2005年11月30日

家族のQOL(生活の質)について

温泉旅行がらみの話を少し続けたいと思います。

今回の温泉旅行を計画した後で、娘の精神状態?というか、寝つきやパニックの状態が思わしくない時期があったこともあり、妻は旅行が失敗するのではと心配し、中止したほうがいいんじゃないかとも言っていました。
そんな妻を説得し、同行する実家の両親には「うるさくて嫌な思いをするかもしれないから覚悟しておいて」と伝えて決行した旅行でしたが、幸い、夜もよく寝て騒ぐこともなく、大きな問題は起きずに無事楽しい思い出を残して帰ってくることができました。

この旅行はどうしても成功させたいと考えていました。それは、「家族のQOL」を向上させていくために、ぜひとも超えたいステップの1つだったからです。

子どもが自閉症だと分かって以降、私が特に強く意識していることの1つが、家族のQOL(生活の質)をどのように守り向上させていけばいいのか、ということです。
自閉症に限らず障害のある子どもを持つと、親の生活はどうしても制限されます。深刻なケースでは、家から一歩も外に出られない、といった場合もあるでしょう。24時間夜も眠れず振り回されて休むこともできないというのもよくある話だと思います。「日々の生活でやりたいことができない」というのは、QOLが危機にさらされている状態だと言えるでしょう。

私は、家庭での療育を進めるにあたって、療育する親・家族のQOLを上げていくことは、優先順位を上げて取り組むべきことの1つだと考えています。
これは、単に子どもを棚に上げて家族がラクをしたい、サボりたいという話ではありません。

自閉症の子どもの療育は、ある意味、高度に知的な作業です。パニックへの「経験則による対処」と「行動療法が教える適正な対処」が180度違っていたように、直感ではなく冷静な頭で考えて行動しなければ、うまく子どもの発達を助けてあげることはできないと思います。
そんな「頭を使う作業」を5年、10年と地道に続けていくためには、療育する側の親が精神的に健康で、知的好奇心が活発で新しい知識を吸収できる状態であることが絶対に必要です。親が精神的に疲れてしまっては、効果的な療育なんてきっとできないし、子どもを含めた家族が幸せに生きていくことも難しいと思うのです。

そんな考えに立ち、我が家の家族のQOLを維持・向上させるための優先事項として私が第一に考えているのが睡眠、次が外食です。(これが絶対というわけではなく、QOLに関して私が重要だと思うのがこの2つだ、という意味です。)
家族全員が夜ぐっすり眠れること、娘を連れて家族全員で外食ができること、この2つだけは何とか継続したい、そう思っています。

よく眠ることは、精神的な健康を維持する上で間違いなく最も重要なことです。
現在、お子さんの睡眠障害に悩まされているご家族の方は、本当に大変だとお察しします。そして、もしそうだとすれば、他の自助系のスキルの習得よりも、睡眠障害の克服を家族の最優先事項にすることを考えていいのではないかと思います。

うちの娘も、幼い頃は睡眠障害があり、夜なかなか寝付かない、夜中に何度も起きる、早朝起きて騒ぎ出す、といった問題を抱えていました。やはり実際、この頃は精神的には相当きつかった時期だったように思います。特に、起きるたびにこまめに世話をしていた妻にとってはそうだったでしょう。
我々が睡眠障害を克服するためにとった対応については後日書きたいと思いますが、現在の娘は、なんとかここ1年くらいは夜我々と同じ時刻に寝て、そのまま我々が起きるまでずっと寝ているというサイクルを身に付けさせることができています。今後も、発達の過程でこのリズムが崩れることがあるかもしれませんが、その時はまたこの課題を最優先にして取り組みたいと思っています。

次に外食ですが、これは「外の世界への窓」の役割があると考えています。自閉症児の子育てをしていると、周囲に迷惑がかかる、いたたまれない、子どもが興味を持たないといった理由で、子どもにとっても親にとっても社会から切り離されて閉じこもってしまいがちです。
これは親にとっては精神衛生上よくありませんし、子どもにとっては外の世界からの刺激を受けられないという問題につながります。
幸い、娘は食べることにとても関心が強く、好物を食べている間はおとなしくしていられるという強みがあったので、毎週週末は車で外出し、ランチは外食というパターンをずっと継続しています。娘と一緒に行けるレストランはある程度限られるので、さすがに毎週やっていると多少飽きてきますが、それでもこの習慣は続けていたいと思っています。たとえ行き先がファミレスやファーストフードであっても、それでも娘にとって必要な社会の刺激、家族にとってのささやかな気晴らしになっていると信じて、続けているわけです。

そして、今回の旅行です。
少し考えてみると分かりますが、旅行で失敗しない最大のポイントは、まさにこの「睡眠」と「外食」がうまくできること、これに尽きます。この2つさえ迷惑をかけずにできれば、まず車での旅行には支障がありません。今回2泊3日というこれまでにない長さの旅行に成功したことは、私にとっても大きな励みになりました。
あとは、長時間の「着席」ができれば、飛行機での旅行も可能になり、生活の幅がさらに広がりますね。一朝一夕には無理かもしれませんが、中期的な目標として、じっくり取り組んでいきたいと思います。
posted by そらパパ at 22:56| Comment(4) | TrackBack(0) | そらまめ式 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは、初めてHP拝見いたしました。ちょうど、家庭療法の見直しのためにパリで心理療法士に会って来たところに偶然貴HPをみつけて嬉しく拝見しています。
各療法についての本を買いたいものの、在仏ゆえに本屋で立ち読みすることもままならず、かといって全部フランス語で読むのかと思うと気が遠くなりかけていた私には貴書評はとてもありがたいです。
私の息子(日仏ハーフの4歳児)も自閉症です。
おっしゃるとおり、道のりは長いので、日々の生活の質を上げて、子どもとそれなりに楽しみながら生活を送っていくことはとても大切だと思います。
私は下準備として、いかにしたら私がイラつかないで気持ちよく子どもと過ごすことができるかを考えて、一昨年から車の運転を再開し、(道でいきなりわめきだすことが必然的になくなりました。車の中は安心できるらしく、大好きです。)去年には引っ越して、引越し以来、子供の睡眠障害は劇的に改善しました。(子ども部屋は完全2重窓プラス電動シャッターでほとんど無音で真っ暗。)

