2012年07月30日

ライブ・自閉症の認知システム (29)

このシリーズ記事は、かつて石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。
長く続けてきたこのシリーズ記事ですが、今日の記事でようやく終わりです。

page27.gif
Slide 27 : おわりに

以上で、今日用意させていただいたお話は終わりになります。
長い間おつきあいいただき、ありがとうございました。

今日お話しさせていただいた内容でお分かりのとおり、私は、療育について、ウェットかドライかといえば、かなりドライな立場をとっているということになると思います。

私は、療育のなかに「こころ」という考えかたを導入する必然性は、ないと思っています。

でもそれは、自閉症児にこころがないとか、そういう情緒的な議論ではまったくなくて効率的に療育したいなら、狙うべきポイントはそこじゃないですよ、ということを言っているにすぎません。

なぜなら、私たちは「こころ」とはどんなものなのかについて実はよく分かっていないですし、脳科学も心理学も、それに対して明確な答えを出しているわけではないからです。


続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする

2012年07月23日

ツイスト キッチンタイマー(グッズレビュー)

Twitterで話題沸騰(笑)の「タイムタイマーっぽいキッチンタイマー」です。
ほんとうにタイムタイマーの代替品になるかどうか、届いたのでさっそく試してみます。


Twist アナログ ラバーキッチンタイマー

この商品が話題になったきっかけは、このツイートからでした。
タイムタイマーもどきのキッチンタイマー。924円。 pic.twitter.com/wVBjiSF8

このツイートを見て、これはタイムタイマーそっくりで、しかもとても(本家より)安い、ということで、多くのフォロアーの方がAmazonに殺到しました(私もその1人です)。
それでAmazonの在庫がなくなってしまったわけですが(笑)、注文を入れておけば、おそらくすぐに入荷されることと思います。

ちなみに、本家タイムタイマーはこちら。

タイムタイマー

値段がだいぶ違いますね。
(ただ、後で触れますが、さすがに専用の機器だけあって、よくできています。このタイムタイマーの値段が「高すぎる」ということは決してないと思います。)

我が家でも、この「タイムタイマー」を使っていました。
ただ、耐久性がそれほどでもないために故障してしまい、それ以降は、自作の電子タイマーを使っています。

今回、この「タイムタイマーもどきのキッチンタイマー」が手に入ったので、「本家」のタイムタイマーと比較しながら、レビューしてみたいと思います。


↑パッケージ。本体と1枚ペラの説明書が入っているだけの超シンプルな梱包です。

今回、私が買ったのは黒のモデルです。

最初にパッケージを見て思ったのは、「小さい!」ということです。
タイムタイマーよりも一回り小さい印象です。


↑左から、スマートフォン(4インチ液晶)、タイムタイマー、今回のキッチンタイマーです。

タイムタイマーが一辺約7.5cmの正方形(自立のための足の部分が5mmほどあるので、実際には7.5cm×8cm程度)なのに対して、このキッチンタイマーは、直径約6cmの円柱形をしています(奥行は3.5cmくらい)。
円柱形をしていて「足」がないので、このキッチンタイマーは、文字盤が垂直になる方向で自立しません。ころころと回転してどこかに行ってしまいます。文字盤が水平になる方向(つまり文字盤を「寝かせる」向き)で置かないと止まってくれないわけです。

で、じゃあ実際に時間をセットして試してみよう…と思ったら、どこを持って回したらいいか分かりません。
文字盤面はアクリルか何かの透明な板でカバーされていますし、サイドにもねじるための切れ目などが一切ありません。
一応、背面を手のひらを強く密着されて固定し、その状態でサイドの円柱部分を回せばタイマーは回るのですが、こんな風にしないと回せないのでは、あまりにも操作性が悪い…

と思って説明書を見てみたら、どうやらこのタイマー、基本的には「冷蔵庫に固定する」というのが正しい使い方のようです。



このタイマーの裏面は前面マグネットになっており、平らな冷蔵庫などの金属面に貼り付けると、ぴったりとくっついて固定されます。
この状態でタイマーのサイドの円柱部分(ラバーコーティングされており、滑らずにもてます)を時計回りにひねると、ずれずに簡単に回せてタイマーの時間をセットできるのです。


