとって分かりやすく快適な環境が、子どもの将来にとって常にベストの環境であるとは限らない、ということも、あわせて考えなければなりません。
「外の社会」は複雑さに満ちあふれ、慣れていかなければならない「不快な刺激」もたくさんあります。今、分かりやすく快適な環境を子どもに対して用意してやるのは、その快適な環境のなかで基礎的な「環境対応力」を身につけ、その上で徐々に、親が調整した「特別な世界」から、あるがままの「普通の世界」へ適応していく準備をしてほしいからでしょう。
卵の殻は、卵がかえるまでの間は外界から幼鳥を守るために絶対必要なものですが、最後、割れるべきときに割れなければ、幼鳥はそのまま死んでしまいます。「快適な環境」は子どもを守る「殻」であると同時に、子どもの発達を阻害する「殻」になるリスクもはらんでいると思います。

これが通常の子育てであれば、親が「快適な環境」を作ってやったとしても、やがてはその「殻」を子ども自らが壊し、より複雑な刺激を求め、外の世界に目を向けるようになるでしょう。それが精神的な成長であり、好奇心だと言えます。
しかし、自閉症のお子さんの場合、このように自ら「殻」を破って新しい刺激を求めるということは少なく、むしろ固定された環境に、望ましくない形でこだわる傾向さえあります。また、もともと自閉症児が好む刺激のバリエーションが少なく、「喜ぶ・分かりやすい」刺激というのが非常に狭い範囲に限られてしまう傾向もあります。

ですから、自閉症児の親の役割は、一度できあがってしまった「快適な環境」を、折に触れ、適度に壊していくことにもあると思うのです。固定されたパターンの破壊、怖がること・嫌がることに徐々に慣れさせること(感覚統合を含む)、構造化されていない環境への誘導、こういったことが、快適な環境づくりと同じくらい、重要です。「快適な環境での療育」が95%、残り5%を「構造化されていない・新しい環境への挑戦」という療育プログラムにあてるのです。これは、「環境は変わっていくものだ」という、非常に重要な認知、柔軟性を習得するためにも必要だと思います。
もちろん、やみくもに子どもを混乱させていいわけはなく、子どもが対応できるラインを見極めながら、できるだけ多彩な刺激を与えていく必要があることから、やはりこれも、「高度に知的な作業」です。

「そらまめ式」の発想では、この「壊し屋」という役割こそ、日々の療育の中で父親が果たすべき最も重要な役割の1つだと考えています。これにはいくつか理由があります。

1. 毎日の子育てに追われている母親にとっては、効率的に子育てのできる「もっとも快適な環境」を作り、その中で子どもを守り、育てていくことを優先することに合理性があること。
2. 「パターン化された日々の生活課題を教える人」と「パターンを壊して新しい刺激を与える人」は、別であったほうが(構造化されて)子どもにとって分かりやすいと思われること。
3. 「快適な環境」を壊されるのは、子どもにとっては一義的には嫌なこと。だから「悪役」である父親がその役割を担うべきだと思われること。
4. 一般的な子育てにおいても、「新しい世界に放り込む」という役割は、どちらかというと父親が得意な場合が多いこと。
5. 休日の外出やレジャーは、もっとも典型的な「新しい世界に放り込む」方法の1つであること。

この話題に関連した具体的なアクションプランについても、機会をみて書きたいと思いますが、ともあれ、今回の家族旅行は、娘に対して今までにないくらい大きく環境を動かす、新しい世界に放り込む試みだったと感じています。
今回の旅行の成功が、娘にとっても大きな成長のステップになったことを祈りたいと思います。
posted by そらパパ at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
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