2013年08月27日

マルドゥック・スクランブル(まんがレビュー)

久しぶりに、月曜以外のブログ更新をしたいと思います。

いま、障害をとりあつかった作品として注目されている作品の1つとして、週刊少年マガジン連載中の「聲の形(こえのかたち)」があります。


↑リメイク読みきりで今年春に掲載された「聲の形」。

これは、聴覚障害の少女と、その少女をいじめる少年を描いたコミックで、さまざまな紆余曲折をへて、現在の連載にいたっています。
(その辺りの経緯については、たとえばこちらの記事などを参考にしてください。)

私も、先日の読みきりが話題になって読んで以降、この作品には興味を持っていますが、その流れのなかで、この作品の漫画家にとってこの連載は連載2本目であり、「1作目」の連載作品も非常に高く評価されていることを知りました。

それが、この「マルドゥック・スクランブル」です。すでに完結していて、コミック単行本で全7冊で読めます。


マルドゥック・スクランブル コミック 1-7巻セット
大今 良時
講談社

この作品には原作があり、原作もSF小説として高く評価されているようです。(原作は何度もセルフリメイクされているようですね。下記は最新バージョンです)


マルドゥック・スクランブル 完全版 第1巻~第3巻(原作小説)
冲方 丁
早川書房

この作品、かんたんに言うと、ある組織のトップに殺された少女がサイボーグとなって復活し、復讐のために戦うという、バイオレンス系アクションSFコミックです。

途中からなぜかカジノでトランプ勝負が延々と続くギャンブルまんがになったりするのですが、途中でだれることなく最後まで高いテンションを保って一気に読めます。
青年コミックのSF作品としては、設定を複雑にせずにシンプルで分かりやすいものになっているのも個人的にはとても良かったです(複雑なのは頭がついていかない(^^;)ので)。

すごいなあ、と思うのは、たいていこういうややライトノベル寄りのSF作品のコミカライズって、まあ言っては悪いですが作画は割とラフな感じで、アクションシーンとかは十分に描ききれずにストーリーを追うことが中心になるか、逆に作画がすごいと言われてる作品は設定も非常に複雑で、とても気軽に読めるものじゃなくなったりする、というのが個人的な印象なのですが(かなり偏見入ってるかも(笑))、この作品は、「ストーリーをどんどん読ませる」タイプでありつつも、作画にも妥協がなく、細かく描き込まれている点です。
特にアクションシーンの躍動感と迫力はかなりのもの。
これがプロとしてのデビュー作とは思えないほどの完成度です。

また、ヒロインの少女には非常に屈折した過去があり、その過去を克服して未来に向かっていく「成長」も作品のなかでしっかり描かれています。


↑「マルドゥック・スクランブル」の1シーン。

私はこの作品を読んで、大今先生の実力について確信しました。
連載中の「聲の形」についても、安易な感動路線やステレオタイプに落ちる路線、お説教路線、キラキラ路線には決してならないだろうと思いますし、より強く期待できる気持ちになりました。

なにか適度にまとまった面白い長編コミックがないかな、という方にもおすすめできます。
よかったら読んでみてください。
posted by そらパパ at 22:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする

2013年08月26日

あたし研究2(ブックレビュー)

当ブログ殿堂入りの本、「あたし研究」の続編が出ました!

【送料無料】あたし研究(2) ...

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価格:2,100円(税込、送料込)


あたし研究2
小道 モコ
クリエイツかもがわ


↑2冊並べてみました。ほとんどの本を自炊してしまった我が家で残っている数少ない「紙の本」でもあります。

前作は、アスペルガー症候群の著者が、毎日の生活で感じている違和感、困難、周囲と異なる自分の認識傾向、そしてそのギャップを乗り越えて毎日を前向きに生きていくための工夫や考え方などを、著者自身の描くイラストと記事で紹介・解説し、さらにそれらとは独立したコラムとして著者の主治医の(より障害特性として一般化した)解説がはさまれる、という、非常にユニークな構成の本でした。

特にポイントは、「著者自身が描くイラスト」というところですね。

こういった、障害当事者自身がその障害について語る、いわゆる「当事者本」は、そこで語られるエピソードを過剰に一般化しないこと、そして当事者以外の第三者がヘタに「解釈」しないこと、この2つがとても重要だと私は考えています。

そのあたりは前作のレビューでも書いたところですが、あらためて簡単にまとめれば、次のようなことです。

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする

2013年08月19日

プロチチ(3)(マンガレビュー)

マンガとしては面白いです。が…


プロチチ(3)
著:逢坂 みえこ
イブニングKCコミック(講談社)

コミック単行本が発売になって話題になっていたのは少し前でしたが、ちょっと機会を逸して買いそびれていました。
ようやく先日、たまたま書店で見つけて買うことができましたので、さっそくレビューしてみたいと思います。



既にこのシリーズをお読みになっている方はご存知だと思いますが、このマンガは、主人公がアスペルガー症候群の男性で、人生でさまざまな失敗・苦労をしつつも理解ある女性と出会い、結婚して子どもを授かって、仕事をやめて主夫として子育て・家事に打ち込んでいく(その後アルバイトを始めて「兼業」主夫になりますが)、というストーリーの「育児マンガ」です。
タイトルの「プロチチ」というのは「Professional Father」というところからとられています。

もともと、既成の価値観にとらわれない、新しい生き方をずっとマンガで表現してきた「逢坂みえこ」さんが、これまでにない子育てマンガ、障害をモチーフにしたマンガを世に問うたということで、登場以降、発達障害・自閉症療育界隈でも大きな話題となっている作品ですね。
まだ社会的に明確に「認知」されるようになってからそれほど時間がたっているとは言い難い「大人の発達障害」をいちはやく作品に取り入れて、しかもピントがずれたり誤解が混ざったりせずにかなり本質をついた鋭い作品になっているあたり、さすがに実力派である逢坂みえこさんだなあと感じさせる内容になっています。