↑タイマーの裏面はこんな感じになっています。この裏面全体がマグネットになっており、金属面にがっちり固定できます。

うーん、この部分は、使いやすいんだか使いにくいんだかよく分からないなあ(笑)。
でも、たしかに冷蔵庫に貼り付けると非常に簡単に時間がセットできますが、貼り付けなくても、少し慣れればセットするのはそんなに難しくありません。(ただ、小さいお子さんが自分でセットするのは難しいかも。)

ともあれ、タイマーをひねると、文字盤の上に「赤いフィルムの帯」が出てきます。
この「赤い帯」が、残り時間を意味しており、時間がたつにつれて「帯」の領域がなくなっていき、領域がすべてなくなる=予定の時間になるとベルがなって時間の到来を知らせる、というシステムは、タイムタイマーとまったく同じです。

一方、タイムタイマーとの違いということでは、まず大きな違いとして、「タイマーの回転方向が逆」ということに気づきます。

タイムタイマーの「赤いフィルムの帯」は反時計回りに出てきますが、このキッチンタイマーでは時計回りに出てきます。直感的には、こちらのキッチンタイマーのほうが時計と同じ向きなので分かりやすい気がします。

次に、タイムタイマーは時間の経過中は無音ですが、このキッチンタイマーはかなり大きな「コチコチ音」がします(意図的に音が大きくなるように作られているように感じます)。
2mくらい離れていても普通に聞こえます。これは、近くにいると集中力をそがれてしまうリスクがちょっとあるかもしれません。

そして、タイムタイマーで時間が到来したときのアラームを鳴らすには電池を入れておく必要がありますが、このキッチンタイマーは、タイマーそのものを動かしているゼンマイの力それ自身を使ってベルを鳴らしています。
このため、電池要らずなところはありがたいですが、代償として「セットした時間がくる30秒前に鳴ってしまう」という現象が起こります。

これは逆にいうと、2~3分といった短い時間をセットする場合には誤差が大きくなりすぎるので向いていない、ということにもなるかと思います。

ちなみに、時間計測の精度も測ってみましたが、私に届いた個体の場合、およそ30分でセットして、29分20秒くらいで鳴ったので、ゼンマイ式のタイマーとして十分な精度だと思います(先にも書いたとおり、指定時間の30秒前に鳴る仕様なので、29分20秒で鳴ったということは誤差は10秒です)。

ちなみに、商品名に「ラバー」とありますが、本体のサイド面が、全面的にラバーコーティングされていることを意味しています。
ラバーといっても、単なる薄いコーティングですから、クッションになるほどの厚みではなく、落としたときの耐久性は(落としていませんが)それほど高いようには見えません。ごく一般的な「ゼンマイ式キッチンタイマー」と同程度の耐久性と思われます。

…というわけで、いろいろいじってみましたが、結論としては、タイムタイマーの代わりになるか?と言われれば「値段の割にはちゃんとタイムタイマーの代わりになりそうだけど、欠点もある」というのが答えになると思います。

値段が「本家」の数分の1というのは、確かに大きな魅力です。
タイムタイマーを試してみたいけど、本当に子どもに分かってもらえるか分からない状態で買うには高額すぎる、と感じられている親御さんは、まずこのキッチンタイマーでお試ししてみる、というのはとてもいいアイデアだと思います。
アラームの動力に乾電池を使っていないので、アラームを鳴らすのに電池切れの心配がない、というのも本家よりも優れている点です。

一方で、自立しないコチコチ音がする、冷蔵庫に貼り付けない場合は時間のセットが少しやりにくい本来のセット時間より30秒早い時間にアラームが鳴ってしまう、など、本家タイムタイマーにはかなわない点もいくつかあります。
このあたりは、やはり元来は「キッチンタイマー」であることから来るニーズの違いなのでしょう。

安くて気軽に使える今回のキッチンタイマーと、高額ではあるものの療育のニーズをしっかりと押さえた「本家」のタイムタイマー。

うまく使い分けていくのがいいと思います。
使い方次第では、安くてとても役立つ、いい「タイムタイマー代替品」です!
posted by そらパパ at 20:21| Comment(0) | TrackBack(0) | オリジナル教材 | 更新情報をチェックする

2012年07月16日

沓掛時次郎(劇画・長谷川 伸シリーズ)(まんがレビュー)

普段、時代ものなんて読まないんですが、これは楽しめました!