親が元気で機嫌よくいるということは生活の柱のように思います。

旅行は年に数回主にTGVを使ってしますが、(空港では2-3年前に大泣きされたため、敬遠中)去年の夏の時点では、ホテルでなかなか寝つかない、歩いてくれない、ホテルから出たところでわめく、部屋から出たがらないなどちょっと大変でしたが、今年の3月に本当に思いつきで主人の留守中に私と2人でTGVで2時間半のトゥーロンまで義母に会いに行き、3泊して戻って来ましたが、レストランでの食事を含めて、寝つきが悪いのと海から離れたがらず、わめく、以外は問題なく、今日もパリで2泊して戻ってきたところですが、友人たちとの外食(食べ終わって、席を離れてフラフラはするものの、泣いたりわめいたり邪魔はしない)長時間にわたる散歩を含め、去年に比べて大きな進歩で相変わらずしゃべらないものの、ちゃんと彼なりに育っているのだなぁと感心しました。
きっとそらまめちゃんも近いうちに飛行機OK、電車OKになられることと思います。
ウチの子は”自己の確立”ができていないらしく、私とまだどこか”統合=fusion”しているようで、私がすべての判断基準になっているようなふしがあります。ゆえに私が平然としていると、ちょっとパニくりそうになっても気を取り直して何とか乗り越えられるようです。
いつも平然としているというのもちょっと大変ではありますが、用意できることは用意して、過度に心配しない、万一トラぶったら、(ここフランスではよくトラぶります!)トラぶっても絶対どうにかなるから大丈夫なんだということを子どもに見せてやるようにこちらがパニくらないようにしようとだけ思っています。
今、気がつきましたが息子のことは何も考えずに今年の夏は飛行機で(しかも乗り換えあり)ドイツに行き、1週間滞在。その後どうやっていくのか未だ不明ですが電車だったら3時間以上、車だったら5-6時間はかかるところまで南下して2週間滞在する予定をたて、予約していました.....。ま、今回は夫もいますし、(ドイツは彼は仕事で昼間はいませんし、私はドイツ語はまったくダメですが)どうにかなるかと…。ま、ダメだったら、ダメなりに、その時できるように接しればいいかと。

長くなりました。またこちらの療法について、そのうちに書かせていただきますね。では、また。
Posted by Gabrielle at 2006年06月04日 08:25
Gabrielleさん、はじめまして。
フランスの方にまで読んでいただいているなんて、私もびっくりです。

・・・が、コメントを読ませていただいて、やっぱりみんな同じようなことに悩んでいるんだなあ、と共感しました。

公共交通機関や、ホテルなどの公共の場に出て行くのは、本当に覚悟のいることですよね。
フランスの「一般の人」の、自閉症児に対する反応はどうなんでしょうか? 理解はあるほうなんでしょうか? 興味があります。

外出といえば、我が家は最近は車ででかけてスーパーのフードコート(うるさくても誰も気にしない)で外食というのがお決まりのパターンになっていますが、そろそろまた家族で温泉にでもつかりに行きたいと思って、娘にちょっとしたトレーニングを実行中です。(そのうちブログにも書きたいと思います)

フランスの自閉症療育事情についても、また機会があったら教えてください。これからもよろしくお願いします。
Posted by そらパパ at 2006年06月04日 22:49
こんにちは。

コメントから新たに発見した記事の1つですが、とっても共感し、感動いたしました!

私は樹と一緒にどこかへ遊びに行くことが、一番のストレス発散なので、いつもどんな所にでも連れて行っていますが、時には、外出時に大きな失敗をやらかしてしまうこともあり、そんな時、『私って普通のことしようとしすぎなのかも・・・』と落ち込んだりしていましたが、この記事を読んで、家族のQOLを維持・向上させていくことが、家族の為にも、そして樹のためにもとっても大切なことで、もっと堂々と社会生活を楽しんでいいんだと、少し自信が持てました。

もちろん、上手くやるための準備や、失敗した時の反省は、充分した上でのことですが、これからも、もっとたくさんの経験をさせてあげると同時に、一緒に楽しみながら、ストレス発散もしていきたいなと思いました。

毎週末の外食もとってもいいアイディアですね!
Posted by いっくんママ at 2007年09月03日 16:29
いっくんママさん、

かなり古い記事にコメントをくださりありがとうございます。
そういえば、こんな記事も書いていたなあ・・と私も懐かしく思い出しました。

外食は、今でも頑張って続けていますが、さすがにファミレスは「待つ」ことができなくなって今は行けなくなりました。今は、マクドナルドと回転寿司、一部のフードコートあたりが一緒に出かけられる選択肢になっています。
いっとき、これらの店もダメなくらい待てない時期があったのですが、タイムタイマーなどを活用して少しずつ再チャレンジして、何とか現在の状況まで戻してきました。

そんな感じで、今でも「外食する」ということにはそれなりのこだわりを持って続けています。

もちろん、子どもと一緒にいろいろなところに遊びに行くことも続けています。
東京も、ものすごく暑い時期がようやく終わり、これからしばらく外で遊ぶのにいい時期になりそうです。
Posted by そらパパ at 2007年09月03日 23:16
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