さて、このコミックシリーズ、第1巻はひたすら、フリーダムにトラブルが起こり続ける「赤ちゃんの子育て」と、決まったパターンからの逸脱やアドリブ的対応がものすごく苦手なアスペルガー症候群の父親とのぶつかり合いが描かれた「100%子育てマンガ」でした。

そして第2巻になると、主人公は「子育て」の経験のなかで自分の存在意義を感じて自信を回復し、改めて(かつて挫折した)外の世界に出て行くことを決意し、子どもを保育所に預けて書店でアルバイトを始めます。そしてそのなかで、子どもも保育所という「外の世界」に出て行くことになります。子どもを保育所に預けながらバイト(パート)で働く、という(母親視点だと割とありきたりな)イベントを、アスペルガー症候群の父親の視点で描いた(もちろんトラブルだらけなわけですが(笑))のが、この第2巻ということになります。

そして、いよいよこの第3巻です。

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:15| Comment(3) | TrackBack(0) | 雑記 | 更新情報をチェックする

2013年08月12日

NOといえる(ようになる)療育 (12)

1回ブックレビューをはさんでお休みしましたが、こちらのシリーズ記事を改めて続けていきたいと思います。
このシリーズ記事の後半では、「しない」ということば(拒否の意思表示)を活用したコミュニケーションがなぜ「難しい」のかについて、さまざまな角度から考察しています。

前回のエントリで、「しない」というコミュニケーションを教えるときは、それ単体を教えるのではなく、「する(したい)」というコミュニケーションとセットで教える必要があること、その2つのコミュニケーションをセットで療育することで、この療育は「分化強化学習」となること、そして、この分化強化学習を成功させるカギの1つは、「子どもが言ったとおりに反応する(子どもがすると言ったら必ずその行為をさせて、しないと言ったら必ずその行為をさせない)」ことで、強化と弱化(消去)の「エレガントな関係性」を最大限活用することにある、といったことを書きました。

この「しない(やりたくない)」と「する(したい)」の分化強化学習を成功に導くために考慮しなければならないことを、あといくつか考えてみたいと思います。

まず大切なこととして、

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:03| Comment(4) | TrackBack(0) | 娘の話 | 更新情報をチェックする

2013年08月05日

広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)(ブックレビュー)

たまたまツイッターのTL上で知った本ですが、これはなかなかすごい。
他のどの本にも載っていない内容が書かれた、とても貴重な本だと思います。


広汎性発達障害児への応用行動分析(フリーオペラント法)
著:佐久間 徹
二瓶社

まえがき
第1章 広汎性発達障害について
 診断について
 人は学習によって人になる。しかし教育はセレクトしかしてこなかった
 「できの悪い子は落第」から「幸せ追求の支援」へ
第2章 応用行動分析の登場
 どうして行動療法は悪評まみれだったのか?
 応用行動分析(ABA)とは?
 ソーシャルスキルトレーニング(SST)
 ちょっとばかり付け加えます
 ロバースの行動療法
 ロバース手続きの改善
 私自身のスタート
 われわれは学者じゃない
 オペラント条件づけによる行動変容のカギ
第3章 フリーオペラント法実施への補足
 徹底的な甘やかし
 わがままが酷い例
 わがままと困難克服とは同一の行動パターンである
 自立の催促は無用
 くすぐり刺激
 皮膚刺激
 静かな抱っこ二十分
 逆模倣
 指導の優先順位
 喃語の発生頻度がその後の言語発達を大きく左右する
 単語が出だしたら
 ことばは意味を知っていても、発音がちゃんとできても、話せない
 構音障害
第4章 不適応行動への対応
 他傷行動、暴力行為
  1.思い通りにしたいための他傷行動
  2.嫌なことの回避手段としての他傷行動
  3.注意引きのための他傷行動
  4.試しの他傷行動
  5.フラッシュバックの他傷行動
  番外
 自傷行動
  1.人の存在が無関係な自傷行動
  2.苦痛の緩和手段としての自傷行動
  3.なんともお手上げの自傷行動
  4.人の存在が必須条件の自傷行動
 固執、こだわり行動
 五感のアンバランスによる不適応行動
 その他さまざまな不適応行動
 おしっこトラブルの解決策
  おねしょ
  具体的解決策その一
  具体的解決策その二
  具体的解決策その三
  具体的解決策その四
  トイレ排尿の困難
第5章 発達障害児をめぐる諸問題
 医師の診断について
 発達検査について
 児童相談所について
 民間施設について
 保育所、幼稚園について
 小学校について
 いい先生について
 お金と趣味について
まとめ


著者は「あの」久野先生のお弟子さんなのだそうです。
それを知っただけでも本書への期待が高まりますが、実際の中身はその期待通り(いい点も悪い点(笑)も)で、ものすごく個性的な本に仕上がっています。

ちなみに、本書はこの手の本としては定価840円(税込)と、びっくりするほど安いのですが、実物が届くと少し納得します。サイズ、ボリューム感が「新書」のそれなんですね。
コンパクトなので、短い時間でさっと読めて、繰り返し読み返せます(そして恐らく、繰り返し読み返すに値する本です)。

ところで、最初に、本書に関する非常に重要なポイントを指摘しておきます。
それは、この本が主に対象としている療育対象が、どのようなお子さんであるか、ということです。

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 20:39| Comment(14) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

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