沓掛時次郎 (劇画・長谷川 伸シリーズ)
著:小林 まこと、原作:長谷川 伸
講談社 イブニングKC

当ブログの以前のエントリにいただいたコメントでこの本を知り、さっそくAmazonで買ってみました。
それにしても、こういう新刊じゃないコミックを買ったりするときは、Amazon最強ですね。廃版になったものもマーケットプレイスで安く買える場合が多いし、ヤフオク以上に入手性が高いと思います。

届いた本は、コミックとしては相当な厚み。サイズも大判ですし、かなりの迫力です。


↑大判400ページの大ボリューム。

表紙には、中央に大きくタッ君(らしき着物の少年)が描かれており、物語のなかでも重要な役割を演じてくるであろうことが期待されます。

表紙を見て分からなかったのが、下の方にものすごくたくさんの名前が並んでいることで、最初は、このまんが1冊にこんなにたくさんの人が制作に関わっているの?と思ったのですが、そうではなくて、このまんががいわゆる「スターシステム」をとっていることを端的に示したものでした。

つまり、このまんがに出てくる登場人物のほとんどは、作者である小林まこと氏が過去のいろいろなまんがに登場させたキャラクターを意図的に「使い回して」いる、ということです。

同様の手法というと、手塚治虫がいろいろなまんがにチョイ役でヒゲオヤジやブラックジャックを出したりするのが有名ですが、主要な登場人物をすべて使い回している「沓掛時次郎」のほうがはるかに本格的ですね。
その「スターシステム」採用のおかげで、「タッ君」もふたたび登場することができた、とも言えるかもしれません。

さて、肝心のストーリーですが、この「沓掛時次郎」というのは「股旅物」と呼ばれるジャンルの有名な戯曲のようで、1928年に発表されてから、8回も映画化され、テレビドラマになったりもしているそうです。
ちなみに、このまんがを読み終わってから、映画作品のあらすじなんかもネットで見てみたのですが、さすがに全然別物ですね。
「本来、仇であるはずの男と子連れの女が旅を供にし、許されがたい恋が芽生える」みたいな話の骨格を除いて、ストーリーは大幅に脚色されているようです。

そしてこのまんがにおける「脚色」の最たるものが、重度知的障害を伴った自閉症の少年である「タッ君」を、ヒロインである「おきぬ」の息子として登場させている、ということになるでしょう。

さらに驚くべきことは、この「タッ君」が社会のなかに役割をみつけ、大人になっていく「成長のプロセス」が、ストーリーの一角を占めているということです。
特に、エンディングがあんな感じに展開したのには、かなりびっくりしました。


↑ネタバレになってしまうのでぼかしを入れましたが、「大人になったタッ君(太郎吉)」が登場するワンシーンです。

ネタバレになってしまうとつまらないので、あえて細かいことは書きませんが、このまんがは、自閉症児であるタッ君をメインキャラクターの一人に入れたことによって、言い方は悪いですが「ちょっと古くさい時代物」であったであろう原作に対して、一気に現代的な要素、問題提起の色彩を帯びさせることに成功しているように思われます。

まあ、率直なところをいえば、タッ君みたいなこどもが本当にこのまんがのような斬った張ったのヤクザなこの時代の環境におかれて、こんな風に無事でいられる可能性は低いだろうな・・・とは思いますが、時次郎がそんなタッ君(この話のなかでは「太郎吉」)を文字通り命を賭けて守る姿には感動させられます。

当然ですが、この本を読んで療育がどうこう、というまんがではまったくありませんが、作者・小林まこと氏の、障害ある子への暖かい視線が感じられる、読んでいて心が暖かくなるまんがでした。
「療育に関係ない」と書きましたが、実は、タッ君が「役割を見つける」プロセスには、自閉症児ならではのこだわりのなかにその「役割の芽」をみつけ、長い目でじっくりとそれを育てていく(短期的な視点でむやみに禁止したりしない)という、療育のヒントにつながるような要素も描かれていて、そこもちょっとびっくりするところだったりします。
(ちなみに、もちろん今回も小林氏の「自閉症児の描写」は完璧で、実にリアルです。なんか娘をみているよう(笑))

まあ、ストーリー自体は基本的には悲げ・・・ゴホンゴホンこれ以上はネタバレなのでやめておきます(笑)。
純粋に時代劇まんがとして楽しめる作品でもあるので、まんがが好きな方は試しに読んでみてもいいのではないでしょうか。

※その他のブックレビューはこちら
posted by そらパパ at 21:21| Comment(2) | TrackBack(1) | 療育一般 | 更新情報をチェックする

2012年07月09日

ライブ・自閉症の認知システム (28)

このシリーズ記事は、先日、石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。


Slide 26 : 書籍のご案内(再掲)

今回のお話と関係のある書籍を、いくつかご紹介させていただいています。

それから、一般化障害仮説の図で、「道具」とか「ニッチ」とか「からだの拡張」といった視点から環境をとらえる考えかたが出てきました。
今回のお話の中では、このあたりについてはほとんど掘り下げることができませんでしたが、こういった視点から、環境と、そこに生きるヒトや生き物をとらえる考えかたは、「アフォーダンス理論」というものと関係しています。
以下の2冊が、この「アフォーダンス理論」についての本になります。


アフォーダンス-新しい認知の理論
エコロジカル・マインド―知性と環境をつなぐ心理学

続いて後半の話題についての本です。

後半、最初にお話しした、家庭での療育をプロジェクトととらえて、お父さんにリーダーになってもらいましょう、という話題ですが、これを書いたのが、私の2冊目の本、ぶどう社さんの『自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト』になります。


自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 21:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする

2012年07月02日

ライブ・自閉症の認知システム (27)

このシリーズ記事は、先日、石川にて行なわせていただいた講演の内容を、ダイジェストかつ再構成してお届けするものです。


Slide 26 : 書籍のご案内

最後に、今日お話しした話題と関係する本をいくつかご紹介したいと思います。

普段、こういったお話のあとにご紹介する本は、自閉症とか療育に関係するものが多いんですが、今回は私が書いた本を除いては、どれも自閉症や療育とは直接関係のないものばかりになります。

今日最初の話題は、私たちが素朴にイメージする「こころ」というのは、実は矛盾に満ちたものだ、というお話でした。
これについては、「心の哲学」という分野の本が関係してきます。
心の哲学については、読みやすい本を3冊ほどご紹介します。


心の哲学入門
ロボットの心-7つの哲学物語
心理学入門一歩手前-「心の科学」のパラドックス

次に、自閉症の人は、一般化という脳の情報処理のしくみがうまく働いていないのではないか、という私の仮説、「一般化障害仮説」についてお話ししました。
この仮説について書いているのが、私の1冊めの本、新曜社さんの『自閉症-「からだ」と「せかい」をつなぐ新しい理解と療育』になります。


自閉症-「からだ」と「せかい」をつなぐ新しい理解と療育

今日お話ししたよりもぐっと掘り下げて書かせていただいていますので、興味をお持ちいただけたら、ぜひお読みいただければと思います。

続きがあります・・・
posted by そらパパ at 20:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 療育一般 | 更新情報をチェックする
子どもが自閉症かもしれない!どうしよう!という親御さんへのアドバイスはこちら
孫が自閉症らしい、どうしたら?という祖父母の方へのアドバイスはこちら

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自閉症関連のブックレビューも多数掲載しています。

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